LOGINランディはその言葉を聞いた瞬間、顔から血の気が引いた。――あれほど周到に隠していたのに、どうしてバレてしまったのだろうか?ランディは唇を震わせ、何か弁解しようとしたが、ここまで事が露見してしまっては、何を言っても無駄だった。この国の警察については、彼女もよく分かっている。確かな証拠がなければ、むやみに人を逮捕したりはしない。今回ばかりは、どうやら逃れられそうにない。ランディがパトカーに乗せられる場面は、ネット上で瞬く間に拡散された。その写真の閲覧数は、これまでのどんな投稿よりも跳ね上がった。ネット民たちはその写真を見て、みな胸のすく思いだった。さらに、次々と暴かれていく一連の証拠も相まって、誰もが拍手喝采を送った。【前から怪しいと思ってたんだよね。あいつ、絶対に裏があるって!】【それな。新古典主義の第一人者だって?ふざけんなよ。訳わかんねぇわ】【やっぱり類は友を呼ぶね。前もあいつのファン、狂犬みたいにネットで噛みつきまくってたじゃん。通りすがりの一般人まで攻撃されてたし】【コンペの時から、紬さんを露骨に目の敵にしてたのもバレバレだったし】【新古典主義の大御所なんて、やっぱり全部嘘っぱち。他人のデザイン画を盗んでただけって暴かれたしな。実家がちょっと金持ちなだけじゃん】【ざまあみろ。悪事の報いだな。これでもう、誰が庇おうとランディの潔白は証明できないね!】――海原市立病院。紬が千鶴の病室の前に立つと、中からカナの聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。呆れたように首を横に振り、ドアを押し開けて言った。「何がそんなにおかしいの?」カナはその声を聞くや否や、駆け寄ってきて紬を抱きしめ、そのままぐるぐると二回転した。「あああ、紬先輩、本当にすごすぎます!決勝戦の映像、一コマも逃さずに全部見ちゃいましたよ」カナは大げさな仕草で天を仰ぎ、尊敬の眼差しを向けながら言った。「私から言えるのは一言だけです。女神様、最高!」紬は思わず吹き出し、カナの頬を軽くつねった。「はいはい、大げさなのはそこまで。おふざけはなしよ。今は千鶴の体のほうが大事なんだから」千鶴はベッドに座ったまま、笑顔で首を横に振った。「私は大丈夫ですよ、紬さん。心配しないでください。それより、あのランディのほうが大変なこ
結衣は腑に落ちない様子で呟いた。「まさか、準優勝だったから機嫌が悪かったとか?だったら私なんてどうなるのよ、三位なのに」――私みたいな人間は、いっそ死んだほうがマシだって言うの?紬は結衣の言わんとしていることを察し、彼女の肩を軽く叩いた。「あまり深く考えないで、自分のことにだけ専念していればいいのよ」そう言い残し、紬はトロフィーと賞状を手にステージを降りた。しかし結衣は、紬の後ろ姿を見つめたまま、しばらく呆然と立ち尽くしていた。――紬がステージを降りると、普段は落ち着いている雅乃が、珍しく興奮した様子で駆け寄ってきた。「紬さん、本当にすごいです!ステージでの振る舞いも完璧でした!」目を輝かせる雅乃を見て、紬はかえって照れくさくなった。「あなたまでそんなに興奮してどうしたの?いつもの冷静さはどこへ行ったのよ」雅乃はそんな言葉も気に留めず、すっかりただのファンのようになって紬の周りをうろちょろしている。「トロフィーと賞状、私が持ちますよ!先輩は休んでください」紬はそんな雅乃の様子に、苦笑するしかなかった。顔を上げると、理玖の灰色の瞳と視線がぶつかった。紬が何かを言うより早く、理玖は大股で彼女の前まで歩み寄ると、長い腕を伸ばして、その体を胸元へ強く抱き寄せた。紬は軽く押し返そうとしたが、びくともしない。傍らにいる雅乃と文人の二人が、思わず息を呑む気配がはっきりと伝わってきた。紬は内心の気まずさに耐えきれず、顔を一瞬で真っ赤に染めた。声を潜めて言う。「周りにこんなに人がいるのに、何で抱きしめたりするの」理玖は顎を紬の首筋にそっと擦り寄せた。「構うもんか。ただ君を抱きしめていたいだけだ」先ほどステージの上で眩いほどに輝いていた紬の姿を、理玖はずっと見つめていた。彼女の美しさがこれほど多くの人の目に触れたことで、理玖はたまらなく不安になっていた。何しろ、紬はまだ正式に彼との交際を受け入れていないのだから。紬は理玖の不安を感じ取り、手を伸ばして彼の背中を優しく叩くと、小さな声で慰めた。「話なら、帰ってからにしましょう?どんなことでも相談に乗るから」紬の言葉を聞き、理玖は頷いたが、その灰色の瞳の奥には、読み取れない光が揺らめいていた。彼は紬を抱きしめていた腕を解き
