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第3話

Author: イチタチ
葵も隣で急かしてくる。

涼太は辞表を手に取ると、雑に床に投げ捨てた。

「前にも言っただろ。ただの形式的なものだって。わざわざ大げさに騒ぐなんて、呆れるよ」

そう言い放つと、彼は葵の手を取って背を向けた。

しわくちゃの辞表を拾った瞬間、周囲で巨大なクラッカーが鳴り響き、涼太と葵の結婚を祝う歓声が響き渡った。

私は冷ややかな笑みを浮かべ、そのまま車を走らせた。

辞職の手続きを済ませて家に戻ると、顔中傷だらけで泥まみれの私を見た家政婦の藤本莉子(ふじもと りこ)が、息を呑んで家庭医を呼ぼうと慌てた。

私は首を振った。「大丈夫、自分で手当てするから」

ちょうど宅配便が届き、莉子は嬉しそうに箱を運んできて、私の前で開封した。

「若葉様、見てください。すごく高いオーダーメイドの服ですよ。1ヶ月前から予約しないと買えないような高級品です!

最近は涼太様も葵様に気が向いているみたいですが、ただの魔が差しただけです。本当に思っているのは、きっと7年も一緒にいる若葉様に決まっていますよ!

ほら、涼太様はちゃんと若葉様を見ていらっしゃいますよ。内緒でプレゼントも用意して、驚かせようとしたのですね」

なんだこれ?飴と鞭というやつ?

私は心の中で苦笑いしたが、喜ぶ莉子のまえでは黙っておくことにした。

幼い頃から涼太を知る莉子は、私たちの微妙な距離感を察して、関係を緩和させようとしていたのだろう。

私は手当が先だと思い、服には目もやらなかった。

私の傷の処置に手間取っているのを見て、莉子が消毒液を塗りながらなだめるように言った。

「涼太様は昔から落ち着かない性格で、目新しいものが大好きで、怒った時も自分のことばかり考えてしまいますから。

でも私は涼太様の成長を見てきたからわかるんです。気は短くても、大事な人が誰なのかは心の中で分かっているはずですよ。

意地悪をされても、どうかまともに取り合わないでください。涼太様もひとしきり気が済めば、自分の過ちに気付くはずです」

涼太はどういう性格か?7年の付き合いで嫌というほど分かっていた。

「目新しいものが好きなだけ」も、「気が済めば自分の過ちに気付く」も、半分くらいは信じている。

涼太が葵のために何度も私に濡れ衣を着せ、そのたびに後で機嫌をとってきた。だがそれは、彼が婚約者の私を差し置いて葵と結婚式を挙げる理由になるわけがない。

自分の計画を思い出し、私は多くは語らず、「涼太の性格は、私も分かっているつもりです」と濁した。

莉子は嬉しそうに続ける。「そうでしょう?涼太様は本当に若葉様を愛しているんですよ。当初、お二人の結婚に奥様が猛反対した際、涼太様は1週間も一切食事を口にせず抵抗したのです。

奥様に『死ぬなら相続権を放棄させる』と脅されても、涼太様は一歩も引かなかったのですから。

もう、見ている方も痛々しくて……最後は奥様が折れたのですよ」

私は言葉を失った。涼太からはそんなこと一言も聞いていなかった。

彼は「母さんが結婚にはまだ早いとか言ってるけれど俺が説得する」とだけ言っていたのに。

そんな過酷なまでに反抗したなんて、一言も私に教えてくれなかった。

胸の奥でいろんな思いが混ざり合う。今の傷は偽りではないけれど、昔の真剣な愛情も本物だったのだと痛感した。

いっそ最初から、ただの遊びだったらよかったのに。

当時のひたむきな愛がなかったら、こんなドロ沼の中で葛藤せずに済んだのに。

一度は深く愛したからこそ、今は私を愛していないという現実も、7年という時間への未練も、簡単には切り捨てられないのだ。

莉子が手当を終え、再び尋ねた。「その服、少しご覧になりませんか?涼太様のセンスを覗かせてもらいましょうよ」

しつこい催促に煩わしさを覚えつつも、私は箱を開け、ドレスを自分の体に当ててみた。

少なくとも私のサイズより二つは小さい。

状況を理解した莉子が呆然とつぶやいた。「どうしてサイズが……」

私は精一杯の笑みを作り、「間違えたわけじゃないわ。ぴったりだよ」と答えた。

私の服のサイズは常にL、Sサイズは葵のものだから。

これは私を喜ばせるためのものじゃない。葵のためのプレゼントだ。

結局、私の思い上がりだった。

莉子は一瞬呆然としたあと、気まずそうに顔を真っ赤にした。

私は静かに服を片付けると、疲れた声で言った。「誤って人のプレゼントを開けてしまった。藤本さん、後で涼太に謝っておいてくれない?」

次の瞬間、涼太がドアを開けて入ってきた。

愛する人と結ばれ上機嫌な彼は、私を見るなり柔らかな表情を浮かべた。

だが、開封されたドレスに視線が落ちた途端、その顔色は瞬時に曇りきった。

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