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2 触れたものの過去がわかる彼女との出会い

Auteur: 缶小豆
last update Date de publication: 2026-08-26 11:41:55

コーポA201号室――

お世辞にも綺麗とは言えない家だけど、こんなところに本当に自分と同じ年齢の女性が住んでいるのだろうか?

今、男は人生を大きく変える女性と運命の出会いを果たそうとしている。

◇

A県警 幕田警察署 捜査一課 大川流星は25歳である。

彼女いない歴は25年。

交番勤務を経て、次はどこに異動だろうと喜んで行った職場は、大半が男性ばかりの出会いがない捜査一課だ。

これは、彼女いない歴も更新されていく一方じゃないのか?

(自分でいうのもなんだが、見た目がそこまで悪いと思ったことはないんだけど……縁がないのかなあ)

身長も176センチと高すぎることも低すぎることもない。

顔も、一般的なところだろう。

警察官らしく、清潔感は意識している。剣道だって有段者だ。

なよっとしていないし、頼り甲斐のある男性を目指している。

それなのに!

いよいよ、マッチングアプリで出会いを探さないとダメか?

流星は頭を抱えて、マッチングアプリに登録すべきか真剣に悩み始めていた。

「早い奴は、もう結婚し始めている。先日も学生時代の友人の結婚式に行ったしな。でも、縁は無くても上司や先輩はかわいがってくれるから、誰かが紹介してくれないかな」

いいことを思いついたと流星の表情は明るくなる。

しかし、可愛がられるは、頼みやすいであり、押し付けやすいである。

今日も、定年間際の課長、久保田敏治から「流星、ちょっと頼みたいことがある……」そう声をかけられた。

自分の他には、係長の川村優希も呼ばれている。

上司二人に呼ばれたら、ほぼ新人の自分は何かやらかしたか?と最初に疑うのは当然。

一気に緊張し、背中に汗が伝う。

(とりあえず、良いことではないだろうな)

捜査一課は、事件を担当することが多く、やらかしの内容によってはマスコミに発表しなくてはならないものから、裁判に発展しかねないものまである。

しかし、頼みたいって言ってなかったか?

よく考えると、そんな重要案件を担当したことはない。

「ああ、固くならないでくれ。君にしかお願いできないことがあって声をかけたんだよ」

久保田は、間違いなくお願い事だとにこやかに笑って、手招きをする。

君にしかできない?

自信を持って断言できる。

俺にしか出来ない仕事なんてない。

絶対、こいつ今暇だ。

何だったら、休みの日だって暇だろう?

