تسجيل الدخول二人が帰った後――
はぁぁぁぁ!!
瞳は思いっきり息を吐き、ずるずると座り込んだ。
「ああ、せっかくのチャンス、交渉失敗だわ……どうしよう」
頭を抱えて、どう言えば18万払ってあげるからと言ってもらえたのかわからず途方に暮れる。
あの警察の男の子、同じくらいの歳かしら?
自分は学校に通えなかったので、同じ年齢の人たちと話をする機会がほとんどなかった。
こうやって、同年代を間近にすると、普通に学校に通い、就職した人たちはこんなふうに社会で活躍しているのかと感じる。
「いいなあ。真っ当に生きていたら、こんなふうに大家に突き上げられることも、瑕疵物件に住むこともないのよね」
天井を仰ぎながら、今もらった警察署の所属先の入った無機質な名刺に触れようとする。
しかし、その手は空を舞っただけで止めた。
「無闇に人の情報を覗かなくてもいいよね。もらった名刺から、男の名前は大川流星だと分かったわけだし……」
小さな段ボールに布をかけた机に、その名刺を投げ出した。
「ふふっ、真面目くんなんだろうな。警察が表立って私のところには来られないから、川村は手帳をなるべく見えないようにしていたのに……」
大川流星は、川村の努力も虚しく自分の名刺を差し出し、どこに所属しているかまでこちらに提示した。
大川がボーッと瞳の顔を見ている表情を思い出して、思わず笑いが漏れる。
「もう少し感じたことや思ったことを隠すものよ?あれで仕事になるのかしら……」
瞳は警察が嫌いだ。しかし、大川については不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
多分、最低限の礼儀を尽くす努力をしてくれたからだわ。
この能力を使う仕事は、川村のように嫌悪感を露わにする人や見下した態度で見る人が多い。
だから、ご丁寧に教える必要はなかったのだけど。
「川村には気をつけて……」
◆ 瞳は、川村の電子タバコを手にした時のことを思い出していた。川村からそれを受け取った時、瞳が遡った過去は2日ほど。
頭の中に、この電子タバコが見た過去を遡っていく。(このぐらいの日にちなら、私の体も負担が少なくて、遡りやすいのだけど……)
あの時、瞳は電子タバコが見た過去を見ていた。
電子タバコの位置は固定されていないので、タバコの視点もマメに変わる。手で持ち歩くときもあるし、ズボンの尻ポケットに入れることもある。机の上に置かれていることもあった。
受け取った電子タバコは、国内で人気の加熱式で、男性の片手で収まるサイズ。
専用のスティックをはめて使用する川村の顔を、あのタバコは何度も見ている。比較的整った顔立ちになるのだろうか?
体や腕は警察だけあって鍛えてある。 武道か何かをしているのかもしれない。今朝、新幹線でC県にやってきて……ああ、確かに出発はA県だから、A県警勤務の可能性は高い。
レンタカーで、地図アプリを使って我が家までやってくる姿が見えてくる。(もう少し前を見てみよう)
そして場面は変わり、昨夜の川村の自宅の映像。
川村が家で荷物を詰めている。
荷物を詰めてはため息をついたり、スマホで何かの事件のことを調べている。 タバコから川村の表情は見えない。背中だけだ。「ただ、家族仲は良くない……」
電子タバコを持ってリビングに入る。
夫婦の会話は一切なく、妻に視線も合わせない。 子供はいるが川村の顔色を伺い、一切川村には近づかないし親子の会話はない。「奥さんにも子供にも話しかけもしないのね」
家族みんなが同じ空間にいる時間は短かった。
動線に彼らがいたからタバコの記憶にあっただけ。 その後は電子タバコを部屋で吸いながら、瞳の家の周辺を地図アプリで調べている。(更に前に遡ってみよう)
場面は変わって警察署の喫煙所だ。
警官の制服を着ている人と、背広を着ている人に分かれて雑談している。まだ彼が警察と判断するのは早い。
この雑談ぶりなら警察官と親しいのは確かだが、川村は背広だ。 家の仏頂面と違って、彼らとは笑顔で穏やかに会話する。「誰か大川くんに、女を紹介してやれよ……」
「あの顔ならいそうなものですけど、女性を前にするといつもみたいな会話にならないらしいですよ」
そんな会話が聞こえてくる。
(更に前の過去に行こう)
ここは警察署の廊下だ。「川村係長、明日は駅に7時でいいですか?」
「ああ、大川か。頼まれたことだけサッサと済ませて、のんびり温泉に浸かろうや」
「楽しみは山川温泉の宿だけです。俺の安月給では華月旅館なんていいところへは泊まれません」
声をかけてきたのは、ここに一緒にやってきた大川だ。
川村は、宿泊予定の華月旅館が、地図アプリで瞳の家から車で20分と説明している。確かに華月旅館は、我が家から車で20分だ。(ここが宿泊地か……この二人は大川と川村で決まり。もう少し過去を探ってみよう)
ここは、地下だ。
窓が一つもないし、電気を付けないと廊下も真っ暗。 川村は、廊下の周辺を伺って鍵を開けてスルッと中に入る。 その表情は、無表情に近い。(階段……2回通過したから地下2階かな?)
