تسجيل الدخولレオンハルトは、しばらくミレイユと雑談を楽しんだ後、小人掃除機が部屋を走り回っている間に、外に出て、昨日のヘルカーン肉を燻製にする準備を始めた。
「燻製ですか!まるでキャンプみたい」
そう言って、ミレイユは手を叩いて喜ぶ。
仕事をしていたこともあり、ミレイユの師匠は、錬金術には長けているものの、料理は得意ではないらしく、手の込んだ料理を食べる機会は元々あまりなかったという。
「どちらかというとダリウスが、家に来た時は手の込んだ料理を持ってきてくれたり、教えてくれたりしましたね」
思い出したのだろう。
ミレイユはくすりと笑いながら話した。
「そうなのか。俺からすると料理をするダリウスが想像できないんだが……ダリウスは、騎士団では総司令官という立場だから、男らしい無骨な騎士の印象が強いからね」
レオンハルトはそう言って笑うと、今度は、ミレイユからとても驚かれる。
それだけではない。
ダリウスのもう一つの顔は、公爵家次男
「どうした? 何か気になることでも?」レオンハルトが声をかけても、ミレイユはじっとページを睨むばかりだ。細い指先が、わずかに震えているように見えた。「ミレイユ」レオンハルトは、そっと、その震えるミレイユの手に触れる。「……レオンハルトさん」ミレイユがレオンハルトの名前を呼ぶ声も、かすかに震えていた。「何か気になることがあるんだろう? 教えてもらえないか」レオンハルトは、できるだけ優しく、怯えさせないように表情はにこやかに声をかけてみた。けれどミレイユは、震えるまつげを伏せて言った。「……少し考えをまとめたいです」そしてそのまま、手に持った資料を持って三階へこもってしまった。「あっ……」レオンハルトは、思わず手を伸ばしたが、ミレイユの離れた手の温もりが、心ごと遠ざかってしまったように思えて、思わず空中で拳を握る。温もりが消えると同時に、先ほどまでの幸せに感じていた時間も消えて無くなったような気持ちになる。一人残されて、レオンハルトはミレイユが残していた資料を再度見た。だが、何に衝撃を受けたのかが分からない。「この資料に……何があるんだ?二箱目の木箱を開いてみた後から、ミレイユの表情がはっきりと変わったんだよな?だが、俺には分からない。ただの統計資料と錬金術レシピにしか見えないんだが……」ミレイユと違い、樹海で戦い慣れて、しかもいろんな錬金道具を作った師匠なら、試作と素材回収を兼ねて色々討伐していても不思議じゃない。そして、その討伐記録を統計資料にしただけにみえる。一箱目にはダリウスの文字も書類に混ざっていたから、時には一緒に狩りをしたということだろう。「師匠とダリウスの樹海デートの戦利品記録……みたいなもんじゃないのか?」でも、
レオンハルトは、悪いことばかり考えていた気持ちから少し解放されて、ミレイユを再度四階に連れて行った。四階には木箱がいくつも積まれている。「これを機密文書だと思って読むのと、楽しげな樹海デートの記録だと思って読むのとでは、気分がまるで違うよ。職業柄、つい悪い方向に考えすぎていたみたいだ」ミレイユは、箱の中から、魔物の弱点が書かれた記録を手に取っては、目を輝かせている。「この後、レオンハルトさんの武器の風の魔石を加工し直そうと思ってたんですけど……これ、私も知らないことばかりで……魔物の情報は、素材の情報に繋がりますからね。こっちも読みたいです。うーっ!時間が足りません」下に持って降りればいいのに、四階は窓がないので、階段に冊子を出して、五階の天窓の光を頼りに、這いつくばる姿勢で読み始める。ミレイユが口にする錬金物は、レオンハルトが知っているものもたくさんある。だが、それは商品になっていたり、団に支給されていたものであって、他の錬金術のものを扱う魔道具店にはないものや、騎士団でも使ったことのないものも多い。知っているものでも、標準的な使い方ではない、意表を突くものが多く、レオンハルトはすっかりミレイユの話を聞いているだけで楽しくなっていた。