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第4話

Author: みかん大福
その言葉を聞いた瞬間、重人はほとんど気づかれないほど、ふっと息を吐いた。

彼は柚希の肩を抱き寄せ、低い声で説明する。「菜月は心根の優しい子なんだ。小さい頃から結菜を引き取って育ててきた。でも妊娠してからは思うように動けなくて、どうしても世話が行き届かない時がある」

そのとき、結菜は悪夢を見ているかのように、小さな声で「ママ」と繰り返していた。

重人の大きな掌が、彼女の背をやさしく撫でる。まなざしには温もりしかない。

月明かりが、三人の上に柔らかく降りそそぐそれは、柚希が何度も夢に見た光景だった。

「もし私たちの子がまだ生きていたら、きっと今ごろ同じくらいの年だったよね」彼女の声は、かすかに震えていた。

重人の手が空中で止まり、瞳の奥に一瞬だけ罪悪感が過った。

「生まれ変わったら、誰かが必ずあの子を大事にしてくれる」そう言って彼は柚希の手を握り、柔らかく慰める。「俺の責任は君を守ることだ」

柚希は彼の瞳を見上げた。深く、揺るぎなく自分を見つめてくるその眼差し。

しかし彼女の胸の中の虚しさは、どうしても消えなかった。

「じゃあ、大城のことは?」彼女は一本一本、彼の指をほどくように離していく。「大城のこともあなたは守るの?」

重人は数秒きょとんとし、すぐに彼女の嫉妬だと決めつけたように、甘く微笑んだ。

「俺と菜月はただの友達だ。彼女は身重で、しかも独り身だ。当時、祖母を救ってくれた恩人でもある。慣れない異国で頼る場所もない。世話をしないわけにはいかないだろう」

ベッドの中まで世話する?

柚希は喉までこみ上げた反論を、ぎゅっと飲み込んだ。

もうすぐ出て行くつもりの自分が、何を言い争う必要がある?

重人は彼女の疲れた表情を見て、そっと眉間に口づけ、明かりを一番弱い光に落とした。

「寝ろ。俺がそばにいる」

柚希は結菜を抱きしめ、目を閉じて眠ったふりをする。

そのとき、突然の轟音が耳元に響き、彼女の身体がびくりと震えた。

稲光が走り、白い光が重人の冷たい横顔を切り裂く。直後、隣室から甲高い悲鳴が聞こえ、彼の冷静さは完全に砕け散った。

柚希の静かな寝息を確かめると、彼は身を起こし、彼女と結菜の布団を丁寧にかけ直し、慌ただしく部屋を出た。

扉がそっと閉じられた瞬間、柚希の唇の端を、涙が静かに伝った。

翌朝、彼女が目を開けた途端、重人は彼女の腕を掴み、容赦なくベッドから引きずり落とした。

抱いていた結菜の小さな身体も、その拍子に放り出され、額をベッドサイドに激しく打ちつける。

重人は冷ややかな目で柚希を睨みつけ、喉元を掴み上げるようにして怒鳴った。「俺は何度も言った!俺と菜月の間には何もないと!なのにどうして菜月の犬を殺した?俺に手を上げさせたいのか!」

重人の指が徐々に締め付けていき、窒息感が柚希の全身を瞬時に襲った。彼女の顔は紫がかった青色に変わりながらも、重人の瞳に心配は一欠片もなかった。

結菜は血のにじむ額を押さえ、膝から崩れ落ちるように彼の脚にしがみついた。

「重人さん!柚希さんは、犬を殺してない。私がお腹すいて、犬のエサを食べた!全部、私のせい!」

彼女は震える手でポケットからドッグフードを取り出し、必死に重人へ差し出した。

だが、重人の視線は後ろでかすかに泣き真似をしている菜月に、すべて奪われた。

「小栗先生、あなたが私を嫌っているのも、私と重人の関係を疑うのもわかる。でもシロちゃんは母の形見で、幼いころからの相棒なんだ。それを殺されて私、どうやって生きていけば……」

彼女はわざとらしくよろめき、そのまま重人の腕の中に倒れ込んだ。泣き声は今にも途切れそうで、まさに守ってあげたくなる弱さ。

「お医者さんから胎児が不安定だって、悲しむと流産の危険があるって。あなたも母親だったんでしょ?どうしてそんな酷いことを……」

震える背中を見た瞬間、重人の目が痛みを帯びる。彼は菜月をより強く抱きしめた。

「大丈夫だ。俺が必ず、君のためにケリをつける」

そして振り返った瞳は、鋭く柚希を射抜いた。彼の目には失望があふれている。

「柚希、過ちを犯したなら、罰を受けるべきだ」重人は冷たい口調でボディーガードに命じた。「彼女を墓地へ連れていけ。跪かせて悔い改めさせろ。ルールだ」

結菜は恐怖で泣き叫び、その場に跪いて懇願した。

「重人さん!シロちゃんを殺したのは私!処罰なら私に!ムチは皮が裂けるほど痛い」

重人は不快そうに眉をひそめ、家政婦に結菜を連れ出させた。

「柚希、どんな過ちがあろうと、子供に手を上げるべきではなかった」彼は静かに柚希を見つめた。「そんな残忍さで、母親の資格があるというのか」

では彼にこそ……父親の資格があるのだろうか。

柚希の白い首には、指の跡がくっきりと残っていた。空気を貪るように呼吸しながら、彼女は言葉も出せず、胸だけが痛んだ。

土砂降りの雨の中、柚希は薄着のまま菜月の母の墓前に跪いていた。ボディーガードの鞭は容赦なく、一度よりも一度と激しく彼女を打った。

一回目、膝に溜まっていた雨水が、血に変わって、痛みで身体が折れ曲がる。

自分が妊娠したと知ったあの日、重人は喜びで目の隅を赤らめ、お寺に行き、彼女のためにお守りを求めていた。

あの時、彼のひざは赤く腫れ、ただれていたが、それでも笑って言った。「あなたと子供のためなら、どうなってもいい」

二回目、柚希の体は今にも崩れ落ちそうに揺れ、痛みで意識が遠のいていく。

彼が自ら子供用の靴や服を準備し、彼女を抱きしめた。「男の子でも女の子でも、君が産んだ子なら何でも好きだ」

九回、三十六回……

鞭を打たれた九十九回目、背中は血と泥で真っ赤に染まり、彼女の顔色は雪のように白い。

最後の一撃が振り落とされる瞬間、誰かが彼女の前に飛び出しその罰を代わりに受けた気がした。だが、柚希はもう目を開ける力さえ残っていなかった。
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