LOGIN工芸職が盛んなスチェクローの赤髪の王女であるルベルは、世界で2番目の大国であるヘルシャフトの王子であるアーロと婚約する。 だが、スチェクローでは幸福の象徴と言われた赤髪は、ヘルシャフトでは血を連想するため、忌み嫌われていた。ルベルと結婚したくないアーロは、わざとルベルの顔に傷をつけ、顔に傷がある女と子作りは出来ないと言い、婚約破棄する。それからルベルはルーと名乗らされ、メイドとして働くことに……。 常に仮面をつけた騎士団長のレイと出会い、ルベルの運命は少しずつ動き出した……。
View More世界で2番目の大国、ヘルシャフトの城で、メイドキャップで完全に髪を隠したメイドのルーは、一生懸命床を磨く。
高級な服を着こなした青髪の青年はルーを見つけると、バケツを蹴り飛ばした。
「あっ!」
床には薄汚れた水が広がり、膝をついて床を磨いていたルーのスカートに、水が染み込む。
「ふん、鈍臭いメイドだな」
「申し訳ございません、アーロ様」
ルーは下唇を噛みながら悔しさをこらえ、頭を下げる。アーロはそんなルーを見て鼻で笑う。この青髪の美丈夫は、ヘルシャフトの第1王子。メイドであるルーが逆らえる相手ではない。
アーロは立てかけてあった箒を見つけると、ルーのメイドキャップを箒で外し、近くにあった植木に押し込んだ。
「相変わらず、血を被ったような醜い髪だな。忌々しい。そんなバカみたいな赤髪で、恥ずかしくないのか?」
「きゃっ!」
アーロに蹴り飛ばされ、ルーは汚れた水たまりの上に倒れてしまう。カツカツと小気味良いヒールの音が、ふたりに近づく。
「あらぁ、真っ赤なドブネズミなんて珍しいわね。きったなぁい♡」
ゆるく巻いた薄桃色の髪を揺らしながら来たのは、アリア・ローザ。アーロの新しい婚約者だ。表向きでは婚約者を戦争で失った哀れな乙女だが、そんな素振りは、少なくともルーは見たことがない。
「アーロ、行きましょ。こんな汚いもの見てたら、目が腐っちゃうわ」
「お前の言う通りだ。お茶にしよう。ちょうど、いい茶葉が入ったんだ」
「まぁ素敵♡」
ふたりは体を寄せ合いながら、廊下を進む。ルーはそんなふたりの背中を睨みつけていた。
(許さない……! いつか、必ず……!)
今はルーと名乗っているが、彼女の本名はルベル・スカーレットという。工芸品が盛んなスチェクローという国の王女だった。
スチェクローはガラス細工職人や鍛冶屋など、火を扱う職人が多いため、赤髪は幸福の象徴で、自国ではルベルは大事に育てられてきた。高い教養を身に着けたおかげか、そこまで大きな国ではないというのに、世界で2番目の大国と言われるヘルシャフトの第一王子であるアーロとの婚約が決まった。
この婚約はルベルとアーロの知らないところで進められ、顔合わせと同時に両国の陛下から伝えられた。王族や貴族の間ではよくある話だと、ルベルは大して気にしていなかったが、アーロはそうではないらしい。
ヘルシャフトでは、赤は血を連想する不吉な色だ。そのためルベルは、挨拶をする前からアーロに嫌われてしまった。 それでも婚約が決まってしまったのなら、従わなくてはならない。ルベルは少しでもアーロと仲良くなろうと努力した。だが、アーロは心を開くどころか、嫌悪を強めていくばかり……。ある昼下がり、ルベルは執務室にいるアーロにお茶を持っていった。アーロはちょうど手紙を開封するためにペーパーナイフを持っていて、手紙を開封する時に手が滑ったと言い、ルベルの顔を切りつけた。彼女の右頬には、横一文字の傷が刻まれた。
通常なら国際問題になりかねないが、小国寄りのスチェクローが、2番目の大国であるヘルシャフト相手に訴訟を起こすことは難しく、泣き寝入りをするしかなかった。
