LOGINこんな可愛い子、自分の周辺にいない。
顔小さいなあ、人形みたいだ。流星に雷が落ちた理由はこれだ。
初めて芸能人に会ったような、同じ人間ですか?と思うぐらい、顔が小さいのにパーツが大きくて体は華奢だ。写真よりは大人になっていたが、可愛らしさが美しさに変わっただけだった。
まっすぐな肩を過ぎたところまで伸びたストレートの黒髪。
真っ黒なぱっちりした目に長いまつ毛。 日焼けしていない白い肌。これは、芸能事務所も動くわ……
そう納得する顔立ちだ。
その反面、人形のように表情がなく、まるで陶器の肌かと思わせる血色のなさ、痩せ細った首筋に、人ではないような薄気味悪さも感じていた。
生きた日本人形のような雰囲気だ。「突然伺って申し訳ありません。私はA県の幕田警察署の者です。実は、あなたがかつて未解決事件を解決されたことがあると思うのですが、その時の事をお伺いしたかったのです」
流星が、瞳に思わず見惚れている横で、川村は淡々として表情を出さない。
まるで事件の聞き取りのためにやってきたかのようなふりをして、警察手帳の表紙をちらっと見せる。(へぇ、さすが川村係長!そう言われたら、当時の自分の能力の話をせざるを得ないもんな)
流星も、真面目そうな顔をして、同じようなふりをする。
それを見て、瞳は流星をじっと見た。
「あなたタバコ吸ってる?」
「え!俺はタバコは吸わないよ」
突然の瞳からの問いかけに、流星は慌てて手を振って吸っていないと答え、川村を見る。
「私は、電子タバコだけど……」
川村も、情報屋からタバコを要求されることもあるが、まさかこの子が?と目を丸くさせながら、驚きの顔を隠せない。
「それでいい。貸して」
川村に、瞳は怯む事なく要求する。
「え?いや、電子だよ。新しいカートリッジをセットしようか?」
電子タバコは、本体とは別にカートリッジがなければ吸う事ができない。川村が提案したにも関わらず、瞳は首を横に振って、不要だと断った。
「大丈夫、吸うわけじゃないから。あなた達が本当に警察なのか確認がしたいの。その手帳を貸してとは言えないでしょう?」
瞳は、流星と川村から視線を外さない。
「これで……私たちが警察だと分かるのか?」
そこまで言うなら仕方あるまいという顔で、手帳を入れていた場所と同じ胸ポケットから川村はしぶしぶ電子タバコを出す。
瞳は、川村の動きの一つ一つから目を離さなかった。
そして、窓の柵の隙間から川村が片手に収まるサイズの電子タバコを渡すと、瞳はそれを持ち二人の前で目を閉じた。
少し眉をひそめ固く目をつぶったまま立ち、拝むようにタバコを自分の額に近づけ、身動き一つしない。
突然始まった能力の開示に、二人は目を彷徨わせる。
(ええと……どうしたらいいんだ?)
流星は、その間に少し薄く開いた窓から中の様子を伺った。
古びた板の床に、敷物ひとつない。
家電や生活必需品のひとつも見えず、相当苦しい生活をしているようだ。瞳がパッと目を開き、無表情で話し始める。
だが、内容はギョッとするものだった。「あなたは、川村って呼ばれてる。本当にA県警の警察……今日は、久保田課長が予約してくれた山川温泉の華月旅館に宿泊予定」
瞳はそう言って、電子タバコを川村に返したのだ。
そうなると、流星も川村も目を見開き、口をパクパクするのみだ。名前言ってないよな?
手帳はわざと中身を見せなかったし…… どこに泊まるかまでわかるのかよ!お互いに会話しなくても思っていることが一緒だという自信がある。
「何を調べて欲しいの」
瞳は、無機質な声で流星たちに条件を提示して来た。
「ここの家賃、たまっている分……支払ってくれるならしてもいい」
「家賃……」
ごくっと息を飲み込んで、いくら?と流星は小さな声で聞く。
「6か月分、18万……」
依頼料18万?
それはぼったくりだ!
そういえば、久保田課長に依頼費のこと相談しなかった! どうせ受けてくれないだろうと思っていたからな。どうしますか?
