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17:ゼノンの心1

last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-17 11:39:18

【ゼノン視点】

 僕は物心ついた時から孤独の中にいた。

 孤独が当たり前過ぎて、寂しいと気づきもしなかったほどだ。

 貧民街でその日暮らしをしていた僕は、ある日、神殿の使いだという男に出会った。

 彼が言うには、僕は聖騎士として高い素質を持っているらしい。

 魔力、身体能力、女神の聖騎士としての高い精神力。

 それら全てを併せ持つ者は少なく、貴重な人材であると。

 聖騎士に興味はなかったが、今よりいい暮らしができるなら、と男の誘いを受けて聖騎士候補生の学校に入った。

 学生たちはだいたい恵まれた家庭の子で、僕は異質の存在だった。

 子どもというのは無邪気に悪を為す。

 異端の僕はいじめられた。

 教師の目の届かないところで持ち物を隠され、食べ物を捨てられ、暴力を振るわれて。

「さて、どうしたものかな」

 口汚い罵声を浴びせられながら、僕は考える。

 報復するのは簡単だ。いじめてくる奴らは僕よりずっと弱い。殺してしまうのもできる。

 ただ、行き過ぎた報復は大人たちの不興を買うだろう。

 この訓練学校は規律こそ厳しいが、衣食住は整っている。不潔な貧民街よりずっと暮らしやすかった。

 ここを追い出されるのは、避けたかった。

 ほどほどに痛い目にあわせてやめさせよう、と決めたところで、アレクが割って入ってきた。

「お前たち、何をやっているんだ! 多数で一人をいじめるなんて!」

 彼は自分がいじめられたわけでもないのに、本気で怒っていた。

「弱いものをいじめるなど、卑怯の極み! 恥を知れ!」

 そう言って、いじめっ子たちを相手に大立ち回りを演じて、全員をのしてしまった。

 そうして「これで分かったか! お前たちがいじめたゼノンは、もっと痛い思いをしたんだぞ!」と説教をしていた。

「大丈夫か、ゼノン」

 ぼろぼろになった姿でそんなことを言うものだから、僕はくすくすと笑ってしまった。

「大丈夫だよ。それに、僕は『弱いもの』ではないからね。やり返すタイミングをう

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