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第1話

last update Last Updated: 2025-04-11 17:00:04

「貴女ちょっと生意気なのよっ!! ドが付く田舎のぽっと出のご令嬢のくせしてっ!!

 あの方にご迷惑をかけてる事に気づかないの!!

 大体何?! これ見よがしにあの方の瞳の色と同じ色の貴石が付いた腕輪なんかしてっ! 図々しいのよ!!」

 どうも、ごきげんよう。

 レリアーヌ・バタンテールです。現在地は女学院の校舎裏です。

 ところでもし相手に気づかれないように、周囲にバレないように、日中暗殺する時って、どこがいいと思います?

 移動中の馬車の中? 用を足してる化粧室の中? ……若しくはこういった人気のない裏庭に呼び出す?

 残念っ! どれも不正解ー。特に最後! 人気のない裏庭に呼び出すって、色々ダメー。

 そもそも呼び出したのを誰かに見られたらその時点で犯人は絞られるし、相手が裏庭に行くのを見られてもダメ。不自然過ぎる。

 だから、日中暗殺するなら人混みの中がおススメです。どさくさに紛れて手を下しやすいし、人混みに紛れて逃げやすいし……。

 なので、逆に言うと我が家みたいな護衛職を生業にしている人間は、人混み滅茶苦茶警戒します。

 だから、護衛対象がそう言った人の多いところに行きたいと言い出すと、ちょっぴりげっそりとした気分になります。

 ……表には出さないけどねっ! 人間だものっ! 仕方ない。

 で、何が言いたいかというと……。

 どこぞのご令嬢達に裏庭に呼び出されたわたしが、命の危機に関わるものではないなぁと判断して、のんびり静観してしまうのも致し方ないのですよ。

 ……だから、そんなどこぞの国にいるという恐ろしいオニもかくやといった形相で近づいてこないでくださいアン様。

 普通に怖いです。

「っ?! 聞いてるのっ!! それとも田舎令嬢は耳までドンくさいのかしらぁ!?」

 いえ、わたしドンくさくないです……。アン様の前で躓いたのは……事故ですって。

 そしてそろそろお口を塞いだほうがよろしいですよ? ご令嬢方。

 あのお方、実のところ結構な俺様ですので、自分の玩具に手を出されるの、死ぬ程嫌いみたいなんですよねー。

 えぇ、玩具とはわたしの事ですが何か?

 ほらぁ、滅茶苦茶怒ってるー。深紅の目がなんかギラギラしているー。こわいよー。

 本人はご存じないとは言え、自分に付いてる護衛怖がらせるのやめてくださーい。

「ちょっとっ!! ちゃんと聞きなさいよっ!」

 いや、真面目に聞いていないわたしも悪いんですが、普通のご令嬢が暴力に訴えるのは止めておいた方が……。

 振り上げられた筋肉も何もついてなさそうな華奢な腕を見上げながら、どうしたもんかと思案する。

 だって、叩かれたら地味に痛いし、避けたら避けたでめんどくさそう。

 うーん。

 と、悩んでるうちに、令嬢の細腕が振り下ろされ……。

「何をしているのかしら?」

 細腕は、わたしの頬ぎりぎりで、大きく一度びくんと跳ねて止まった。

 おー、ご令嬢にしてはなかなかな反射神経。

「……ティボー様……?」

 ぎしぎしと軋んだ音がしそうな程の動きでわたしの前に立っていたご令嬢方が振り返る。

 そこには深紅の瞳を冷たく光らせ、美しい銀髪を風に遊ばせながら、凛と佇むアン様がいた。

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  • 銀のとばりは夜を隠す   第二章 第3話

    「もう、貴女は不要よ。同じ部屋にいるのも不愉快だわ。この場から去りなさい。レリアーヌ・バタンテール」 高貴なご令嬢らしく、扇で口元を隠し、特徴的なロアを冠する由来でもある紅い瞳を曇らせたアン様がそう告げた相手は……わたしだった。「……突然どうしました?」 何か悪いものでも食べました? と呟きながらテーブルの上を見やる。  そこにはこのお部屋では恒例となっているアン様が公爵家から持ってきた美味しいお菓子と、わたしがせっせと淹れたお茶が並んでいた。 そう、この恒例の小さなお茶会を始めるまではアン様はいつも通りだった。  いつも通りわたしを揶揄って、わたしの淹れたお茶をわかりにくく褒めてくれて、そして……。 突っかかってくるご令嬢と一緒にいた時に遭遇した黒い怪鳥の話をしたんだ。 そしたらこの有様である。  さすがに急転直下過ぎて訳が……わからなくもないけどさぁ。「どうもしてないわ。わたくしも気づいたの。貴女をわたくしの側に置くのは相応しくないって」「はぁ……」「だから......。もうこの部屋は出て行って。寮母には別の部屋を用意させるわ。  だからもう……二度とわたくしに近づかないで」「……本気ですか?」 真っすぐにアン様の紅眼を見つめる。  一瞬揺れた瞳は確固たる意志を持ってわたしを見返してきた。「あたりまえじゃない」「理由をお伺いしても?」「……理由なんてないわ。ただ……貴女を側に置くことは止めたの」 内なる感情を抑え込んでいることが明らかにわかる、僅かに震えた声でそう告げるアン様の方が……傷ついてるのに。「……さようでございますか」 わたしの返事に、アン様の瞳がぐらりと揺れる。  だけどそれを無理やりに押し込む。扇を掴んでいる手が僅かに震えているのに気付けるのは……鍛錬を重ねて動体視力を鍛えてきた成果だろう。「……そうよ」「畏まりました。……今までお世話になりました」 そう言ってアン様の