流星が目くばせすると、川村は軽く横に首を振り、ここは俺に任せろというふうに話を切り出した。
「依頼料か。我々は公の職務なので、一般の方には協力をしてもらっているんだ、タダは無理か?」
そういいつつ、川村は少し後ずさりしながら、彼女と距離をとりつつ聞いている。
先ほどのタバコだけで自分の素性を言い当てたのだから、気持ち悪いという気持ちもあって当然だろう。
彼女から、俺はどんなふうに見えているのかな?そう思った流星は、少し倉坂瞳という女性に興味が出てきた。
だが――
「タダは受けないというか、有料でも普段は受けない。今日は事情があって緊急……」
「だが、占いの一種に18万は高すぎだ」
川村は、眉を顰めて軽蔑するような目で瞳を睨んだ。
「どうしますか?課長に確認しますか?」
流星がこそっと声をかけると、川村は首を横に振った。
「申し訳ないが、お金を支払うことはできない。確実な証拠や証言をしてくれる人にだって、タダで協力してもらっているんだ」
「……わかった。では」
瞳は、それを聞いて抵抗するでもなく、そのまま無表情で窓を閉めようとする。
「あ、待って!一応名刺を渡しておきたいんだ」
流星はカバンから名刺入れを取り出そうとしていた。
だが、川村はそれを待つこともなく、断られると同時にもうコーポの階段を降りて去ろうとしている。カンカンカン
川村が去っていく金属の階段の音に、待つ気はないのかよ!と流星は慌てる。
だが、流星は川村が去り、段々冷静になってきた。
瞳からしたら一方的に男二人がやって来て、身元すら明確に表示せず、ボランティアでお前の持っている能力を使って捜査に協力しろと言われているのだ。
ましてや、過去にも、瞳は警察から理不尽な対応を受けたことを知っている。
これは、流石に失礼だという自覚が流星にはあった。「あ、あの……協力してもいいと思ったなら、明日までは君が言い当てた山川温泉の華月旅館に確かにいるんだ。君すごいね。本当に言い当てるんだ……」
なんとか、会話で繋ごうと試みるが……
「そう……」
瞳は、淡々と答えるのみだ。
それでも窓を閉めようとはしなかったので、流星は安心して名刺入れから自分の名刺を取り出した。瞳はそれを窓から受け取り、じっと名刺を見つめる。
そして少し息を吐いた。
目線を流星に合わせ、そのままゆっくり窓に顔を近づけてくる。そして、その口が軽く音を立てずに動く。
「え?何?」
慌てて彼女の口元に耳を寄せる。
すると――
「川村って男……気をつけて……」
瞳はぼそっと呟いた。
「えっ!」
思わず聞き返そうとするが……
それだけ言って、パシンと窓は閉められた。
悠介の逆上した怒りの拳は瞳の顔を捉えた。(ああ……やっと額の傷が治ったばかりだったのに……)そんなことを思うより、激しい衝撃と共に痛みと熱さが襲ってきて、視界がブラックアウトした。ただ、意識を失った時間はさほど長くなかったようだ。「瞳さん!起きて!しっかりして」必死に自分の名前を呼ぶ奈央の声と涙でぐじゃぐじゃになった顔、そして瞳は煌々と光るラブホテルの客室パネルの前で横たわっていた。せっかくの伊達メガネは歪んで壊れ、帽子も吹っ飛んでいる。ホテルの従業員も出てきて、大騒ぎになっていた。「あ、あれ……私……」「瞳さん!ああ、よかった……気分は大丈夫?ごめんね……こんなクズな男のせいで……本当にごめん」奈央が瞳の手をぎゅっと握って、涙ぐんでいる。その手から流れる過去に、瞳が倒れた姿を見て動揺する悠介の姿、騒いでいる愛人の女、ホテルのスタッフが「警察を呼んだから」と叫ぶ姿が見える。そして、自分に寄り添って必死に声をかける奈央と、赤黒く額が腫れている自分の姿も見えた。だが――ん?今、警察を呼んだって言わなかった?警察!!ダメだ。流星さんに迷惑をかけてしまう!瞳は慌てて、ジンジンする頭に耐えながら必死に起き上がった。警察沙汰になれば、事情聴取で全て、根掘り葉掘り聞かれてしまう。どこから、流星との同居がバレるかわからない。「お、お前がでたらめな嘘を並べ立てて、流星の名前まで出して、俺が悪いように抜かすからだ!浮気なんてしていないのに……」悠介は、自分の暴力を正当化するために、青ざめた顔をしながら喚き散らしていた。「なら、ここで浮気してないって!お前の言っていることは嘘だってスマートフォンを見せたらいいでしょう。殴る必要ある?」奈央が、悠介に怒りの抗
