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第2話

Auteur: 酸っぱいミカン
紗枝は口元を手で覆い、怯えたような仕草を見せた。

「誤解よ、私たちそんなんじゃないわ……」

怜治はすぐさま彼女を背に庇い、私を睨みつけた。その目には明らかな怒りが宿っていた。

「竜美、頭がおかしくなったのか?義姉さんに対してなんて口を聞くんだ!紗枝は俺の兄貴の奥さんだぞ!」

彼は失望したように首を振る。

「下層区画に長く居すぎたせいか?下品な連中の悪習に染まって、誰を見ても不潔な関係を疑うようになったのか?」

まるで私が重罪でも犯したかのような言い草だ。

以前の私なら、彼の威圧感に数秒と耐えられず、目を逸らしていただろう。清潔な衣服を纏い、自信に満ちた彼と、豚の血と汚物に塗れた自分。その惨めな対比に打ちのめされていたはずだ。

だが今は違う。彼に守られている紗枝を見て、私は思わず嘲笑の表情を浮かべた。「そう思わないなら、亡くなったお兄さんとの兄弟愛が深すぎて、その未亡人を部屋に囲ってるって解釈すればいいの?」

怜治は言葉を詰まらせた。彼と紗枝の亡夫、古賀巍(こが たかし)は確かに兄弟だったが、犬猿の仲だった。

先に異能に目覚めた兄は、弟を召使いのようにこき使っていた。怜治がより強力な炎の異能に目覚め、復讐を果たす前に、兄は任務中に戦死してしまったのだ。

未亡人となった紗枝は、多額の遺族年金としての貢献ポイントを受け取った。しかし彼女は有名な箱入り娘で、働く術を持たない。

誰もが、この寄生虫のような女がいつ破滅するかと噂していたが、彼女は今も変わらず美しく咲き誇っている。私の彼氏が、彼女に必要な養分をすべて提供しているからだ。

プップー!

装甲バスのエンジン音が静寂を破った。

「もういい。とりあえず荷物を下に運んでくれ。詳しいことは安全な場所に着いてから話す」

私が動き出そうとすると、怜治は私が逃げ出すのを恐れるようにドアを塞いだ。だが私はトランクを持ち上げ、肩に担いだ。

怜治だけでなく、紗枝までもが呆気にとられた。「竜美ちゃん、運んでくれるの?」

怜治は眉をひそめ、信じられないという顔をした。「骨を折っても泣かないお前が、こんなに簡単に折れるとはな」

ああ、彼は私を理解していないわけじゃない。私の扱い方を熟知しているからこそ、こうして平然と利用できるのだ。

ただ、今回は事態が切迫していてボロが出た。そのおかげで、私は彼の「秘密の家庭」を知ることができた。

今、彼に対して感じるのは吐き気だけだ。これ以上顔を見ていたら、本当に吐いてしまいそうだ。

「撤退するんでしょ?早くしないと、私の発作が起きて動けなくなるわよ」

その言葉に、怜治は慌てて道を空けた。

「そうだった、お前には妄想癖があったな。

もし化け物を人間とでも間違えて、紗枝の大事なコレクションを無くしたり壊したりしたら大変だ」

この期に及んでも、彼が心配するのは紗枝の荷物だけ。私はもう何の感情も湧かなかった。

トランクを担ぎ、バスの方へと階段を降りる。

怜治が一瞬戸惑ったように私を呼び止めた。「竜美、安全な場所に着いたらちゃんと説明する。お前が考えてるようなことじゃないんだ……」

私は振り返らなかった。

説明なんて必要ない。

安全圏に着いたら、私は彼を捨てる。男なんて服と同じだ。どんなに高級で美しくても、汚れたら捨てるしかない。着続けたら笑いものになるだけだ。

どうせ私には「対豚必殺」の異能がある。どこへ行っても豚殺しで食っていける。

重い荷物を担いで先頭を行く私。後ろは紗枝の手を引いて歩く怜治。彼は彼女の歩調に合わせてゆっくりと進み、彼女の腕にはあのラグドール、「みーちゃん」が抱かれていた。

最後の一階を降りれば、バス乗り場だ。その時、暗闇から異音が響いた!

「妖怪だ!侵入されたぞ!」

猛然と飛び出してきた影は、狡猾にも私たちの中で最も弱そうな紗枝を狙った!

「くそっ!」

怜治が叫ぶ。だが狭い階段では、彼の強力な炎の異能は使えない。味方を巻き込んでしまうからだ。

鋭い爪が紗枝に迫る。

切羽詰まった彼は、あろうことか呆然としていた私を突き飛ばした。紗枝の盾にするために!

これが、彼の言う「ただの義姉」に対する態度なのか?

彼を罵倒しようとしたが、私の意識は目の前の妖怪に釘付けになった。

妖怪を見るのは初めてではない。だが、覚醒後は厨房に引きこもっていたから、知らなかった。この世に、「豚」そっくりの妖怪がいるなんて。

それとも、私の適当な嘘が現実になったのか?私の妄想症が悪化したのか?

妖怪の爪が私の腕を掠め、一筋の血が流れる。鋭い痛みが私を現実に引き戻した。恐怖よりも生存本能が勝り、私は無我夢中で蹴りを入れた。

効かないと思っていた。だが、基地の精鋭たちが「殺戮マシーン」と恐れる妖怪は、私の一撃で数メートルも吹き飛んだのだ!私が育てている豚よりも弱い!

深く考える間もなく、距離を取った怜治が炎を放ち、妖怪を焼き殺した。

彼は冷たい顔で私に歩み寄る。突き飛ばしたことを謝るのかと思った。だが、彼の口から出たのは叱責だった。

「荷物をしっかり持ってろよ!地面に落としたせいで、中身が散らばっちまったじゃないか!」

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