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番外編:兄の奮闘2

last update Last Updated: 2025-07-18 11:52:58

「ゼノン様。ちょっといいですか」

 そんなわけである日、俺はゼノンに話しかけた。

 場所は聖騎士詰め所の片隅。アレクと並んで歩いていたゼノンは、俺の声に振り向いた。

「はい。あなたはユリアン・コーマさんですね。何のご用でしょうか」

 名前を把握されている。

 俺とゼノンは特に関わりがなかったのに、ちょっとこわい。

 ゼノンはアレクと別れて俺についてきた。

 訓練場まで移動して、俺は彼に向き直った。

 周囲には聖騎士や準聖騎士が何人かいるが、俺たちは特に注目されているわけではない。

「単刀直入に言う。あなたはエリーをどう思っているんだ」

 聖騎士相手だったが、敬語を使う余裕をなくしていた。

 ゼノンは少年らしからぬ穏やかな笑みで答えた。

「とても素敵な人です」

「当然だ。エリーはこの世で一番素敵な子なんだ。気が合うな」

 言ってしまって、いやそうじゃないと気づく。

「……そうではなく、付き合いたいと思っているのか? だったら兄として見過ごせない」

 ゼノンは少し驚いたように目を見開いて、それから考え込んだ。

 考え込む時間は意外に長くて、俺は不安になった。

 あいつはエリーをどう扱いたいんだ。答えが出ないのは、やましい気持ちがあるからではないか。例えばポイ捨て予定の遊び相手とか……!!

「僕はエリーさんと、付き合いたいわけではありません」

 ようやく返ってきた答えに、俺は目を吊り上げる。やはりただ遊ぶためか!?

「結婚して、生涯をともに歩みたいと思っています」

「……へ」

 思わぬセリフに、間抜けな声が出た。

 ゼノンは生真面目な顔で続ける。

「結婚の前提に恋人としてのお付き合いが必要というのであれば、やぶさかではありませんが。僕はもっとしっかりした絆で、エリーさんと結ばれたいです。ただの恋人など別れてしまえば終わりではありませんか。そんなの嫌です」

 俺はシスコンの自覚がある。エリーを溺愛している自覚も。

 でも今回はドン引
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