「うわあ、これはすごいですよ。夢霧ワニは、水から口を開けて出た時に幻惑ガスを排出するそうなんです。でも、その瞬間に、魔力ガスを発生させるガス玉を投げ込むと、おならになって水中に幻惑ガスを出すんですって!可愛い顔をしたミレイユから「おなら」と言われても、へっ?とレオンハルトは反応するが、錬金術が絡むと本人は全く気にも留めない。「そうしたら、レオンハルトさん!一斉に周辺の魔魚が浮かび上がってくるんですって。魚が食べ放題ですよ。うふふっ」そんな風に、もしそれだけ魚があったらなんの料理にしようかしら?と話すミレイユの横顔を眺めながら、レオンハルトは苦笑して書類をめくる。なんか、やっぱりミレイユはいいな。こんなに気を使うとかないぐらい、女性と自然に過ご
レオンハルトは、そのまま先ほどの木箱を二階のテーブルに持って上がり、改めて明るい場所で中身を確認した。――やっぱりだ。イラストや魔物の特徴が書かれた部分はダリウス以外の筆跡。一方で、この土地の形状や樹海防衛部隊と思しき拠点の詳細は、ダリウス本人の筆跡が残っていた。「外に出していいものじゃないな……だが、せっかくだ。俺たちも、利用できる情報は使わせてもらうか」レオンハルトは、重く息を吐いて、もう一度その書類を眺めた。ここに書かれたものを知ること――それは、もう戻れない場所まで来てしまったということだ。レオンハルトは、覚悟を決めるしかなかった。 「こんな機密文書が個人の家にあること自体、異常だ。だが、これを国に通告すれば、確実にミレイユは拘束される。そして、俺も最悪共犯者扱いだろうな」……もっともこの時点で、俺もミレイユの関係は、扱いというレベルではなく、間違いなく共犯そのものだが。「……危険性だけでも、彼女には伝えておくか」立ち上がり、再びレオンハルトは、三階へと足を向ける。そこには――あれは、なんだ!レオンハルトは、先ほどまではなかった山を呆然と見つめる。その山に見えたものは、大量に積まれたポーションとハイポーションの瓶だった。その中に、ちょこんとミレイユが座って量産している。(……あれ、おかしい!なんか札束の山の中にミレイユがいるように見えてきたぞ)「ミ、ミレイユ……」その声に、ミレイユがこちらを振り向き、ぱっと笑顔を見せる。「あっ、ちょうどいいところに!昨日の魔法草と水で、ポーションと、ついでにハイポーションもいっぱい作っておきました」「そ、そうみたいだな」レオンハルトは、告げなければならないはずの重い話題を忘れそうになる。
レオンハルトは、外で焚き火をしながら、4階の木箱のもので不要なものと思われるものはどうすればいいかミレイユに確認をしようとした。けれど、机に向かって作業するミレイユに声をかけそびれてしまう。ミレイユは、最初こそ何か作るときに迷っていたようだったが、集中し始めると真剣な横顔と手の動きは淀みなく、行動に無駄がない。そんな姿に少し見惚れている自分に、レオンハルトは思わず赤面する。怪しむところはないし、いい子なんだが、ミレイユが尋問を受けた理由もわからないんじゃないんだよな……あのヘルカーンに襲われるという緊急事態にも関わらず、自身に巻いてくれた包帯を使った救命、敵に睡眠玉の投げるタイミング、ヘルカーンの解体――全部が的確で18歳とは思えない。まるで、鍛えられた兵のような対処方法だ。そして、本業の錬金術についてもすごい能力の持ち主であることを感じ取っていた。師匠から叩き込まれたと言っていたが、王都でもこのレベルの錬金術師はそうそういない。魔術師ほどではなくても、錬金術師には、普通の人よりも多い魔力量と素質も必要だ。ものを扱う繊細な手先に膨大な知識……よほど、子どものころから才能を見抜かれていたのだろう。ダリウスや師匠たちの仲間と疑われるほどの才能があるからということか……もちろん、ミレイユに恋を意識したこともあるのだろうが、レオンハルトは、彼女のことをもっと知りたくなっていた。◇結局、集中している彼女に声をかけられなかった。はあっとため息を一つつく。「せめて、木箱の中の分別だけでもしておくかな」木箱の蓋を、ガタガタと持ち上げて開ける。中は……「冊子でぎっしりだな……」一冊、手に取る。レオンハルトは、その紙を透か