二人は小躍りして喜び、まさに天にも昇るような心地だった。興奮が少し落ち着くと、カナはたまらず不満を口にした。「あのランディさん、絶対にわざと嫌がらせしたんだよ。あんな中途半端な9.5点をつけるなんて、ほんと悪趣味」千鶴も深く頷きながら、画面に映るランディの顔を睨みつけた。「確かに!でも、結果オーライですし、もう心配することはありませんわね」カナもほっと息をついた。「ほんとそれ。一つのコンペでどんだけ波乱万丈なのよ。私に心臓の持病がなくてよかったわ。じゃなきゃ、こんな刺激に耐えられなかったもん」千鶴はおどけるカナを見て、呆れたように首を振った。そのままスマホをスクロールしていた彼女は、不意に視線を止めた。「ねえ、カナさん。ちょっと見て、この人、ランディさんじゃないですか?」千鶴はそう言いながら、カナにスマホの画面を見せた。そこには、ランディがここ数年にわたって行ってきた悪行を詳細に分析した投稿が、堂々と掲載されていた。しかも、確かな証拠や時系列まで整理されている。瞬く間に拡散され、リポスト数はすでに十万を超えていた。それどころか、この話題は瞬く間にXのトレンドを駆け上がった。#新古典主義デザインの第一人者?笑わせるな!#デザイン界の新人潰し#ランディのせいで自殺者が#ランディはデザイン界から消えろ!これらの見出しを目にしたカナは、次々と目を見張り、口をあんぐりと開けたまま固まった。やがて、怒りを露わにして声を荒らげる。「このランディさんって、マジでヤバすぎ!うちらの作品にいつもケチをつけるから、わざと粗探ししてるだけかと思ってたけど。こうして見ると、ただの純粋な悪党じゃん」千鶴もため息をつかずにはいられなかった。今回ばかりは、ランディも完全に終わりだろう。一方、新古典主義デザインコンペの会場。紬は願い通り、見事に優勝を果たした。彼女が表彰式でステージに上がった時、ふと、馨が踵を返し、足早に会場から立ち去るのが目に入った。そして、「カオリ」のトロフィーを受け取りに来たのも、デザイナーではなくモデルだった。紬は少し不可解に思った。準優勝という結果にすら不満だということだろうか?三位に輝いたのは、桜井結衣(さくらい ゆい)という活発で可愛らしい女の子だった。彼
【この目、三日間光を浴びても治らないと思ってたのに、紬さんの登場で一瞬で治ったわ。まさに神】【なんか変な薬でも飲んだ?体が熱いんだけど……】【ていうか、みんな気になってるよね?あのランディさんの番、紬さんに何か仕掛けてくるんじゃないかって】【ランディさん、空気読めよ。でなきゃ、退場してもらうからな】【ずっと待ってたのは紬さんの服を見るためなんだよ。ランディのところで変なクソつけられたら、主催者に抗議文送るからな】コメント欄は、紬を支持する声で溢れかえっていた。ランディを脅すようなものまであり、暗に彼女へ公平かつ公正な審査を求めていることは明らかだった。紬が披露したプレタポルテと、彼女自身の美貌を目の当たりにして、視聴者は皆、すっかり彼女の虜となっていた。審査員である美咲と信彦の二人も、鋭い視線でランディを見つめていた。本来なら、ランディはここで口を挟み、わざと紬のステージにケチをつけるつもりだった。何しろ、彼女が出場するコンペでは、毎回のようにハプニングが起きている。これが人目を引くための話題作りではないと、誰が言い切れるだろうか。ランディは、こうして見え透いた小細工を弄し、姑息な手段を使おうとする人間が何よりも嫌いだった。ネット上のコメントを見ても、彼女は鼻で笑うだけだった。ネット民がどれだけ自分を攻撃しようが、それがどうしたというのか。どうせあの連中は自分のいる高みに一生手が届かないし、自分の生活には何の影響も及ぼさないのだから。だからこそ、ネット上の言葉などまったく意に介していなかった。ランディが良心を無視して辛口の評価を下そうとした、その時だった。スマホが「ブー、ブー」と二度震えた。スマホを開いて確認すると、なんと主催者からのメッセージだった。その内容をはっきりと確認した瞬間、スマホを握りしめるランディの指先から血の気が引き、白くなった。【まともな審査をしてください。さもなくば、どうなるか分かっていますよね】この言葉は、まごうことなき脅迫だった。どんなに鈍い人間でも分かる。紬の背後には、間違いなく強大なスポンサーがついているのだ。そうでなければ、主催者がこんな脅しを送りつけてくるはずなどない。ランディは、紬に対して警戒心を抱き始めた。会場中の視線が、ランディに