そして中からも厳重に鍵をかけ、周囲に誰もいないことを確認する。
「全く、今更なんだっていうんだ……せっかく風化したのに」
川村がボソッと呟く。
(せっかく……風化したのに?風化することを望むような事件を私のところに依頼に来たのかしら?)
ポケットから揺れて見える川村の表情と、服が傾いた時に、ちらっと何をしているのかが見える。
残念ながら、タバコはポケットにあり細切れの過去だ。引き出しは、【一家殺人事件】の文字が見える。
遺留品を出している。
しかも、血を含むものが多い。 一家というだけあって、複数人の物がある。川村は一つ一つ袋に入れられたものを机に並べていく。
凶器をまず手に取る。(包丁ね……)
でもそれは、すぐ無表情のまま、机に置かれる。
服は……そのまま横に。(何を調べてるんだろう?)
被害者の髪の毛……も、川村の眉が少し動いたぐらいか……
川村の表情は少し強張ったように見えた。
それを再び袋に詰めて引き出しに戻す。次は……バッグ、化粧品……ガラケー……
被害者の持っているものだけど、血がついてない物はない。
(しかし、大量に血がついたものばかりで、よっぽど現場は血の海だったんでしょうね。これが依頼内容かな)
瞳は、自分が頼まれる仕事を想像してげんなりする。
どの過去を読み取っても、出てくる場面は血の海から始まるだろう。でも川村は、明確に、過去の現場を読み取りやすそうな物は避けていた。
別に、凶器とまでは言わなくても血がついている段階でその時の過去は見えるのに…… 現場になさそうなものを探しているのかしら?瞳はその動きをずっと追い続けた。
(血がついてないのは……鉛筆……)
川村は、何度も袋の上から、目を細めていろんな角度で確認をしている。
どこにでもある大手文具メーカーのグリーンに塗装された鉛筆。 それを見て、納得したように頷き、ポケットに忍ばせた。 そして残りは片付けて元に戻していく……その後、タバコの見える範囲で警察手帳を使う場面があったり、捜査一課に出入りする姿が見えて、間違いなくここに所属している警察官だと知った。
更に、2日前の記憶からここに来た経緯を知る。
久保田課長と呼ばれる人がどうやら瞳の居場所を嗅ぎつけ、私と会うように二人に依頼している。どうやら久保田はかつて私の能力を見た事があり、私が受けた被害も知っているようだ。
人の身の上を気の毒がっても、助けるでもない見ているだけの傍観者。
そして結局、人の平穏を破壊する。こんな奴らばかりだわ。
ただ、川村の動きは何か怪しいわ。
私より、そっちを探った方がいいんじゃないかと思うけど、どうなのかしら? ◆ 「あーあ、明らかに巻き込まれている彼を、気の毒に思っちゃったかな?」余計なことは言わないのが一番!
それなのに、つい川村に気をつけるように伝えてしまった。多分、歳が近かったせいね。
大川流星という男だって同じ警察官なんだから、川村と似た人種だと思わなければならないのに。そういえば、今から思えば喫煙所で話していた大川くんって彼のことじゃないのかしら?
