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第4話

Author: 金魚月
結局、真琴は車に乗った。

今の彼女には金がない。大学まで歩いていくわけにもいかなかった。

運転手が車を走らせ、真琴は助手席に座った。

朔也と莉奈は後部座席だった。

出発前、美穂は莉奈に20万円を振り込んだ。

「入学したばかりは何かとお金がかかるでしょう。足りなくなったら、またお母さんに言いなさい」

一方、真琴に向けられたのは冷たい顔だけだった。

「理系の首席なんだから、それくらい自分で何とかできるでしょう。生活費は4千円だけあげる。あとはアルバイトでもしなさい」

美穂は、紙幣を恵んでやるように真琴の膝へ放った。

真琴は黙って拾い、何も言わなかった。

車内では、莉奈が浮き立った様子でしゃべり続け、朔也はその一言一言に優しく応じていた。

かつて、真琴を振り向かせようとしていた頃と同じような辛抱強さだった。

真琴は窓の外を見ながら、イヤホンの音量を上げた。

やがて、後ろから肩を軽く押された。

真琴は反射的にイヤホンを外し、振り返った。

莉奈はまた目を潤ませていた。

「お姉ちゃん、私がずっと朔也と話してるから、ヤキモチした?入学が楽しみで、ついはしゃいじゃっただけなの。気を悪くしないでね」

「別に。今は入れ替わってるんだから、朔也の彼女は莉奈でしょう。私がヤキモチする理由はないよ」

真琴は無表情のまま前へ向き直った。

バックミラーに映る朔也の顔が、次第に険しくなっていることには気づかなかった。

大学に着くと、朔也は冷たい口調で言った。

「今の俺は莉奈の彼氏なんだろ。だったら荷物は自分で運べよ」

真琴は淡々とうなずいた。

「分かった」

朔也は言葉に詰まり、さらに機嫌を悪くした。

そして莉奈を連れ、そのまま振り返らずに歩いていった。

真琴は、遠ざかっていく二人の背中を見つめた。

以前、朔也と並んで歩いていた頃、彼はいつも真琴を車道から遠い側に歩かせてくれた。

けれど今、朔也に守られるように内側を歩いているのは、真琴ではなく莉奈だった。

真琴だけを大切にすると言ったのも、朔也だった。

莉奈が身体は弱いものの、真琴より明るく愛嬌のある性格だと知り、放っておけないという気持ちが、いつしか当然のような庇護に変わったのも朔也だった。

莉奈と婚約パーティーを行い、二人の入れ替わりを受け入れたのも、やはり朔也だった。

それなのに、なぜ彼が怒っているのか、真琴には分からなかった。

聴講生用の寮は、正規学生の寮とは別の建物にあった。

荷物を置くと、真琴はすぐに教務課へ向かった。

転学手続きがすべて完了するのは、入学式当日になると聞き、真琴は仕方なくため息をついた。

そして入学式を迎える前に、彼女にはもう一つ、乗り越えなければならない難関があった。

京華大学には、広く知られた独自の校則がある。

新入生は全員、学生同士の交流を目的とした合宿に参加しなければならないのだ。

運の悪いことに、今年の合宿は、専門のアウトドアインストラクターの指導のもと、大学から遠く離れた山間部で行われる野外サバイバル研修だった。

追い打ちをかけるように天気も悪く、ただでさえ厳しい訓練がさらに過酷になった。

初日は誰も手を抜こうとはしなかった。

けれど2日目になると、体調が悪いふりをして手を挙げ、冷房の効いた救護室へ逃げ込もうとする学生が何人も現れた。

幼い頃から身体の弱い莉奈は、とうに耐えられなくなり、こっそり訓練から抜け出していた。

真琴も頭がぼんやりしていたが、それでも歯を食いしばり、プログラム終了まで耐え抜いた。

ようやく一旦休憩に入り、水を飲んで休もうとしたとき、朔也が突然現れた。

何の説明もなく真琴の手首をつかみ、訓練場所へ引っ張っていこうとした。

「莉奈が勝手に抜けたところがバレた。今、スクワット50回と、5キロの山道トレッキングを課されてる。

莉奈は身体が弱いし、みんなの前で恥をかきたくないって言ってる。真琴が代わってやれ。双子なんだから、誰にも分からない」

あまりにも当然のように命じられ、真琴は呆れて笑った。

痛いほどつかまれていた手を、勢いよく振りほどく。

「嫌よ」

「行くしかないだろ。罰を受けることになった名前は高梨真琴なんだ。どうして莉奈がお前の代わりにやらなきゃいけない?」

「朔也、私の名前で京華大学に来たいと言ったのは莉奈でしょう。勝手に訓練を抜けて見つかったのも莉奈。それなのに今さら、どうして莉奈が私の代わりに罰を受けなきゃいけないんだって?自分で言っていて、おかしいと思わないの?」

真琴の声には、はっきりとした皮肉がこもっていた。

朔也の顔が一気に険しくなった。

しばらく、張り詰めた沈黙が流れた。

やがて朔也が鼻で笑い、嘲るように言った。

「真琴、4千円だけじゃ、何日ももたないだろ。莉奈の代わりにやるなら、金を振り込んでやる。2万円か、4万円か。好きな額を言えよ」

朔也が莉奈のために、金で自分を言いなりにしようとするとは思わなかった。

それでも真琴は、ほんの一瞬黙っただけだった。

海外の大学は渡航費を負担し、入学後には奨学金も支給すると約束してくれている。

けれど、何か不測の事態が起きたとき、手元に金がまったくないわけにはいかない。

そして朔也は、御堂グループの一人息子だ。

彼にとって、最も困らないものが金なのだ。

真琴は顔を上げ、薄笑いを浮かべる朔也を見た。

「20万円。振り込みを確認したら、莉奈の代わりに行く」

朔也の顔から、笑みが消えた。

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