アーロはルベルの顔を見て、「顔に傷があるような女は抱けない。子作りができない相手と結婚しても意味がない」と言い、婚約破棄したのだ。 そして同時期に婚約者を失ったアリアと結婚した。 ルベルが自分の惨めさに震えながら涙をこらえていると、手を差し伸べられた。 顔を上げると騎士団長のレイだった。レイは常に仮面をつけており、誰も彼の顔を見たことがない。絶世の美男子だとか、犯罪者だとか、様々な噂が絶えない人だ。「失礼します。っと、後でにしたほうがいいか?」 部屋に入り、ルベルの姿を確認すると、アッシュは気まずそうな顔をする。「いや、いい。報告を」「了解。奴らはアーロ王子にそそのかされたようだ。赤髪のメイドを追い詰めたら、爵位と屋敷と初期費用の800万Gをやると言われたらしい」「そういうことか」 ベルメリオは報告を聞き、ため息をつく。 騎士達は、元は貴族や王族の人間。さぞ裕福な暮らしをしていたのだろう。そんな彼らからすれば、騎士としての生活はあまりにも質素で惨めなものだ。 貴族としての威厳や暮らしを取り戻せるだけでなく、自分を騎士団に押し込んだ両親や兄がいない生活を送れるとしたら、彼らにとって、それ以上幸福なことはないだろう。 「800万Gとは、随分安いな」 ベルメリオは吐き捨てるように言う。800万Gは庶民からしたら何年掛けて貯金してもお目にかかれない額ではあるが、貴族からしたら泡銭だ。生活水準が下がった騎士には大金に写ったのだろうが、当時の金銭感覚を思い出してすぐに破綻するのがオチだ。「団長、そのメイドは何者なんだ?」 アッシュの視線はベルメリオからルベルに移る。自分の正体やベルメリオとの関係が見透かされたような気がして、思わず目をそらす。「お前が知る必要はない」 ベルメリオはルベルをかばうように、彼女の前に立つ。「相変わらず、秘密主義か」 アッシュは肩をすくめて苦笑する。「奴らの処分は?」「北に遠征だ」 アッシュは一瞬目を見開くが、力なく笑ってうなずく。「了解。準備させておく」 アッシュが出ていくと、ベルメリオは仮面を取り、心配そうにルベルの顔を覗き込んだ。「俺はそろそろ戻らないといけないが、大丈夫か?」「えぇ、かなり落ち着いてきたわ」「そうか。だが、無理はするな。今日は休め」「いいえ、働かせて。なにかしてたほうが、気が紛れるもの」「……分かった。だが無理はするな」「はい」 ベルメリオ
「前々からデカい胸だと思ってたんだ」「やっと拝めるぜ」「あ……あ……」 ルベルは恐怖のあまり、意味をなさない言葉を発することしかできない。 男はわざとゆっくり、服を切り裂いていく。短剣は徐々に上へと上がっていく。首元の生地が切れたのとほぼ同時に、ドアが乱暴に開けられた。「チッ、他のサボりか?」「混ざってもいいからこのことは、って、あなた方は!」 男達はどよめく。男達が視界を塞いでいるため、ルベルには誰が入ってきたのか分からない。(助けて……。ベル……) 助けを求めたくても、恐怖で声が出ない。ルベルは心の中で愛しい名を呼ぶ。「随分ふざけた真似をしてくれたな」 氷よりも冷たい声に、男達は凍りつき、ルベルは希望を抱く。その声は、ルベルが何よりも聞きたかった声だ。「だ、団長! 団長は騙されてるんです! コイツは、ぎゃっ!」 ひとりが吹き飛ばされ、顔を押さえながら床の上でのたうち回る。「いぎゃっ! は、鼻が!」 男が吹き飛ばされたことによって、ようやく視界が開けた。仮面をつけたベルメリオが部屋に入ってきて、他の男を蹴り飛ばす。 その後ろで副団長のアッシュと、フライパンを構えたセキナが立っていた。「よくもルーを! この恩知らず共が!」 セキナはフライパンを振り回し、騎士達を睨みつける。「ルーを頼む」「やりすぎんなよ。って言っても、無駄か」 アッシュは肩を竦めると、拘束されたままのルベルを抱き上げて部屋を出る。怒りで顔を真っ赤にしたセキナは、フライパンを振り上げながら部屋に入っていく。 部屋からは怒号や悲鳴、何かを叩くような鈍い音がする。「間一髪ってとこかな」 アッシュは少し離れたところでルベルをおろすと、手足の拘束を解いてくれた。「あ、ありがとう、ございます……」「いいって。さてと、団長を止めてくるか。このままじゃ、冗談抜きで死人が出る」 アッシュはコートを脱いでルベルに羽織らせると、奥の部屋に戻っていった。 物々しい音が止み、すぐにベルメリオが部屋から出てきて、ルベルを抱きしめる。「危険な目に遭わせてすまない。俺の部屋に行こう」「はい……」 未だに緊張状態のルベルは、返事をするのがやっとだった。 ルベルはベルメリオに抱き上げられ、彼の部屋に連れて行かれる。ベルメリオは鍵を締めて仮面を取り、ルベルを抱きしめる。