「女性を前にすると、いつもみたいな会話にならない……女を紹介って……きっとそうよね」
それで私を前にした時、ぼーっとした反応になったんだわ。
私の母みたいに、子供に関心もなく男に貢ぎ、なんだったら、男が娘に手を出そうとして娘を責める人もいるのに……
世の中には、異性と全く付き合えない人もいるのね。瞳は、先ほどの大川流星の顔が浮かび、笑ってしまった。
「でも……なんとなくだけど、久保田課長という男は諦めない気がする」
ああいうタイプは、目的を達成するまでは追い続けてくる。
何か、この件、もしくは私の能力のことで気になる事があるのかもしれない。「もしそうなら、まだ家賃ゲットチャンスはあるかもしれないわ」
瞳は、頼むからもう一回来てくれと、同時に大家を思い出してぶるっと震える。
そして空腹に気づく。「おなかすいたなぁ……水でも飲むか」
そういって、ふらりと立ち上がり蛇口を開けた。
その頃の流星は、まさか瞳がそんな修羅場の渦中に巻き込まれていることなど、想像もしていない。そして、自分自身の身にもとんでもないことが起きていた。「川村が……死んだ?」流星は、久保田を助手席に乗せて幕田警察署に急ぐ。本当は、奈央のことが終わったら、帰りに瞳を乗せて下心ありの夜のドライブデートに連れ出そうと思っていた。まさかこんな事になるとは……ハンドルを握る手に力が入る。久保田も、もう退職まであと2週間ほどだ。何も、こんな土壇場で川村が出てこなくても……という気持ちになる。「先ほど渋谷主任から連絡が入った。自殺だろうと……」「自殺……まあ、逃げ場がありませんよね」流星の脳裏に、最後に温泉で会話をした記憶や、見たこともない形相で自分に刃を向けてきた最後の姿が蘇り、ぞわっと震えた。逃亡すると言っても、職はない。持っている金を使い果たして終わりになる。日雇いやホームレスにも限界があるだろう。署に着くと、室内はすでに騒然としていた。川村が元係長というポストにいたこともあり、全員が彼を知る関係者だ。過去の事件も関係していることから、現場に向かう者と、情報整理や報道向けのプレス準備をする者に別れる。「現場に行って、川村の顔を見たらすぐ戻ってくるよ」久保田の言葉に、周りの人間もその複雑な心境を慮って頷く。「俺も……行かせてもらっていいですか。その……川村と最後に会ったのは俺だから……」流星も、先輩刑事たちに頼み込む。「まあ……お前も複雑だよな。だけど、マスコミが来るからここで情報の整理をしてもらえないか」「いや……でもさ、署内で息子から事情を聞いてるんですよ。流星は被
どうしよう!奈央さんっ!待ってください!瞳は、タクシー代を立て替えたあと、ピンクのネオンが光るホテルの中に飛び込んだ奈央を必死に追った。当たり前だが、瞳の人生においてラブホテルに入るのは初めてだ。 こんなことなら、富山さんがラブホテルの潜入調査の話をした時に、早めに入っておけば良かった!一瞬、怖くなり足がすくみそうになるが、もう入るしかない。だが、ピラピラとカーテンがはためく中に入った後は、静かに並ぶ車が見え、人の影はない。更には、奈央の姿も夫の姿も、誰の姿も見えず不安になる。うそっ!もうホテルの中に入ってしまったの?瞳は、急いでホテルの入口と思われるところを探した。小さな自動扉が目立たない様に見える。「あれかしら?」瞳は、急いでその入り口の柱に触れようとした。そこを奈央とその夫たちが通ったかどうか確認するためにだ。だが、そんなことをする必要はなかった。何やら、自動扉の先で、すでに修羅場が始まったと思われる凄まじい怒鳴り声が聞こえていた。「奈央さん!待って!」証拠を取るんじゃなかったの?当初の予定と全く変わっている。瞳は、慌てて止めに入るために、声の方向に向かって走り出した。入ってすぐそこには、薄暗いホールに多くの部屋の一覧とそのボタンの明かりが光っている。そして奈央とその夫と愛人と思われる3人が揉めていた。「奈央さん!」瞳は、急いで側に駆けつけると、奈央が涙交じりに夫を罵っていた。「彼女が体調が悪いというから、とりあえずここに連れてきただけだよ」奈央の夫と思われる男が、ブスッと不貞腐れた顔で言い放つ。「よく言うわ。この人が元気よく歩いてる時から、私たちはつけていたわよ、しかも今まで手まで仲良くつないで!ねぇ!」そう同意を求められて「は、はい!」と瞳も思わず返事する。「お前は誰だ?」奈央に新たな加勢が加わったことで、殺してやると言わんばかりの勢
