LOGIN異世界に召喚された主人公ミナトは、パーティに追放される度レベルアップするチートスキル<追放系>を所持していた。 「うるっせえ!! ばーーか!!」 「んべろべろっ! ばあ!!」 パーティの指示を無視し、数々の仲間たちを煽り散らした。それによって得た追放回数は二桁に上る。 このまま追放を繰り返せば最強だ。 ……そう思った矢先、彼の噂が巷で流れる。 「狂犬ミナト、クソ野郎だ。パーティはやめておけ」 これまで好き勝手してきたミナトには、当然の報いかもしれなかった。 パーティに参加できなくなったミナトは、どう窮地を脱するのか? ミナトは追放を繰り返し、最強に近づけるのか。 ――いや。追放なんて、彼には必要ないのかもしれない。
View More「きゃああああ!!!」
女性の悲鳴が、ダンジョンの洞窟奥から響いてくるのが聞こえる。 ミナトは魔法の詠唱を止めると、剣の柄を握り声のする方へと駆け出した。 急げ。足を回せ。 洞窟の岩肌が、車窓から見える景色のように後ろへと流れていく。 「来ないで! やめて!」 ミナトの視界に映るのは、2体のオークに襲われる女性冒険者。正に今、オークの棍棒が振り下ろされようとしている。 まずい。やるしかない。 ミナトは背中から剣を抜くと、オークに接近しそれを振り下ろした。 「ザン・スラッシュ!!」 「ゴアアッ!」 ミナトの剣技とオークの悲痛な叫びが、同時に響き渡る。 「オウ!オウ!!」 もう一体のオークは、ミナトの突然の登場に狼狽えているようだ。その隙を見逃さず、ミナトは横一閃に剣を薙ぐ。 「ナギ・ホリゾンタル!!」 「ボガッ!」 瞬時に斬り伏せられた2体のオークは、電池が切れたようにその場に倒れた。 「ふう」 ミナトは一息付くと、そばに倒れ込んでいた女性冒険者に目を向ける。 最初に支給される皮鎧に、店で一番安かった剣。盾はまだ大きくて立派だが、それにしても新米冒険者の様相をしている。その盾を見るにタンクだろう。 「あ、あの……ありがとうございます。私、死んじゃうかと……」 「……ああ」 女性冒険者は潤んだ瞳で、震えながら自分自身を抱きしめていた。 しかし不可解なことが一つ。こいつまさか。 「あんた、もしかして一人か?」 ミナトの問いに、その女性冒険者は肩を震わせた。 「は、はい」 ……やっぱり。 「お前、アホなのか?」 「へ……?」 タンクは仲間を守るジョブだろう。守る仲間がいなくてどうする。チュートリアルはしてこなかったのか? そう言いかけて、やめる。ミナトは、この世界にそんな優しいものが存在しないということを、すでに自身の経験で痛感していた。 ミナトは、ため息をつく。 「……町に戻ったらパーティを組めよ。話はそれからだ」 全く。なんてアホに出会ってしまったのだ。 しかし、ミナトはそこまで悲観していなかった。理由は、恐らくこの後すぐに起きるであろうアレのおかげだ。 「おい!!」 ……噂をすれば。 後ろから、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。 ミナトは、その声に振り向く。 「なんだよ?」 そこには、同じく新米のソルジャーにタンク、ヒーラーが並んでいた。 そう。ミナトが所属するパーティである。 「勝手な行動するな! 何度も言ってるだろう!!」 「そうです、困りますよ」 「リーダーの言うこと聞けないんなら分かってるよな?」 ミナトのパーティの3人は、揃いも揃ってミナトを揶揄していた。そしてミナトは、パーティの奴らに見えないよう下を向くと、密かに口角を上げる。 ……今だ。今がベストだ。 ミナトは確信すると、出来得る限り邪悪な笑みを浮かべようとしながら、3人を睨みつけた。 「うるっせえ!! バーーカ!!!」 