「い、いや! 辞めてください! 私はスパイなんかじゃありません!」 自分がスパイなど、冤罪もいいところだ。朝から晩まで彼らの世話をするのに忙しかったルベルに、そんな暇などこれっぽっちもない。 「はっ、嘘つけ。汚らわしい赤髪が。お前が毎晩団長の部屋に行ってるのは知ってんだよ」 「どうせ色仕掛けして、団長を誑かしてんだろ?」 「だったら、俺等の相手くらい余裕だよな? 毎日鍛錬鍛錬で、ストレスも性欲も溜まりまくってんだ。発散させろよ」 男達の手がルベルに伸ばされる。彼らは息を荒げながら、ルベルの太ももを撫で回したり、服の上から胸を揉んだりした。瞬間、ゾワリと悪寒が走り、吐き気が込み上げてくる。 「いや、いやあああっ! やめてぇ! 誰かぁ!」 恐怖と嫌悪感で気が狂いそうになりながら必死にもがくが、鍛え抜かれた男達に、か弱い乙女が敵うわけがない。ルベルがいくら暴れても、男達に掴まれた手足はびくともしない。 男達は下卑た笑みでルベルを見下ろし、手を止めようとしない。 「へへ、いいねぇ。その悲鳴。そそるぜ」 「ウブなフリまでしてくれるなんて、サービス満点だな」 「それでこそ犯しがいがあるってモンだぜ」 「けどよぉ、ずっと足押さえてんのもめんどくせぇな」 「なら、これ使わせてもらおうぜ」 ひとりがルベルが持っていた箒を手に取り、ニヤリと笑う。男達は彼の意図を瞬時に理解し、下卑た笑みを濃くする。 性知識もほとんどないルベルだけが理解できず、未知なる恐怖に震えた。 「そいつはいい」 「俺は右をやる」 「じゃあ俺は左だな」 「な、なに? 何をするの……? お願い、やめて……」 男達は箒の柄にルベルの足首を縛り付け、足を閉じられないように固定してしまった。 「こんな格好いや! やめてってば! 私はスパイじゃありません!」 「おうおう、泣け泣け。お前が泣くほど興奮する」 「そろそろその邪魔なメイド服を剥いじまうか」 ひとりが短剣を取り出し、鞘をルベルの顔の横に放り投げた。耳元で響く重たい音が、ルベルの恐怖を増幅する。 「じっとしてろよ? お前も痛い思いはしたくないだろ?」 銀色の刃が鈍い光を放ちながら、ルベルの胸元に近づく。他の男達が胸部の服を引き上げ、切りやすいようにする。 ルベルは震えながら短剣を見つめることしかできな
数日後の朝、雲一つない青空が広がっていた。物干し竿の下で、ルベルとセキナは空を見上げる。「いい天気だ! やっぱり青空はいいねぇ」「えぇ、そうですね。ですが……」 下を見てふたりはため息をつく。足元には大量の洗濯物がある。ここ3日、ずっと雨が降り続けていたせいで、洗濯物が溜まってしまった。 宿舎の隣には小屋がある。以前騎士団の数が増え、宿舎に入り切らなかったため、急遽作った小屋だ。 雨の日はそこに室内干しをして、床にぐしゃぐしゃにした古紙を並べていたが、2日かけてようやく1日分の洗濯物が乾くという有り様だった。つまり、ふたりの足元には2日分の洗濯物がある。「こりゃ、ふたりがかりでやっても、飯を作る時間までに終わりそうにないね……。悪いんだけど、ルーは朝食が終わったら、布団を干してくれるかい? 私は洗濯物を干してから、すぐ合流するから」「分かりました」 セキナの言う通り、ふたりでひとつの仕事を片付けるよりも、分担したほうがはやく終わりそうだ。ルベルは素直にうなずく。「決まりだね。それじゃ、やれるだけやって、今日も美味い飯作るよ」「はい!」 ふたりは干せるだけの洗濯物を干すと、朝食を作る。味付けの仕方を教わったルベルは、ひとりでスープを作れるようになっていた。おかげで作業時間が以前より短くなっている。短時間ではあるが、お茶をする時間を作れるようになった。 今日はどう頑張っても、お茶はお預けだろうが……。 騎士達に朝食を振る舞うと、自分達も急いで詰め込み、食器を洗う。休む暇もなくセキナは外に、ルベルは5階に向かった。 雨が続いた後は、すべての布団を干さなくてはならない。全部は無理でも、セキナが合流する前にできるだけたくさんの布団を干しておきたい。 部屋に入ると、部屋には男性特有の汗臭さが籠もっていた。ルベルは顔をしかめながらも窓を全開にし、布団を干していく。掃き掃除をし、次の部屋へ。それをひたすら繰り返していく。 なんとか5階の布団干しと掃除を終えると、4階の奥の部屋に入る