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第5話

Penulis: 星野南
透真は眉をひそめた。避ける間もなく美雪にキスされ、彼女がいたずらっぽく笑うのを見ると、低い声でたしなめた。

「……やめてくれ、危ないだろ」

美雪はぺろりと舌を出した。

「はーい。もうしません」

彼女の無邪気な仕草が可笑しかったのか、それとも何かを思い出したのか。透真はふっと笑い、首を横に振った。

私は思わず口を尖らせた。

――なるほど。透真はこういうタイプが好きなのか。

2人のいちゃつきっぷりは、見ているだけで呆れてしまう。

……

透真は仕事の虫だった。美雪の検査に付き添ったあとは、そのまま会社へ向かった。

その日は朝から晩まで会議続き。長い会議が終われば短い打ち合わせが入り、目の回るような忙しさだった。それでも彼は、あくびひとつこぼさなかった。

夜になると、透真は飲み会へ向かった。そこで、友人の久我裕介(くが ゆうすけ)がふと思い出したように口を開いた。

「なあ、ここ数日、なんか変だと思わないか?」

「変って?」

もう一人の友人、篠崎遼(しのざき りょう)が聞き返したが、すぐに何かに気づいたように声を上げた。

「ああ、俺もそんな気がしてた。妙に静かなんだよな。静かすぎて落ち着かないっていうか……でも、何が変なのかはわからないんだよね」

遼は考え込むように首をひねり、それから透真に目を向けた。

「そうだ。澪はどうした?しばらく見かけてないけど」

「澪」という名前が出た瞬間、透真の手がわずかに震えた。グラスを持つ指先がほんの一瞬揺れたものの、彼はすぐに酒を一気に飲み干した。

裕介は続けた。

「そうだな。今までなら、透真が別の女とちょっと親しくなるだけで、澪がすぐ怒り出すんだろ?今回は、月島さんのために街中で花火まで打ち上げたっていうのに、全然姿を見せないなんて、さすがに変じゃない?」

透真は鼻で笑った。

「何が変なんだ。あいつが騒がないなら、こっちは静かに過ごせて好都合だろ」

遼が透真の肩を軽く小突いた。

「いやいや、そんな言い方はないだろ。澪は5年もお前に一筋で、何でも言うことを聞いてきたんだぞ。あれだけ大人しくて優しい奥さんなんて、なかなか見つからないんじゃないか?」

「考えの浅い、見た目だけの女だろ。あいつの頭の中にあるのは、俺をどうやって出し抜くか、そればかりだ」

その言葉を聞いて、私は自嘲気味に笑った。

そうか。

透真にとって、私は腹の中で何を企んでいるかわからない、ただの飾り物だったのか。

遼は納得できない様子で首を横に振った。その目にはどこか欲深い光が浮かんでいた。

「仮に見た目だけだとしても、あれだけの美人なら悪くないだろ?もういらないっていうなら、俺に譲ってくれよ」

普段は透真の顔色をうかがって多少は大人しくしている遼も、透真が私をまったく大切に思っていないと聞いて、すっかり本性を現したらしい。

私は怒りで頭に血が上った。

もともと透真の取り巻き連中は大嫌いだったが、今は遼を噛み殺してやりたいほど腹が立った。

……もちろん、何もできないのだけれど。

透真は遼を冷ややかに見やった。

「何だ?俺があいつと別れたら、拾うつもりか?」

私はその言葉に愕然とした。

拾う?

透真は、私をいったい何だと思っているのだろう。

遼はようやく彼の言わんとするところを察し、慌てて愛想笑いを浮かべた。

「いやいや、そんなつもりはないって!」

透真はそれ以上、遼に目もくれなかった。再びグラスを傾け、酒を一気にあおると、今度は裕介に話しかけた。

「裕介、ここ数日時間があったら、澪を探しておいてくれ。楓が、あいつと連絡が取れないって、俺のところまで来て騒ぐんだ。いい加減、うっとうしい。見つかったら、あいつが何を企んでいるのか、直接問いただしてやれ」

その口調には、隠しきれない苛立ちと脅すような響きがあった。裕介はそれ以上何も聞かず、頷いた。

「……わかった」

やがて透真は個室を出た。私はその後を追った。

遠ざかる私たちの背後では、裕介と遼の話し声が聞こえる。

「遼、今の言い方はさすがにやばかったぞ。透真がどれだけ独占欲の強い男か、お前だって知ってるだろ。自分がいらないと思ったものでも、他人に狙われてると、機嫌が悪くなるんだ。まして相手は澪だぞ。バカな真似はするなよ、いいな?」

「大袈裟だな、裕介は。透真は澪が好きじゃないんだぞ?別に構わないだろ。彼女を見つけたら教えてくれ。少しくらい遊べるかもしれないしな」

「……遊べるってなんだ?」

透真の声に、裕介も遼も息を呑んだ。

出ていったはずの透真が、突然引き返してきたのだ。

そして、遼の言葉を耳にした瞬間、彼の表情が一気に険しくなった。

まるで地獄から這い上がってきた閻魔のように、冷酷な怒りがその顔に浮かんでいた。

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