さらに洗練されたメイクが加わり、紬は人間離れした美しさを放っていた。彼女はその衣装を身にまとい、三人の審査員の前まで進み出ると、堂々とポーズを決めた。美咲の瞳に驚嘆の色が浮かび、やがてそれは歓喜と興奮へと変わっていった。彼女には分かっていた。紬なら、絶対にやり遂げると。まさか最後に完成した衣装を披露するのが、デザイナー本人だとは思いもしなかったが。美咲が紬に向ける眼差しは、励ましと興奮に満ちていた。一方、信彦は眼鏡を押し上げる動作さえ途中で止め、口をわずかに開いたまま、ただ呆然と紬を見つめていた。いつもは饒舌なランディも、赤い唇を固く結び、一言も発しない。紬は口角を上げると、くるりと身を翻した。審査員たちの目に映る反応を見て、彼女は心から満足していた。この衣装は、ウエストラインから裾に向かって緩やかに広がるマーメイドラインのスカートを採用している。歩く姿は、まるで鳥が優雅に羽を広げるようで、衣装のテーマとも見事に調和していた。サイドのスリットは太ももの半ばまで深く入り、内側には同色の柔らかなチュールが重ねられている。その隙間から、紬の真っ直ぐな脚のラインがちらちらと透けて見えた。紬が一歩、また一歩と歩みを進めるたび、スポットライトが彼女の姿を追いかける。この瞬間、誰もが息をするのさえ忘れていた。その場にいる誰もが、ステージ上の紬の一挙手一投足に釘付けになっていた。とりわけ理玖は、灰色の瞳からいつもの冷ややかさが消え、代わりに深い陶酔と称賛の色が宿っていた。彼が愛する紬は、本来こうして眩いほどに輝くべき存在なのだ。静止している時は、羽を休める鳥のように優美であり、動けば、その一挙一動のすべてが物語を紡ぎ出す。振り返るたび、スカートの裾にあしらわれたリボンが冷たい光の軌跡を描き、スリットのチュールが波のように翻る。その姿は、「刹那」の瞬きにも似た美しさを見事に体現していた。紬の披露が終わっても、会場の興奮はしばらく冷めやらなかった。やがて、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こった。他の参加者たちでさえ、無意識のうちに拍手を送っていた。紬の素晴らしい作品に心から驚き、そして喜んでいたのだ。これほどまでに人の心を奪う作品を目にしたのは、誰にとっても初めてのことだった。ほどなくし
やはり、デザインの工夫をまともにせず、姑息な手段ばかり使っている連中だ。一方、ライブ配信のコメント欄では、「カオリ」を称賛する声で溢れ返っていた。【さっきの「カオリ」の服、本当に美しかった】【そうそう、前のプレタポルテの展示を見た時から素敵だと思ってたけど、実際に着た時のシルエットがこれほど素晴らしいなんて】【まさに神作。私に言わせれば、「カオリ」が『蓮』をテーマにしたモダン・コルセットは本当に大正解!テーマの解釈も大胆で力強いし】【調子に乗るんじゃないわよ。Nirvanaの作品はまだ出てないじゃない。モデルが着たら、絶対にNirvanaのほうが素敵なんだから】カナは憤慨しながら、そのコメントを打ち込んだ。彼女は病院で千鶴に付き添っていた。腰を下ろすなり、ライブ配信を開いたのだ。コメント欄が「カオリ」を称賛する言葉一色に染まっているのを見て、黙っていられるわけがなかった。スマホの画面の上で指を勢いよく滑らせ、意気揚々と先ほどの反論を書き込んだ。案の定、プロのアンチたちから一斉に攻撃を浴びる羽目になった。だが、カナも負けてはいない。あろうことか、怖いもの知らずにも「カオリ」のスレッドに乗り込み、Nirvanaの服のほうが優れているし、優勝する見込みすらあると言い放ったのだ。その一言が投下されるや否や、当然のごとく群衆の敵となった。しかしカナはまったく怯むことなく、病院にいながら、たった一人で彼らと激しいレスバトルを繰り広げた。病室のベッドに座る千鶴は、その光景を呆然と見つめていた。もし自分の足が怪我をしていなければ、確実にカナに巻き込まれて、一緒に戦わされていたに違いないと、本気で疑うほどだった。一方、紬はネット上の騒ぎには一切関心を示さなかった。彼女はただ静かに、ステージ上でモデルたちが披露する衣装を見つめていた。良い部分を吸収し、不要な部分を見極める。雅乃は紬の少しも動揺を見せない静かな眼差しに気づき、心底感心せずにはいられなかった。――さすがは紬先輩。メンタルが強いわ。こんな状況になっても、まだ貪欲に学ぼうとしているなんて。何があろうと、彼女のデザインに対する情熱を邪魔することは、誰にもできないんだ。やがて、司会者の声が会場に響き渡った。「続きまして、いよいよ最後のグ