その頃の流星は、まさか瞳がそんな修羅場の渦中に巻き込まれていることなど、想像もしていない。そして、自分自身の身にもとんでもないことが起きていた。「川村が……死んだ?」流星は、久保田を助手席に乗せて幕田警察署に急ぐ。本当は、奈央のことが終わったら、帰りに瞳を乗せて下心ありの夜のドライブデートに連れ出そうと思っていた。まさかこんな事になるとは……ハンドルを握る手に力が入る。久保田も、もう退職まであと2週間ほどだ。何も、こんな土壇場で川村が出てこなくても……という気持ちになる。「先ほど渋谷主任から連絡が入った。自殺だろうと……」「自殺……まあ、逃げ場がありませんよね」流星の脳裏に、最後に温泉で会話をした記憶や、見たこともない形相で自分に刃を向けてきた最後の姿が蘇り、ぞわっと震えた。逃亡すると言っても、職はない。持っている金を使い果たして終わりになる。日雇いやホームレスにも限界があるだろう。署に着くと、室内はすでに騒然としていた。川村が元係長というポストにいたこともあり、全員が彼を知る関係者だ。過去の事件も関係していることから、現場に向かう者と、情報整理や報道向けのプレス準備をする者に別れる。「現場に行って、川村の顔を見たらすぐ戻ってくるよ」久保田の言葉に、周りの人間もその複雑な心境を慮って頷く。「俺も……行かせてもらっていいですか。その……川村と最後に会ったのは俺だから……」流星も、先輩刑事たちに頼み込む。「まあ……お前も複雑だよな。だけど、マスコミが来るからここで情報の整理をしてもらえないか」「いや……でもさ、署内で息子から事情を聞いてるんですよ。流星は被
どうしよう!奈央さんっ!待ってください!瞳は、タクシー代を立て替えたあと、ピンクのネオンが光るホテルの中に飛び込んだ奈央を必死に追った。当たり前だが、瞳の人生においてラブホテルに入るのは初めてだ。 こんなことなら、富山さんがラブホテルの潜入調査の話をした時に、早めに入っておけば良かった!一瞬、怖くなり足がすくみそうになるが、もう入るしかない。だが、ピラピラとカーテンがはためく中に入った後は、静かに並ぶ車が見え、人の影はない。更には、奈央の姿も夫の姿も、誰の姿も見えず不安になる。うそっ!もうホテルの中に入ってしまったの?瞳は、急いでホテルの入口と思われるところを探した。小さな自動扉が目立たない様に見える。「あれかしら?」瞳は、急いでその入り口の柱に触れようとした。そこを奈央とその夫たちが通ったかどうか確認するためにだ。だが、そんなことをする必要はなかった。何やら、自動扉の先で、すでに修羅場が始まったと思われる凄まじい怒鳴り声が聞こえていた。「奈央さん!待って!」証拠を取るんじゃなかったの?当初の予定と全く変わっている。瞳は、慌てて止めに入るために、声の方向に向かって走り出した。入ってすぐそこには、薄暗いホールに多くの部屋の一覧とそのボタンの明かりが光っている。そして奈央とその夫と愛人と思われる3人が揉めていた。「奈央さん!」瞳は、急いで側に駆けつけると、奈央が涙交じりに夫を罵っていた。「彼女が体調が悪いというから、とりあえずここに連れてきただけだよ」奈央の夫と思われる男が、ブスッと不貞腐れた顔で言い放つ。「よく言うわ。この人が元気よく歩いてる時から、私たちはつけていたわよ、しかも今まで手まで仲良くつないで!ねぇ!」そう同意を求められて「は、はい!」と瞳も思わず返事する。「お前は誰だ?」奈央に新たな加勢が加わったことで、殺してやると言わんばかりの勢
流星さん……すいません。接点を持たないように気をつけているのに、あんなに他人のふりをしたのに……どうやら私は、筋金入りの巻き込まれ体質のようです。瞳は奈央に腕を掴まれたまま、早足でバス停から離れ、奈央の夫を追っていた。「あっ!あいつ、車に乗ってどこかに行くわ。ちょっと私たちもタクシーに乗るわよ!」「へっ!」いや、きっと奈央だって怖くて不安なのだろう。瞳の腕を握るその手は、明らかに震えていた。だからこそ、ここで「さようなら」と瞳は言えなかった。(巻き込まれだけでも十分なのに、私は運が悪すぎるわ!)ただハンカチを届けるだけなら、事務所への帰りが遅ければ富山もおかしいと気づいてくれただろう。流星だって、こんな日に呼び出しがなければ、家に帰ってこない瞳を心配してくれたのかもしれない。つまり、誰からもこの状況に気づいてもらえない。