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79. 権力争いの幕開け①

last update Last Updated: 2025-10-25 19:03:34

幹部会当日、律専属の運転手にマンションまで迎えに来てもらい会場まで足を運んだ。会議後の懇親会としてホテル内に入っている飲食店を貸し切っているそうだ。

ホテルのエントランスでは、秘書の小森さんが私の到着を待ってくれていた。

「奥様、今日はありがとうございます」

「小森さん、入口まで来てくださってありがとうございます」

「いえ、とんでもない。実は、先に奥様とお話をしたいことがありまして。少しお時間よろしいですか?」

「はい、大丈夫です……」

小森さんに言われてラウンジの一番隅の席に座る。小森さんが壁側の席に座り、全体を見渡してから、声を抑えて話し始めた。

「今日の内容は専務からお聞きになっていますか?」

「ええ、少しだけ。来月、会長が参加される役員会の前に事前の顔合わせだと……」

「はい、大体その通りです。ですが、もう少し補足させてください。専務はたまに言葉不足と言いますか、説明が簡潔すぎて相手にしっかりと伝わっていないこともありまして……お力のあるかたなのに、もったいないと思っていまして」

律の言葉不足と言うのは大

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