流星さん……すいません。接点を持たないように気をつけているのに、あんなに他人のふりをしたのに……どうやら私は、筋金入りの巻き込まれ体質のようです。瞳は奈央に腕を掴まれたまま、早足でバス停から離れ、奈央の夫を追っていた。「あっ!あいつ、車に乗ってどこかに行くわ。ちょっと私たちもタクシーに乗るわよ!」「へっ!」いや、きっと奈央だって怖くて不安なのだろう。瞳の腕を握るその手は、明らかに震えていた。だからこそ、ここで「さようなら」と瞳は言えなかった。(巻き込まれだけでも十分なのに、私は運が悪すぎるわ!)ただハンカチを届けるだけなら、事務所への帰りが遅ければ富山もおかしいと気づいてくれただろう。流星だって、こんな日に呼び出しがなければ、家に帰ってこない瞳を心配してくれたのかもしれない。つまり、誰からもこの状況に気づいてもらえない。どうすればいいの!瞳は、言われるがまま、奈央の夫をつけるためタクシーに乗っていた。「前の車をつけて!」「ええっ?」タクシーの運転手もあまりない指示に怪訝な顔つきになる。「夫と愛人が乗っているの。お願い……」「はあ、わかりました。やってみますけど……頭を引っ込めといてくださいね」タクシーの運転手も、動揺しつつ後ろを追いかける。奈央の夫は、よくある白のコンパクトカーに乗っていた。車のナンバーは「・410」だ。「4月10日は私たちの入籍日なの。その車を使って不倫なんてどんな神経してるんだろう」奈央の顔が般若の様につり上がり、車内の雰囲気がピリピリし始める。「……あの女の人は知り合いですか?」「直接の面識はないけど、私や夫のSNSにいいねをしてきてたの。今から思えばマウントを取りに来てたのね」「いいね…&he
川村……って言ったよね?久保田さんと流星さんが慌てて席を外さなければならないことが、起きたんだ瞳は、川村から襲われそうになった日のことや、その息子の浩介から石を投げられた憎悪の表情を思い出し、思わず目をつぶった。だが、室内にシクシク泣く声がする。奈央だ。「あ……あの……コーヒーにしましょうか」瞳は、こんな時にどう声をかけていいか迷って、知らんふりを決め込んでいる富山に視線を送った。じーーーっ!瞳のなんとかしてくださいという視線のおかげか?富山の困っている人は放っておけない性格がやっと発動したのか?富山は、渋々、奈央に声をかける。だが――「お前もあのヘタレが好きなのか?」やれやれという顔つきで、富山は渋い顔をして奈央に声をかけた。富山さんっ!「お前も」の「も」はおかしいでしょう!!瞳は思わず目に力を込めて富山に抗議するが、富山は素知らぬ顔だ。「へたれ……ホントそうですよね。あの頃、明らかな素振りで絶対私のこと好きだろうなって分かっていたのに……」奈央は呟くように笑いながら答えた。「も」についてはスルーされたようだ。瞳は、ぐったり脱力した。「好きなのかどうか……夫がいうように忘れてなかったのかもしれませんし、思い出が美化されているからかも……もしくは、夫に不倫相手がいるから対抗したいのかもしれません。オープンマリッジっていうのかな……」「オープンマリッジ?」瞳と富山は何それ?という顔で見合わせる。「結婚生活を続けながらそれぞれに相手がいる形です……別れずこのまま結婚生活を続けている、お互いそれで……私も相手がいるからって言いたいだけかも&h
