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第2話

Author: きょうう

私はその場に崩れ落ちた。立っていられなかった。

壁に寄りかかり、泣き声を殺して泣いた。

気づかれないよう、足を引きずりながら隅のトイレに隠れた。

鏡をのぞき込むと、涙が頬を伝っていた。いつの間にか、顔中に跡がついていた。

あの日は雨だった。

花嫁になるはずだったのに、拉致された。

姉は両親が払った身代金で助け出され、残されたのは私だけだった。

三日間、昼も夜もわからなかった。耐えがたい臭い、汚れた体、押し寄せる絶望。

感覚が麻痺していく中で、私は肉塊のように、男たちの言いなりになった。

ようやく助け出されたが、私を待っていたのは正義じゃなかった。

周藤家は一方的に婚約を破棄した。

誰も私を「汚れた」と言った。「死んで償え」とまで言った。

そこに現れたのが、晃成だった。

そんな私に、彼は手を差し伸べた。愛している、残りの人生をかけて守ると言った。

非難はいつしか羨望に変わった。

私は彼が築いた愛という檻に囚われ続けてきた。

そして今になってようやく気づいた。彼こそが、私のすべての苦しみを仕組んだ張本人だったと。

なるほど。だから瑠花がいつも私を見る目には、蔑みと憐れみが混じっていた。

あの日、彼女は私のブライズメイドとして、一緒に家を出た。

二人とも連れ去られたのに、犯人たちは彼女に一切手を出さなかった。

助け出される時さえ、丁重に送り届けていた。

傷つけられたのは私だけだった。

彼女は最初から真実を知っていた。この何年も、私を哀れな愚か者として見下していただけだ。

笑える。

私は元凶に恋をしていた。

彼の子を宿すことを願い、心待ちにしていた。

子どもを産む道具にされながら、彼こそが私を救ってくれると信じ込んでいたのだ。

唇を噛みしめすぎて、血がにじんだ。

鋭い痛みが走る。でも、心の痛みには到底及ばなかった。

……

「雨音、中にいるか?」

聞き慣れた声が響くと同時に、トイレのドアが勢いよく開け放たれた。

慌てた様子で飛び込んできた晃成が、私を強く抱きしめる。その瞳には、ありったけの心配が滲んでいた。

「どうした?泣いてたのか?悪夢か?それとも体調が……?」

彼は背後を一瞥すると、冷たく吐き捨てた。

「何をしてるんだ?彼女がこんな状態だというのに。全員クビだ」

使用人たちが一斉に息を呑む。空気が凍りついた。

私は顔を上げ、じっと彼を見つめ返す。

さっき聞こえた会話が、頭の中をぐるぐると繰り返される。

胸の底から、冷たい憎悪が込み上げてきた。

口を開こうとした瞬間、晃成は私の腰に手を回し、抱き上げてベッドへ運んだ。

「わかってる。雨音は優しいから、彼女たちをかばおうとするんだろう?でも今はちゃんと休まなきゃ」

ベッドに下ろされ、彼が期待に満ちた眼差しで尋ねる。

「そうだ、先日調子が悪いと言っていたな。検査の結果はどうだった?」

私はそっとお腹に手を当て、素直に告げた。

「できたよ」

晃成の顔が瞬く間に綻ぶ。彼は私の腹に耳を寄せ、喜びを露わにした。

真実を知らなければ、彼がこの子を心から愛していると信じていただろう。

だが、現実は違う。

この子は、彼にとって瑠花の息子を救うための道具にすぎないのだ。

「はやく食事を用意しろ!」

望みの答えを得ると、晃成は即座に使用人に指示を飛ばした。

食事の管理はもちろん、胎教に至るまで、二十四時間体制で医師を常駐させた。

誰の目にも、これ以上ない完璧な良き夫に映るはずだ。

あの深情けな態度には、私は何度も騙されてきた。

「どうした?」

私の顔色が優れないことに気づき、晃成がベッドの端に腰を下ろす。

「具合が悪いのか?やつらはちゃんと世話をしていないのか?」

言うや否や、彼は検査に付き添った使用人を蹴り飛ばした。

「言い訳は許さない。俺の妻に何かあれば、お前の命はない」

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