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夢と現実を繋ぐもの

last update publish date: 2026-10-10 19:30:34

 翌朝、目を覚ますと、神殿中が騒がしかった。

「なんと!! 聖女の奇跡だ!!」

「遠い昔に枯れたと伝わる神聖な泉が、再び……!」

 あまりの喧噪に、神官に連れられて外へ出ると――

 神殿の広場に、小さな泉が湧き出していた。

 石畳の一角が割れるようにして口を開き、

 透明なお湯がこんこんと湧き出している。

 薄く湯気を立てて、朝の冷たい空気に白い霞をまとわせていた。

(……え。ちょっと待って。どういうこと)

 ぽかんと立ち尽くす私の横で、

 ローザ様が口元に手を当て、クスクスと笑っている。

「……ローザ様?」

「うふふ。水脈自体はまだ健在だって、授業で習ったしね」

 え……

 もしかして、地熱の代わりに、ローザ様が水脈を温めたの……?

「ま、まさか&helli

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     翌朝、目を覚ますと、神殿中が騒がしかった。「なんと!! 聖女の奇跡だ!!」「遠い昔に枯れたと伝わる神聖な泉が、再び……!」 あまりの喧噪に、神官に連れられて外へ出ると―― 神殿の広場に、小さな泉が湧き出していた。 石畳の一角が割れるようにして口を開き、 透明なお湯がこんこんと湧き出している。 薄く湯気を立てて、朝の冷たい空気に白い霞をまとわせていた。(……え。ちょっと待って。どういうこと) ぽかんと立ち尽くす私の横で、 ローザ様が口元に手を当て、クスクスと笑っている。「……ローザ様?」「うふふ。水脈自体はまだ健在だって、授業で習ったしね」 え…… もしかして、地熱の代わりに、ローザ様が水脈を温めたの……?「ま、まさか……クロイツ領で突然湧いた温泉も、もしかして……!」「私じゃないわよ。火竜の熱よ?」 しれっと言ってのける。 噴水を枯らしたどころじゃなかった。 まさか温泉を沸かしてしまうなんて、規格外にもほどがある。(……ってことは。火竜の熱がぐるっと回って、ここで泉になったってこと……?) 神殿の広場に、昔聖なる泉が湧き出ていたのは有名な話だ。(……縁起は、いい。……いいんだけど) まさかこんなオチになるとは思わなかった。 じっとりした目でローザ様を見ると、 わざとらしく目をそらす。 その仕草がどことなく子供じみていて、 思わずふっと笑ってしまう。(夢の世界と現実が、つながったみたい) 銀河鉄道から降りてしまったはずなのに―― 

  • 転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~    光継祭

     神殿の中は、外の喧噪が嘘みたいに静かだった。 白い香煙と、水音みたいに淡い祈りの声。 それだけで、昨日までの熱気は、薄い膜の向こう側に押しやられている気がする。(……銀河鉄道だったんだ、あの馬車は) ふっとそんな言葉が浮かんで、ひとりで可笑しくなった。 夢みたいにやわらかくて、綺麗で。 たしかにあのときは息づく“いま”の中にいたのに、振り返ってみれば現実味がなかった一週間。 あのあと私たちは神殿で簡素な食事をとり、 それぞれ自分の小さなベッドに潜り込んだ。もちろん、部屋は別。(神殿のベッド、小さいな……) クロイツ家の、二人で寝ても余裕のあるベッドとは大違いだ。 それも含めて、「ああ、現実に戻ってきたんだな」と思わされた。 光継祭は、日が沈んでから始まる。 それまでのんびりできるかと思っていたものの―― 配布用の護符の追加を作ったり、式典の最終確認をしたり、ローザ様と神官たちとで段取りを合わせたりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。 神殿の控室でお清めの儀を終えると、 神官たちが手際よく身支度を整えてくれる。 白いローブ。 胸元の簡素な刺繍。 髪には“光冠”と呼ばれる銀の輪。 鏡に映ったのは、完全に儀式仕様の”聖女”で。(こっちのほうが私の”現実”って、それも不思議よね) ゲームの中でも、ここはイベントの一つだった。 でも、あの頃の私は画面の向こうの聖女でしかなくて―― 今は、鏡の中の聖女が、まぎれもなく私自身だ。「聖女様、準備が整いました。 外は……大変なにぎわいでございます」 その声を合図みたいに、控室の扉が静かに開く。 回廊を歩けば、外から届く音が次第に形を帯び

