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 転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~
転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~
Author: 白野ましろ

これはよくある断罪劇の一幕――の、はずだった

last update publish date: 2026-09-07 12:24:53

 これはよくある断罪劇の一幕──の、はずだった。

 煌めくシャンデリアの光が降り注ぐ大広間。

 その中心には、王太子と貴族の子弟たち。

 正義と信仰を掲げる若者たちが並び立ち、場はまるで神聖な裁きを思わせた。

 前に立たされたのは、公爵令嬢ローザリア・フォン・クロイツ。

 金の髪が波打ち、紅玉の瞳が静かに光を返す。

 こんな場面に立たされているというのに、怯えも動揺もなく、そこにあるのは、ただ、威厳と美。

「ローザリア・フォン・クロイツ!

 お前の罪は明白だ!」

 王太子の声が大広間に響き渡った。

 張りつめた空気のなか、ざわめきが広がる。

「聖女リリエルを妬み、数々の嫌がらせを仕組んでいた。

 ──違うとは言わせない!」

 王太子の断言に、視線が一斉に移る。

 そこに立つのは、淡い金髪に光を宿し、エメラルドの瞳を凛と輝かせた少女。

 可憐な花のように立つ彼女の肩が、かすかに震えた。

「可憐なリリエル……可哀想に、こんなに震えて」

 王太子が彼女の肩を抱き寄せる。

 それを側近の魔術師と騎士が取り囲み、向かい合うように立つローザリア。

 光と影が対峙するような、その光景はあまりに完璧な構図だった。

 舞台の上ではそれぞれが役割を果たし、観衆は息を詰めて“結末”を待つ。

 それは、望まれた予定調和。

 だが──

 その夜、観衆の誰もが想像しなかったセリフが響くことになる。

 ◇

(もう!ローザ様はどうして何も言わないのよ!)

 私――聖女リリエルは、頭の中で必死に叫んでいた。

 背中にはじっとりと嫌な汗が伝っている。

「嫉妬に駆られて聖女を陥れ──盗賊事件でも、魔力暴走でも、必ずお前が現れた!」

「本来ならば、安全なところで守られるべき聖女を──お前は自ら危険に追いやり、都合よく救うことで信頼を得たのだ!」

「そうだ、聖女を狙って事件を仕組んでいたとしか思えぬ!」

 王太子たちは、いかにも重大そうに罪状を並べ立てている。 

 ――こんなの、証拠というにはお粗末すぎるのに、どうしてだれもつっこまないの。

 視線をやると、当のローザリアは完璧な微笑みを浮かべていた。

「さすが公爵令嬢」「動じないわ」なんて囁かれているけれど──

 あの表情を私は知っている。

 余裕なようでいて――ただボーっとしているだけの、あの顔。たぶん何も考えていないか、今日のデザートのことでも考えているのだろう。

(ねぇ、ほんとしっかりしてよ! 自分のことだってわかってる?

 なにこれ、やっぱり私がどうにかするしかない感じ?やっぱりそうよね!? 

 でもどうする?強制力を全部ぶち壊す何かいい案は………)

 私の脳裏に、これまでの光景がよぎる。

 ──あのときも、助けてくれたのはローザリアだった。

 盗賊にさらわれた夜。

 恐怖で膝が震え、声も出せなかった私の前に、彼女は躊躇なく現れた。

 月明かりを浴びた金の髪が揺れ、赤い瞳は宝石のように輝いていた。

 彼女の放った魔法は、盗賊たちを一瞬で薙ぎ払って――

「リリィ、遅れてごめんなさい」

 そういって、半泣きで私を抱きしめた彼女。

 魔力暴走に巻き込まれた時だって……

 自分の制服の裾が燃えているのになんでもない顔をして、私の前に立ち続けてくれた。

 強制力には抗えないからと諦めていた私を守ってくれたのは、いつも彼女。

(だめ、このまま断罪なんて──!)

 もしこのまま断罪されれば、ローザリアは修道院送りだ。

 そう、"決まっている"。

 彼女が洗濯や料理なんてできると思う?無理に決まっている。まだ辺境の地へ追放なら、クマくらい軽く倒して、逆に大活躍だろうけど……って、いやいや。

(そういう問題じゃないのよ!)

 広間にいる誰もが、私を心配そうな瞳で見つめている。

 それに、さっきの王太子のセリフ。

 ……笑わせないで。

 私が震えていたのは、恐怖とか、心配とか、そんなんじゃない。

 怒りと、どうにかしなくてはという焦り。

 私の中で、答えはひとつしかなかった。

 強制力なんて、知らない。

 私が、ぶち壊してやる。

 ――私は深く息を吸い込んだ。

 心臓はうるさいほど打ち鳴らしている。

(やるのよリリエル。ローザ様を守れるのは、私しかいないのよ!)