「……は?」 言った。言ってやった。 パーティの3人は、何が起きたのかと一瞬ポカンとしたが、すぐに表情を歪ませた。 来るぞ、俺の願う言葉が。 「お前……! 追放だっ!!」 パーティのリーダーは、すぐさま自身の冒険者カードを取り出すと、何やら操作をし始めた。そしてその直後、ミナトの胸ポケットに仕舞っていた冒険者カードが震える。 ミナトがそれを取り出すと、カードにはミナトの望んだ2文字が並んでいた。 ——追放。 「もうお前とはやってられねえ。じゃあな!!」 「さようなら」 「クソ野郎が!!」 パーティの3人——いや、元パーティの3人は、踵を返し遠くへと歩いていった。 ——被追放回数10回に到達。レベルが10に上がります。—— 脳内に流れるアナウンス。それが終わると、体に刻まれていた擦り傷が治り始めた。感じていた疲労も、それまでが嘘だったかのように霧散していく。心なしか、力も漲ってくるようだ。 ああ、いつも通りだな。……全く。何なんだこのスキルは。 ミナトは自身の馬鹿馬鹿しいスキルに吐き捨てながら、それを授かった時のことを思い出していた。「ボォォォオオオアアアア!!!!」 金棒を持つキングオーク。その叫び声で、床や壁は地震が起きたように震動する。 「ぐあっ!」 「耳が……」 冒険者たちは耳を塞ぐ。その瞬間、キングオークはその場から姿を消した。 ——いや、消えたのではない。 「はやっ……!」 キングオークは、冒険者の先頭に立つミナトの眼前に移動していた。 振り下ろされる金棒。 すんでで避けるミナト。 それは、耳元で風を切る。 すぐに翻ると、ミナトはキングオークに手を翳した。 「ウィンド!!」 「ボウッ」 キングオークの顔面に命中する。が、その体躯だ。嫌がるような表情を見せるが、微動だにしない。 「グオオオ!!」 その雄叫びに合わせて、再び金棒が向かってくる。キングオークの薙ぎ払いだ。ミナトは掌を広げると、今度は地面に翳す。 「ウィンド!」 地面に向けられた風魔法は、突風となりミナトの体を持ち上げた。ふわりと舞い上がり、キングオークの金棒を避ける。 ミナトを見失ったのだろう。キングオークは眼下で激しく首を振っていた。 ——今だ。 キングオークの頭上から、ミナトは自由落下していた。剣先を真下に向け、頭蓋を狙う。 「トツ・スタブッ!」 ミナトの剣先はキングオークの頭を掠め、右肩に命中した。 「ブオオアアア!!」 くそ。ギリギリで避けたか。 ミナトは風魔法を駆使し緩やかに地面へと降りると、バックステップで距離を取った。 キングオークの肩からは、血が流れている。しかし、動き
「ゴアア!」 「セン・スピニング!」 3体のうちの1体——オークAは、ミナトの剣技に首を掻き切られると、血を噴き出しその場に倒れた。 セン・スピニング。剣を構えながら自身が旋回することで、全方位の隙を無くしつつ、その旋回の力を利用し前方の敵に斬りかかる。ザン・スラッシュと並び、初級に数えられる技だ。 「ボッフ!」 「ガアアアア」 セン・スピニングによって攻めあぐねていた2体のオークは、倒れた同胞を見て興奮していた。 ああ、今だ。 ミナトは決断すると、オークBに手のひらを向けた。 「ウィンド!!」 手のひらから放たれた突風。 「ボウッ!」 それはオークBの顔面に届き、半歩後ろに下がった。 ミナトはその隙にオークCへと駆け出す。各個撃破。そのための簡単な戦略だった。 「ザン・スラッシュ!」 「ブアアア!」 オークCを斬り伏せると、すぐにオークBへ焦点を合わせる。オークBはミナトの風魔法から復帰し、すでにこちらへ切り掛かっていた。 はっ、もう遅い。 「トツ・スタブ!」 「バハア!」 ミナトの刺突。腹部を貫かれたオークBは、ミナトが剣を引き抜くと同時に力なく倒れた。 「ふう」 ミナトは一息つくと、剣を鞘にしまう。 うん、この程度なら1人でいけそうだな。 「うお、オーク3体を1人で……?」 背後でミナトの戦闘を見ていた冒険者たちは、その戦いぶりに衝撃を受けているようだった。 「お前、1人で何体倒せる?」 「1体が限界だろ……そもそもパー