どうすればいいの!瞳は、言われるがまま、奈央の夫をつけるためタクシーに乗っていた。「前の車をつけて!」「ええっ?」タクシーの運転手もあまりない指示に怪訝な顔つきになる。「夫と愛人が乗っているの。お願い……」「はあ、わかりました。やってみますけど……頭を引っ込めといてくださいね」タクシーの運転手も、動揺しつつ後ろを追いかける。奈央の夫は、よくある白のコンパクトカーに乗っていた。車のナンバーは「・410」だ。「4月10日は私たちの入籍日なの。その車を使って不倫なんてどんな神経してるんだろう」奈央の顔が般若の様につり上がり、車内の雰囲気がピリピリし始める。「……あの女の人は知り合いですか?」「直接の面識はないけど、私や夫のSNSにいいねをしてきてたの。今から思えばマウントを取りに来てたのね」「いいね…&he
川村……って言ったよね?久保田さんと流星さんが慌てて席を外さなければならないことが、起きたんだ瞳は、川村から襲われそうになった日のことや、その息子の浩介から石を投げられた憎悪の表情を思い出し、思わず目をつぶった。だが、室内にシクシク泣く声がする。奈央だ。「あ……あの……コーヒーにしましょうか」瞳は、こんな時にどう声をかけていいか迷って、知らんふりを決め込んでいる富山に視線を送った。じーーーっ!瞳のなんとかしてくださいという視線のおかげか?富山の困っている人は放っておけない性格がやっと発動したのか?富山は、渋々、奈央に声をかける。だが――「お前もあのヘタレが好きなのか?」やれやれという顔つきで、富山は渋い顔をして奈央に声をかけた。富山さんっ!「お前も」の「も」はおかしいでしょう!!瞳は思わず目に力を込めて富山に抗議するが、富山は素知らぬ顔だ。「へたれ……ホントそうですよね。あの頃、明らかな素振りで絶対私のこと好きだろうなって分かっていたのに……」奈央は呟くように笑いながら答えた。「も」についてはスルーされたようだ。瞳は、ぐったり脱力した。「好きなのかどうか……夫がいうように忘れてなかったのかもしれませんし、思い出が美化されているからかも……もしくは、夫に不倫相手がいるから対抗したいのかもしれません。オープンマリッジっていうのかな……」「オープンマリッジ?」瞳と富山は何それ?という顔で見合わせる。「結婚生活を続けながらそれぞれに相手がいる形です……別れずこのまま結婚生活を続けている、お互いそれで……私も相手がいるからって言いたいだけかも&h
奈央は、瞳が手袋の過去からみた姿とは少し違っていた。今日は胸元まである髪を下ろしている。綺麗に化粧も施されていて、百貨店に勤めているだけありおしゃれな可愛らしい大人の女性だった。これで、私と同じ歳!初めて安い化粧品で化粧を始めたばかりの自分とは、全く違う。更に、瞳は衝撃を受けた。奈央が、自分と同じショコラブラウンの髪色で同じ髪型だったからだ。流星が美容師に指示したわけではなく、流行のカットにしただけだ。それでも動揺は隠せず、瞳は奈央を案内した後は、お茶を入れるふりをしてその場から離れた。深く息を整える。とにかく、動揺を気取られないようにしなければならない。ほぼ同じ時刻に、久保田と流星もやってきて、瞳は机に全員の茶を置き、気配を消すように応接セットから素早く離れた。瞼がパンパンに腫れている瞳を見て、久保田はハッとしたように息を呑んだが、奈央の手前他人のふりをするしかない。声をかけずに知らないふりをしながら、久保田は雑談を続けた。同様に、流星からも少し視線を感じたが、奈央が流星に声をかけたので、そのまま瞳から奈央に視線が移動していった。「夫と結婚したのは、この4月で……でも交際期間は高校からだから8年付き合いました……」奈央が、みんなに経過を説明している声が聞こえる。流星が、高校で告白しそびれた話をしていたし、長い付き合いだったのねと感じながら、瞳は離れた事務机で溜まった仕事をしようと手を伸ばした。だが、離れていても気になる。能力を使って、この溜まった依頼の証拠を探さないといけないのに集中できない。結局、一件も着手出来ないまま、聞き耳を立て続けた。「結婚式でも仲良かったし、誰が別の女性がいるようには感じなかったけどな……」流星の相手を気遣うような優しい声が聞こえてくる。それが自分にかけてくれる温かい声と重なり、瞳の胸をチクっと刺した。「それが&