 喉の奥から突き上げてくるものを、そのまま声に変える。

「──お待ちくださいませ!」

 大広間の空気が張り詰め、一瞬にして静寂に包まれた。

(声震えなかった。奇跡!!)

 場内の視線が一斉に突き刺さる。

 背筋に冷たいものが走るけど、もう退くつもりはない。

「そのような事実は一切ございません!」

 観衆の間に、静かな波紋が広がっていく。

 張り詰めた空気を切り裂くように息を吸い込む。

「なぜなら――」

 誰もが息を呑み、次の言葉を待っていた。

「わたくしたち……お付き合いしているからですわ!」

 ――爆音のようなざわめきが広間を揺らした。

「お付き合い……!?」

「まさか聖女様が……!」 

「ローザリア様と……!?」

 観衆のざわめきは波のように押し寄せ、誰もが信じられないという顔をしている。

 聖女リリエルは堂々と胸を張っていた。

 ……ように、見えていたと思う。

(……言っちゃった――!!!)

 心臓が跳ね上がり、背中にじっとりと汗が伝う。

 もう引き返せない。

 顔だけは冷静を装って、私は胸を張り続けた。

「わたくしは、何度もお伝えしたはずですわ。

 その“証拠”とやら──

 もう一度、きちんと検証なさってくださいませ。

 それが意図的に作られたものではないと、

 胸を張っておっしゃれるのならば、ですけれど」 

「こ、恋人……!?」

「嘘だろ……聖女様とローザリア様が?」

「やっぱり!あの二人、いつも一緒にいたもの!」

「でも、王太子殿下は……」

 憧れの眼差しと困惑の声が交錯し、場は混乱の渦に巻き込まれる。

 そりゃそうよ、私だって混乱してる。

「り、リリエル、一体どうしたのだ」

 王太子が血相を変える。後ろに控えている二人が顔を見合わせたのがわかった。

「ふ、ふざけるな! ローザリアが仕組んだに違いない!」

 騎士が声を荒げ、隣の魔術師は淡々と睨みつける。

「自らの罪を覆い隠すために、聖女を巻き込むとは……」

(そう。あくまでこの茶番を続けるというのね)

 緊張していた心が、逆に冷たくなっていく。

 当のローザリアは──赤い瞳を大きく見開き、言葉を失っていた。

「リ、リリィ……!? ちょ、ちょっと待って……っ

 それ、どういう……っ」

 しどろもどろになり、耳まで真っ赤に染まっていく。

 赤い瞳は泳ぎ、唇はかすかに震えて――なんだか、ちょっと可愛い。

(なんで照れてるのかわからないけどナイスよ!そのまま余計なことは言わないで!!)

 観衆は一斉に息を呑み、やがてため息混じりの声を漏らした。

「ご覧なさい、ローザリア様が……照れておられる!」

「いつも余裕を崩さないお方が……! なんて初々しい……」

「尊い……!」

「並ぶと絵のような完璧さ……」

 ……うん。

 自分が言ったことだけど、なんかこれ、大丈夫かな。

 でもおかげで優勢なのはこちらのようだ。

「……こんな茶番、うんざりですわ。ローザ様、行きますわよ」

 修道院、という言葉はまだ発せられていない。

 ここは混乱に乗じて逃げてしまおう。

 私は強気に言い放ち、ローザリアの腕を取る。

 観衆は割れるように道を開けた。

 その視線はもはや、まるで祝福を送るかのようだ。

「ど、どうしたんだい……リリエル……!」

 混乱した様子の王太子が声をかけてくる。

 見た目も魔力も兼ね備えた、完璧と名高い王子様。

 でも私から見たら――そ・う・い・う・役・割・な・だ・け・の、つまらない男。

「わたくしはどうもしませんわ。……昔から、こういう性格でしてよ」

(そうよ。何をしても、何を話しても、勝手に自分の理想通りに見ようとしていたのはあなたたち)

 それが、ゲームの強制力だったのだろうけれど。

(もしかして、断罪が崩れたせいで、それも弱くなってきているのかしら)

 そのままローザリアの腕をとって、颯爽と会場を後にする。

 ……堂々と、見えていたならいいのだけれど。

 会場を後にすると、なんだかとんでもないことをしてしまった気がしてきた。

 隣のローザリアはまだ耳まで真っ赤にして、完全に固まっている。

(……うん。

  まずは、こっちの誤解を解くところからか)

  ふぅ、と何度ついたかわからないため息をつく。

(きっと殿下が今の私の表情を見たら、ローザ様が私を困らせている、と言うんでしょうね)

 それでも。

 私は、初めて「自分が変えた」という達成感に、胸が高鳴るのを感じていた。

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