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第3話 ​

Autor: 青ビリ​
「昨日、誕生日に一緒にいられなかったからって、拗ねてるのか?

プレゼントを買ってきたんだ。家に入ったら渡す」

そう言って裕治は家のドアを開けたが、すぐに振り返って私を見た。

その瞳には、戸惑いの色が浮かんでいる。

私は荒れ果てたリビングを素通りし、淡々とした口調で言った。

「額縁の裏の釘が緩んでたみたい。昨日、落ちたのよ」

裕治はそれを聞くと、慌てて私の体をあちこち確認し、怪我がないと分かるとようやく安堵の吐息を漏らした。

そして私の意思を無視し、その腕の中に抱き寄せた。

「君が無事で本当によかった」

何よりも私を優先する裕治の姿を見ていると、外に別の家庭があるなんて、どうしても信じられなかった。

彼は私を部屋で休ませ、自分はリビングに散らばった破片を片付け始めた。

夕食の後、風呂に向かう前に、裕治は可愛らしいギフトボックスを差し出した。

私が不思議そうに見つめると、彼は私の頭を優しく撫でながら、穏やかに微笑んだ。

「さっき約束したプレゼントだ」

促されるままに、私はギフトボックスを開けた。

中には、雫の形をしたネックレスが入っている。

「気に入ったかな?ずいぶん時間をかけて選んだんだ」

以前の私なら、彼が贈ってくれるものなら何でも喜び、大切にしていた。

結婚三周年の記念日に、彼が道端で摘んで贈ってくれた花さえ、私はドライフラワーにして今でも大切に保管しているというのに。

何気なくネックレスをギフトボックスに戻そうとしたとき、一枚のレシートが目に入った。

そこには、100 万円のダイヤモンドネックレスの購入履歴があった。

そしてこの雫のネックレスは、そのおまけだ。

ふと、昨日マリカがしきりに首元のダイヤモンドを弄っていた姿が思い浮かんだ。

私は自嘲気味に笑った。

裕治にとって、私はおまけを受け取る程度の存在でしかないのだ。

彼が風呂から上がってきたとき、私はすでに彼に背を向けて横になっていた。

彼が私の肩を揺すったが、私は生返事で応じた。

「触らないで。眠いの……」

裕治が顔を近づけてきたが、私は顔を背けて避けた。

彼は気にする様子もなく、小さく「おやすみ」と言ってスマホを弄り始めた。

意識がぼんやりとしてきた頃、裕治が足音を忍ばせながら部屋を出ていく気配がした。

すぐに玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

私は起き上がり、窓辺へと歩み寄った。

しばらくすると、外へ出ていく裕治の姿が見えた。

そこへマリカが駆け寄り、彼の胸に飛び込んだ。

二人はマンションの階下で、人目を憚らず激しくキスを交わした。

裕治は慎み深い人のはずだった。

人前で私とスキンシップをとることは滅多になく、ましてやキスなど考えられなかった。

裕治がドアを開けて戻ってきた瞬間、私は部屋の明かりをつけた。

「こんな夜中に、どこへ行ってたの?」

彼は飛び上がらんばかりに驚き、数秒経ってようやく言葉を絞り出した。

「……仕事の電話だ。君を起こしちゃ悪いと思って、外で受けてたんだ」

「そうなの?」私は疑わしげに彼を見つめた。

「でも、香水の匂いがするわよ」

裕治の顔に、一瞬だけ動揺が走った。

「……うちのボディソープの匂いじゃないかな?」

そんな下手な嘘を聞き流し、私は「そう」とだけ言って追求をやめた。

それを見た裕治は、あからさまに安堵の表情を浮かべた。

翌朝、私と裕治はいつものように近所で朝食をとっている。

店に入るなり、どこからか平木怜央(ひらき れお)が飛び出してきて、裕治の足にしがみついた。

「パパ!どうしてここにいるの?」

裕治はうろたえながら私を見た。

「この子は人違いをしてるんだ、俺は……」

「俺はパパじゃない」という一言が、どうしても彼の口からは出てこなかった。

私は怜央を自分の方へ引き寄せ、裕治が言えなかった言葉を代わりに伝えた。

「坊や、この人はあなたのパパじゃないわよ」

それを聞いた怜央は、わっと泣き出した。

「意地悪しないで!この人は僕のパパなんだ!」

それを見た裕治は、あろうことか私を地面に突き飛ばし、怜央を抱きしめて優しくあやし始めた。

地面で擦りむいた手の傷を見つめながら、私の心は氷のように冷えていった。

この男と、これ以上一緒にいる必要はない。

そこへ、マリカが血相を変えて駆け寄ってきた。

裕治の腕から怜央を引き寄せた。

「ごめんなさい、目を離した隙に怜央が……」

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