D級ダンジョン〈永久の庭〉。町から東へ数km離れた、初心者御用達のダンジョンだ。冒険者たちは、ギルド裏からこの〈永久の庭〉の前に移動してきていた。 ミナトは、ここ一帯に集まっている冒険者たちを一瞥する。 「つっても……」 人数が多いな。優に30人は超えてるんじゃないか? 今回のレイドボスはC級という情報だが……。 ミナトは周囲で談笑していた冒険者に近付いていく。 「なあ。ここにいる奴らはみんなC級以上なのか?」 ボスがC級の場合は、冒険者もC級以上が参加するのが常識だ。かくいう俺もD級だが……まあ、どうにかなる。 冒険者の二人は、ミナトの声に反応して振り返った。 「ああ……いや、ほとんどD級だ」 「何だって?」 おいおい、大丈夫なのか? 「剣姫セナ。知ってるだろ? この町唯一のAランカー。そいつが今回参加するんだよ」 「は、はあ」 「ボスはそいつに任せつつ、レイドバトル参加報酬が目当て。おこぼれだけもらうって魂胆さ」 ははあ、なるほど。悪知恵の働く奴らだな。にしても、剣姫セナか。俺の今回の狙いに邪魔じゃなければ良いんだが。 ミナトが思案していると、冒険者の一人が小声で何かを話し始めた。 「おい。こいつ、癖毛の黒髪に紫の目だ。狂犬ミナトじゃねえか?」 「うげ、マジかよ! 俺話しちまったよ!!」 2人はそう言うと、跳ねるようにその場を後にする。 「くそ……」 結構広まってるな……。 いや、別に良いさ。今回のレイドバトル。ここで活躍して、良い評判を取り戻してやる。俺より活躍しそうと言ったら剣姫セナくらいだろう。大したことじゃない。 ミナトが自分に言い聞かせていると、遠くにいた女性冒
……クソッ。全部あのアホコスプレ女のせいだ。 ミナトは、記憶の中にある青い長髪を靡かせた忌々しい女性に悪態をついた。 一定の活躍なんぞ分からないが、とにかく強くならなければ。元の、俺がいたはずの世界に帰るんだ。 ミナトが頭を悩ませながらギルドの扉を開くと、突然肩を強く掴まれる。「おい、ミナト!!」 振り返るとそこには、パーティの面々が立っていた。それも、今朝組んだばかりのパーティ。みな一様に険しい顔をしている。「お前にはうんざりだ! 右から崩せと言えば左から、1度退けと言えば敵に突進……」 その険しい顔は、みるみるうちに歪んでいく。「なぜいつも指示と逆のことをするんだ!!」 そしてミナトは、いつも通り笑みを浮かべた。 ふむ、今回はどうしてやろうか……。 あっ、そうだ。そうしてやろう。 ミナトはトドメの一撃を決めると、顔を上げた。両眼の下瞼を引っ張り、舌を出す。「んべろべろっ、ばあああ!!!」 俺の一撃は、ギルド前の通りに響き渡った。「てめっ……!」 ミナトの口角は、微かに上がる。「追放だっ!!」 すると、あっという間に操作された冒険者カードにより、俺の胸ポケットが震えた。 ——被追放回数11回に到達。レベルが11に上がります。—— いつもの脳内アナウンスだ。一体これも、どういう理屈で聞こえるのか……不明だ。「じゃあな!」 元パーティの面々は、そう吐き捨てると足早に去っていく。「ふう……」 これでレベルは11。レベルが上がるごとに攻撃力や魔力が増えている。それは、モンスターとの戦いを経て火を見るよりも明らかだった。「……確かに。こりゃチートスキルかもなあ」 アホコスプレ女から、コスプレ女に格上げしてやろう。 ミナトは心の中でそう呟くと、ギルドの入り口を潜った。