  • 銀のとばりは夜を隠す   第二章 第2話

    「あらぁ~。物の分からぬ田舎令嬢のくせにどういう汚い手を使ったのか公爵令息様のご婚約者になったバタンテール様じゃないですのぉ~」 全ての授業が終わり、後は寮に帰るだけだと女学院の回廊を歩いていたら、いつものご令嬢にいつもの如く絡まれた。  この人も暇だなぁ。相変わらず。  確か伯爵家のご令嬢で、アラン様の婚約者の座を狙ってたから現在婚約者無し。  アラン様が隣国への留学から帰ってくるのを今か今かと待っていたのに、気づいたら『田舎令嬢』と見下していたわたしがアラン様の婚約者に収まってしまって、憤懣やるかたないのだろう。  だからって、顔を合わせたら絡んでくるのやめてくれないかな?  地味に時間をとられて鬱陶しいし、どうもわたしに絡むためにあえて探してるみたいなんだよね。  その情熱、別の事に向けたらいいことあるよ!    ……なぁんてわたしが言ったら恐らく手が付けられない程になるだろうから言わないけど。   「はぁ。そうですね」「っ! 相変わらず凡庸ね! なんであなたみたいのがアラン様の御婚約者に選ばれたのかわからないわっ!  何かあくどい手を使って公爵家を脅してるの?! だったらそろそろ手を引きなさないな。取り返しのつかないことになるわよ!」 ……是非ともどう取り返しがつかなくなるのか教えてほしい。  そしてティボー公爵家を脅せるあくどい方法って、相当あくどいですけど、こんな小娘に使えると思います?  むしろ脅されてるのわたしでは? ティボー公爵令嬢(アン)様の護衛だったはずなのに、いつの間にか令息(アラン)様の婚約者になっていて……。  いえ、そのおかげで隣国の王族を手に掛けたことが不問になったので、それはそれで助かったんですが。  というか、アン様? ちょっかい掛けてくる人間は粗方対処したとかおっしゃってませんでしたっけ?  このお方残ってますけど? ……まぁ、消えていった方々と比べて、この方はわたしに直接突っかかってくるだけなので、あまり危険性はないですけど。  だから見逃されてるのかも?「ちょっと! 聞いて

  • 銀のとばりは夜を隠す   第二章 第1話

    「黒い鳥……?」 わたしが淹れた薫り高い紅茶を一口含んで満足げに息を吐くアラン様。  ふふん。そうでしょうそうでしょう。今日のは特に美味しく淹れられたと思うんですよね!「うまくなったなぁ。……最初はどうなることかと思ったが……」 ……さすがアラン様、持ち上げてから落としてきますね。 もう一口紅茶を飲んだアラン様が、音を立てずソーサーへとカップを戻す。  流れるようなその美しい動きに見惚れていると、アラン様の紅い瞳がまっすぐわたしを射抜いた。「その……黒い鳥とやらはどこで見たんだ?」「この寮の裏庭ですよ。ちょっとした雑木林のある」 そういうとちょっとだけアラン様が訝し気な表情になった。「そんな場所に何用だ? お前を呼び出して文句をつけるような相手は粗方潰したと思ったんだが……」「物騒なことおっしゃらないでください。朝の鍛錬ですよ鍛錬」 お前の方が物騒じゃないかとおっしゃりますけどねぇ。日々の鍛錬は必要なんですよ。わたし貴女様の護衛ですし?  ……そういえば、隣国の件が片付いてアン様が狙われることがなくなったからお役御免では?  いやでもティボー公爵(ご依頼主)様から引き上げるような指示も来てないな?  だったら指示が来るまでお役目を全うするのみ。「そこで……? 黒い鳥を見たというのか? だいたいなんでそんなその鳥が気になるんだ?」「うーん? なんでですかねぇ? 多分あの鳥普通の鳥じゃなかったからですかねぇ」 お皿の上に品よく盛った焼き菓子に手を伸ばす。  白と黒の二色を組み合わせたクッキーに歯を入れると、さくりとほどけ口の中にバターの芳醇な香りと小麦粉の香ばしい香りが広がった。  さすが公爵家のお菓子! 上品なお味ですね!  このお味に慣れてしまって、もう普通のお菓子じゃ物足りなくなっちゃうのでは?  ……アラン様と結婚したら、ティボー公爵家に住むことになるから毎日食べられるな?  ……いやいやいやいや、お菓子の為に公爵家に嫁入りするのは田舎令嬢には荷が重いわ

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