レオンハルトは、しばらくミレイユと雑談を楽しんだ後、小人掃除機が部屋を走り回っている間に、外に出て、昨日のヘルカーン肉を燻製にする準備を始めた。「燻製ですか!まるでキャンプみたい」そう言って、ミレイユは手を叩いて喜ぶ。仕事をしていたこともあり、ミレイユの師匠は、錬金術には長けているものの、料理は得意ではないらしく、手の込んだ料理を食べる機会は元々あまりなかったという。「どちらかというとダリウスが、家に来た時は手の込んだ料理を持ってきてくれたり、教えてくれたりしましたね」思い出したのだろう。ミレイユはくすりと笑いながら話した。「そうなのか。俺からすると料理をするダリウスが想像できないんだが……ダリウスは、騎士団では総司令官という立場だから、男らしい無骨な騎士の印象が強いからね」レオンハルトはそう言って笑うと、今度は、ミレイユからとても驚かれる。それだけではない。ダリウスのもう一つの顔は、公爵家次男という貴族の顔だ。社交の場に出る時は、平民出身騎士のレオンハルトとは違う。貴族独特の洗練された上品な空気や動きで、微笑みの顔すらコントロールしているような雰囲気を醸し出していた。そこに、庶民的な家庭的な顔まで加わるのか……レオンハルトは、思わず、料理を作るダリウスの姿を想像して、ミレイユの思い描くダリウスと自分の知っているダリウスは違う顔なんだろうなと感じていた。「俺のはそんな手の込んだ料理じゃないんだ。とりあえずここに帰ってから、肉は塩水に漬けて血抜きは済ませておいたから、あとは調味料を刷り込んで……うーん、できれば涼しい場所に置きたいんだけど、どこかあるかな?」「涼しい場所?」ミレイユは、どこがいいかしらと塔を見上げた。「せっかくの肉だから、腐らないように涼しい場所におきたいんだよね。ただ、保冷ができる道具はここにはないよな?この塔の中で涼しい場所を探すしかないんだけどね」
一方で、レオンハルトは、ミレイユが「作りました」という、その国宝レベルのすごい付与のペンダントの存在に、一瞬、聞き間違いかと思っていた。けれど、それを実際に手のひらにのせられたら――鑑定スキルなんて持っていなくてもわかる。あの付与された剣の時と同じだ。このペンダントトップ――とんでもない魔力を放っている。それを手にした瞬間、キーンと空気が張り詰めるような、自分を守るための殻が装着されたような感覚が、自分の体の輪郭を伝っていったのだから――(うわ、やばい。少し前まで「もう魔物は懲り懲り」だと思ってたのに、効果がどのくらいか、これ、試したくなるじゃないか)レオンハルトは、自分がミレイユ化していることに思わず苦笑する。だが――物理と魔力、両方を50%カット!そんな数字、庶民の武具屋じゃまずお目にかかれない。冷静になれ!レオンハルトは大きく息を吸った。まず、普通なら5%カットでも超高級品だ。団長クラスの月給で無属性の剣が1〜3か月分。それに、何かしら属性が付けば給料半年分は飛ぶのだ。そして、一般的に効いてるなとはっきり実感できるクラスの武器や防具、付属品になると一年分の給料だ。それも、なんでもというわけではない。火や水の属性だけという単発の属性効果や物理効果を10〜15%カットだけしたものが一年分だ。それが、物理も魔力も半減?今、俺はすごく恐ろしい。もう家を買えるレベルだろ、これ。ミレイユ、この価値に気づいてくれ!下手したら結婚詐欺に遭っても文句言えないぞ!「え、これ……本当に、もらっていいのか?」レオンハルトは、恐る恐る聞く。受け取った手が、震えそうだ。「何を言ってるんですか。ヘルカーンと戦ってくださったお礼ですし、これからも守ってもらわないと困ります。そ、そう。わ、私も着けますし&hell