そう思われている自信がある。

俺に彼女がいないのは、みんなが知っていることだ。

有給休暇を使うことがなく、休みの日は、寝るか動画を見るか、家で料理を作っているかのどれかだ。

そんな休日の過ごし方を、同僚たちにはよくからかわれていた。

絶対に君にしか頼めない頼み事は、絶対に碌なことではないと心の中で大きくため息をつく。

◆

流星は、久保田から依頼したい内容に関連した女性の情報をもらい、眉をひそめる。

「倉坂瞳 25歳。住んでいるのはC県だけど、住民票はH県。住民票も住んでいるところに置いていない。戸籍も東京都庁に置いているなんてふざけてますよ」

「C県はいいぞ。温泉もいいし、観光も人気だそうだ」

ニコニコする久保田とその隣にむすっと座る川村は対照的だった。

「仕事ですよね?」

表情を見ても、久保田と川村の考えは違う様子で、どう反応したらいいか迷う。

「仕事の内容ではあるけど、完全にプライベートで頼みたい話だ」

その話にどういうことか分からない流星は、川村に視線を投げかける。

だが、もう諦めたように、ため息をついているだけだった。

「宿は温泉、新幹線のチケットも俺のポケットマネーで準備する。その代わり有給休暇を使ってくれ。いいだろう?どうせ余ってるんだし……」

結局、自身の有給休暇を使い、久保田の要望通り倉坂瞳の元に急ぐこととなった。

久保田の依頼は、20年前に起きた一家殺人事件に関するものだった。

事件の被害者一家は、久保田や川村の同僚一家。

時効こそ撤廃されたが20年も前の事件だ。

新たなタレコミもないし、新証拠もない。

テレビで『情報を求めています』といった番組が作られると、「私は見た!」と数日はタレコミが入る。

しかし、見当はずれな情報ばかりで未解決のままだった。

「昔、話題になった千里眼の少女を見つけたんだ。頼むのはダメ元だ。こんな未解決事件なら、第三者を多少頼っても問題ないだろう。もう遺族もいないんだ」

夫婦の双方共に両親は亡くなったらしく、20年という時の重みを感じる。

「遺留品に触れるだけで、その場にいない犯人もその行動も、なんだったら行方不明になった人の場所も見抜く……本当なんですかね?」

事件の担当課長が直々に会いに行けないのは分かるが、川村も立場的には大して変わらないはずだ。

渋い顔をするのも分かる気がした。

流星は、ああいう輩はみんな詐欺師だと疑っている。

だが、彼女の書類にある古い顔写真をみて「あれ?」と行動が止まった。

「これ、昔、テレビの生放送で、殺害現場に触れただけで犯人を見つけたり、遺体を見つけて、一時話題になった子ですよね。あれ、仕込みじゃなかったんですか?」

「それが仕込みじゃないんだよ。当時は15歳だ。和風美人の綺麗な顔立ちの子だよ。芸能事務所からも声がかかったそうだが……」

「俺と同い年なんですよ。でも、なにか事情があって姿を消したんじゃなかったかな?」

「親が世に言う毒親で、子供を金稼ぎに使おうとしてトラブルに巻き込まれたんだ。そのうち、人の不幸を商売にすると彼女が責められて学校にも通えなくなったそうだ」

「ああそうそう。金銭トラブルだ」

話を聞いて納得する流星とは対照的に、久保田は気の毒そうな声を出した。

「あまりにも色々当ててしまうから、警察にも事情聴取されることが多かったらしい。私も関わった事件がその番組で取り上げられたが、凄い子だと今でも覚えている」

「警察から色々事情聴取って……我々に良い思いを持っていない子が、行ったところで手伝ってくれるとは思えませんけど」

川村はやめた方がいいと何度も訴えた。

「そうなんだがね……でも、なにがきっかけになるかわからないだろう。それに、あいつを知っている奴はどんどん退職していく。思い入れのある者が減ってしまうのが怖いんだ」

寂しそうな久保田の横顔をみて、複雑な気持ちになる。

もしかして自分を呼んだのは、この事件に思い入れのある人を少しでも増やしたいという課長なりの風化への抵抗かも。

流星は、彼女に会いに行く気になっていた。

「被害者の無念を晴らすためなら、俺、占いだろうと、非科学的なものだろうと何かヒントがないか聞いてきます」

任せてくださいと微笑む。

川村も同じように感じたのだろうか?

「久保田課長が係長になられた年ですね。私も、ここに配属されたばかりで奴は同期でしたが……もう20年ですか。かつてなら時効でしたね」

時が経つのは早いと呟いて、久保田の話に同調している。

「私も、今年度で退職だ。逮捕とまではいわないが、少しでも進展が欲しい。そして次につなげたい」

そう言って、久保田はため息をついた。

◇

流星と川村の二人は、久保田にうまくのせられ、瞳の住むアパート前に立っていた。

その建物の古めかしさに顔を顰め、本当にそんな女性はいるのかと呟くと、川村から制止された。

なるほど……ここの声も筒抜けになりそうなボロアパートだもんな。

対応は川村に任せて、流星は足音の響く錆びた金属の共用廊下を進んで行き、触れただけで木屑が落ちそうなドアの前に立った。

「ごめんください。倉坂さんいらっしゃいますか?」

川村は、ドアをノックして、さっさとやることをして帰ろうと流星に目で促す。

中には、人がいる気配があった。

「あの……どちらさま……」

女性の警戒心にあふれた小さな声が聞こえる。

「ええと、私たちは幕田警察署の者です。少し伺いたいことがあって来させてもらいました」

少し沈黙の後、玄関横の窓を少しだけ開けて、「ご用件はなんでしょう」と流星たちを訝しげな顔で見る女性がいる。

流星は、その瞬間目が合い、雷が落ちたような衝撃を受けた。

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