  • 転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~    夢の余熱

     ―― 一週間は、本当にあっという間だった。 毎日フワフワのパンケーキを食べ、美味しいデザートに、海の幸をふんだんに使った夕食に…… ……うん、これはもう餌付けだと思う。 でもどうやらローザ様とは食の好みが合うらしい。  クロイツ家オリジナルのバターに感動していたところ、それはローザ様の好みに合わせて作られたものだと教えてもらった。 香草と荒く砕いた岩塩が混ぜられた風味のよいバターは、クロイツ小麦のバゲットにぴったりで。 料理長もその反応が嬉しかったのか、  次から次へと“ローザ様仕様”がテーブルに並んだ。  ホットチョコレート、絶品だったな。  好みが合うと言えば――  別邸の奥にある小さな書庫に案内されたときは、思わず息をのんだ。  海風の通る窓と、木の香り。  壁一面に本が並んでいて――(ふふ、でも、ローザ様の雑さが出ちゃってたのよね) 魔法理論書の隣にお菓子のレシピ本。  その下には恋愛詩集と領地経営の実務書。「ローザ様……これ、分類……どうなってるの……?」 思わず聞いてしまった。「え?分類?読み途中の本は特にしてないわ。  ……あら、これはもう読まないわね」「いや、欲しい本、見つけるの大変じゃありません?読みかけの本、多すぎでは」「確かにそうねぇ。  でも基本的に一度読んだ本は読まないから、大丈夫よ。多分」 多分て。 思わず私は袖をまくった。「ちょっと片付けてもいい?  魔法理論はこっち、歴史は上段、レシピ本は……はい、この棚」 本をひとつ動かすたびに、棚に“秩序”が戻っていく。「まぁ……すごいわリリィ。棚に“意味”が生まれたわ」 「意味は最初からあったはずなんだけど……」 ――まぁ、この“混沌”具合がいかにも天才という感じもする。  多分、ローザ様の頭の中ってああいう感じなんだろうな。 その他にも、美しく

  • 転生聖女の幸福譚~悪役令嬢を救うため、断罪劇で恋人宣言してしまいました~    熱の行く先

     次の日の朝。  噂のパンケーキを食べたあと、馬車で保養地にやってきた。 湯気があちこちで立ちのぼり、岩場の間を小道がのびている。かすかに硫黄が混じった風が、ちょっと懐かしい。  “温泉”は、私の知っているものとは少し違った。 ごつごつした岩場に溜まった湯が、  赤 → 金 → 青のグラデーションに色づき、  表面では小さな気泡がぽこぽこと弾けている。「うわぁ……なんて幻想的なの」 小さな色温泉が点々と続き、湯気で揺らめくその光景は、まるで別世界だ。「ふふ、不思議でしょう?  このあたりはこういう高温の泉が多いの。  浸かるなら下の湯治場のほうね」 ローザ様が言ったそばから、しゅわっ!っと横で小さな温泉が勢いよく湧き上がり、思わず跳ねた。「わぁあっ!?」「ふふ、間欠泉ね。ここでは日常よ」 観光客でにぎわう遊歩道には、間欠泉を待ち構える子供たちの声が響いていて、なんだか微笑ましい。「ん? あれは……?」 泉の脇に、大きな何かが打ち上げられている。(え……骨……よね?)「ああ、鹿ね。時々落ちてしまう子がいるみたい」「……げっ、そんなに熱いんですか」「ええ。温泉によっては、落ちたら数分で死に至るみたいよ。  人間は落ちてないから安心して?」 それは……安心していいのだろうか。   一応柵はあるものの、そんなに厳重なものとも思えない。  「昨日新しく湧き出たという温泉もこの辺りのはずなんだけど……」 ローザ様が周囲を見回しながら歩いていた、その時だった。 ぽつ、ぽつ、と微かな音が岩場の奥から立ち昇る。  さっきまで静かだった一角が、脈を打つようにふくらんだ。「ん? ローザ様、あれ……」「……ええ、少し活発ね」 落ち着いたローザ様の声とは対照的に、  周囲の観光客がざわつき始める。「見て! あそ

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    「そういえば、リリィは休暇はどうするの?」 ――フォークの先で触れただけで崩れるチョコレートケーキが、舌の上で静かに溶けていく。 その甘さの余韻にうっとりしていた私に、ローザ様が問いかけてきた。「あぁ、えっと……」 学園はもうすぐ冬期休暇だ。 二週間近い休みに入るため、寮も閉鎖される。 ほとんどの生徒は実家へ戻る……はずなのだけれど。「ご実家は遠いだろう? 年末の光継祭のこともあるから、王家に滞在しないかと誘っているのだが」 隣でジュリアン殿下が、カップの縁に軽く口を寄せた。 何気ない動作なのに、不思議と場が整えられる。 ――そう。 なんと私は今、ジュリアン殿下の私室でティータイムを楽しんでいる。 発端は、ローザ様とライナーの手合わせ。 闇魔法を駆使してライナーを圧倒したローザ様は「あなたたち、見てしまいましたわね?」 なんて悪役さながらに笑いながら、お茶会に誘ってきたのだ。「とっておきのスイーツをご馳走するから黙っておくように」とのことらしい。 まったく、私が言いふらすなんて微塵も思ってもいないでしょうに――(可愛い人なのよね。ギャップ萌えってこういうことを言うのかしら) そして「私にも声をかけてくれるなんて嬉しいな。しかしご令嬢の私室に入るわけにはいかないから、私の応接室でどうだろう?」という、これまた本当に嬉しそうな殿下の提案により、今に至る。 ローザ様が用意した宝石みたいなケーキに、ジュリアン殿下が用意した「王室とっておき」の香り高いお茶 は、一口で緊張を塗り替えてしまうほどの味わいで。 最初はケーキどころではなかったのに、口の中でほどけた瞬間、全てがどうでもよくなった。 ――うん、権力ってすごい。 それ以上に、私の順応力もだいぶすごい。「あら、リリィ、王家に滞在するのは嫌なの?」 興味深そうに私を覗き込んで言うローザ様

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