奈央は、瞳が手袋の過去からみた姿とは少し違っていた。今日は胸元まである髪を下ろしている。綺麗に化粧も施されていて、百貨店に勤めているだけありおしゃれな可愛らしい大人の女性だった。これで、私と同じ歳!初めて安い化粧品で化粧を始めたばかりの自分とは、全く違う。更に、瞳は衝撃を受けた。奈央が、自分と同じショコラブラウンの髪色で同じ髪型だったからだ。流星が美容師に指示したわけではなく、流行のカットにしただけだ。それでも動揺は隠せず、瞳は奈央を案内した後は、お茶を入れるふりをしてその場から離れた。深く息を整える。とにかく、動揺を気取られないようにしなければならない。ほぼ同じ時刻に、久保田と流星もやってきて、瞳は机に全員の茶を置き、気配を消すように応接セットから素早く離れた。瞼がパンパンに腫れている瞳を見て、久保田はハッとしたように息を呑んだが、奈央の手前他人のふりをするしかない。声をかけずに知らないふりをしながら、久保田は雑談を続けた。同様に、流星からも少し視線を感じたが、奈央が流星に声をかけたので、そのまま瞳から奈央に視線が移動していった。「夫と結婚したのは、この4月で……でも交際期間は高校からだから8年付き合いました……」奈央が、みんなに経過を説明している声が聞こえる。流星が、高校で告白しそびれた話をしていたし、長い付き合いだったのねと感じながら、瞳は離れた事務机で溜まった仕事をしようと手を伸ばした。だが、離れていても気になる。能力を使って、この溜まった依頼の証拠を探さないといけないのに集中できない。結局、一件も着手出来ないまま、聞き耳を立て続けた。「結婚式でも仲良かったし、誰が別の女性がいるようには感じなかったけどな……」流星の相手を気遣うような優しい声が聞こえてくる。それが自分にかけてくれる温かい声と重なり、瞳の胸をチクっと刺した。「それが&
寝たか……一人で病院まで行くだけでも緊張したのだろうに、その後スマホで知った過去の仕事のその後を受け止めるだけでもう精神的にも限界だったのだろう。流星が抱きしめて5分もしないうちに瞳は寝息を立て始めた。 暗闇の中で顔が見えないのが悔しい。 きっと可愛い寝顔に違いない。流星は、さりげなく抱きしめる腕に力を入れる。 だが、同時に瞳を言いくるめるようにして、こんな関係になっていることに後悔もしていた。どう考えても友人の域を超えた。 どさくさに紛れて一緒に寝る提案をしてしまったが、やっぱりこの距離感は恋人から夫婦の距離だ。理由をつけて好きな子を抱きしめたいという自分の欲に負けたのもあるし、本当に誰かが瞳を抱きしめてやらないと、壊れる気がしたし……ここまで許してくれたなら告白しては? いや、告白しない方が不誠実なんじゃないか? もっと、いやらしい考え方をして仕舞えば、ここまでの関係になれば、瞳は告白されたら断られない気がしていた。だが……瞳さんの性格を考えると……流星の不安な部分は、瞳は、信じると決めた人への心のハードルが低すぎるのが問題だった点だ。 自己肯定感の低さから、どんどん悪化している。普通の女性なら、こんなふうに誘導されたら拒否するか、私のことをどう思っているの?と聞くだろう。 ところが、ここまでされても断らず、身を委ねる瞳の性格を考えると、告白はやはりないと思いとどまった。どんなに断ってもいいと伝えても、言われたから付き合わなければならないと思いかねない。 信じた人から嫌われるのが怖いのか、信じている人に言われたら仕方ないと考えてしまうのか。ああ……流星は、これから瞳が自立して家を出るようになる頃まで告白ができないことを考えて、自分が保てるのか不安になってくる。 今だって、どさくさに紛れてキスしたい衝動に駆られているのに。厄介なのは、多分、自分も瞳以上の女性ともう出会えない気がしていて、片想いなのに誰かと両思いになるより上の存在になっていることだ。







