LOGIN2人が拠点に戻った時、狼肉のバーベキュー大会は、すでに始まっており、隊員たちの交流と笑顔が戻る。
「やっぱり肉ですね!」
「酒、ありがとうございます!」酒は、ダリウスがアドリアンからせしめてきたと言ったが、絶対それ高級酒だからな……みんな分かってないだろう
レオンハルトの顔面がピクピク動いた。
絶対俺も飲まないと後悔するやつだ。第一騎士団にいた時は、みんなとは一線引いていた。ダリウスがみんなに奢ってくれる時ですら、お茶で酔っ払ったみんなを介抱しながら、決して崩れない自分を見せようとしていた。
でも、いいよな。みんなと泣いて笑って、だらしない姿を見せても――
「おい!俺も混ぜてくれよ!」
レオンハルトもその盛り上がりに参加していく。
みんな、一瞬だけ目を丸くしたが、すぐ「今日は潰しますよ!」
「もう、ミレイユちゃんがそばにいると顔が違うんですね」そう言われたかと思うと、遠慮なくみんな
話は再び塔の二人に戻る。月影狼の目玉で《夜目レンズ》を作り、ミレイユが充血した目になったその後のことだ。ミレイユとレオンハルトは二階に戻っていた。レオンハルトが淹れてくれたコーヒーを口にしながら、ミレイユは錬金レシピの箱を整理していく。温かな香りが、凝り固まった眼の奥をゆっくりほぐしてくれるようだった。「ふぅ……」眉間をもみほぐしたとき、レオンハルトが手を伸ばし、ミレイユの額に触れる。すっかりお互いの距離感が近くなり、ミレイユもレオンハルトの手の方向に体を預けようとする。「ミレイユ、額の傷……消えてるぞ」レオンハルトは、顔を近づけていろんな方向に首を動かすが、やはり消えていると呟いた。「えっ?ポーション、傷口も塞がるようになったのかなぁ?」今朝、魔石で切ってポーションを飲んでも治らなかったはずの傷は、跡形もない。「何か傷口に塗ったの?」「いえ、ダリウスがここに触れたときに怪我をしているって言ってたし、特別何も……」二人はお互いに顔を見合わせる。「ねえ」「俺も同じこと思ったんだが……」「ダリウスは騎士だと思っていたけど、実は魔術師なんじゃないの?」それならあの反動の強い魔剣を扱えるのも納得——「アリエルとダリウスって国内最強コンビなんじゃないか?」そのレオンハルトの声にミレイユは頷いた。ダリウスに依頼されたのは、攻撃するものよりも、防御や魔力制御効果のあるもの。最初はレオンハルトとカイル頼みかと思ったが、ダリウスもアリエルまでとはいかなくても、魔術師団以上の力を持っているなら話は別だ。周囲を守ることができる余裕はないが、攻撃だけなら負けない自信があるのだろう。「だとしたら、ピンポイントの魔力攻撃の防御なら、例の甲殻系の素材の加工でなんとかなりそうなので、全体の魔力を制御できる何かを考えな
アリエルは、ライナルの登場で最悪の事態を悟った。連日痛めつけられ、今も防御魔法すら許されず殴られ、更に室内の魔力依存の煙にさらされ続ける。体も心も、なんとか精神力で支えてきたがすでに限界だ。だけど、王妃が元魔術師だなんて。そんなの聞いたことないわ?ただ、アリエルは世間話に疎いことも自覚している。ダリウスの社交界の姿だって、きっとみんな知っている顔だ。何を平民が勝手にショックを受けているのだと思われるだろう。自分の身の回り以外の世界のことに、本当に無頓着すぎたのねアリエルは悔しくて唇を噛みしめる。「アリエル。今日こそ、王にいい返事を持ってきてくれたんだろうね?」ライナルはこちらの考えを知っているくせに微笑む。断れば、アリエルを痛めつける事ができる。断らなければ、自分の思い通りにアリエルを動かせる。「……っ!」どちらの返答もライナルが求めているアリエルをいたぶるという行為になることを知っている。ライナルが大量の魔力を握れば、ろくなことにならない。しかも、この正気を失った王に操る元魔術師の王妃が加わる。百歩譲って魔導炉を造るとしても、魔力の原料の魔核を集めるため自分が奴らの命令に従い魔物を狩り続ける未来など絶対にあり得ない。アリエルは目を閉じ、呼吸を整え、数秒で決意した。「断る! 私は魔導炉は作らない!」国から買われたアリエルが国王に反旗を翻す。はっきり意志を伝えた瞬間だった。ライナルが口元を吊り上げる。「へえ、じゃあ君の大切な人たちに何があってもいいんだ?」「私にはもう大切な人はいない。ダリウスとも縁は切れた。弟子ももう私の手を離れている」胸は痛む。迷惑をこれ以上かけられない。ここで、私はダリウスともミレイユとも決別する。本当は声にしてしまうとつらいでも迷いのない声で、きっぱりと伝える。「私にはもう守るべ
アリエルは、再び王から呼び出しを受けた。今日が最後かもしれない。 なんとなく、そう感じていた。もう一度、ダリウスとミレイユに会いたいな…… けれど、それは叶わない。ダリウスとは綺麗に別れられなかった。 ミレイユに次に支えてくれる人と、きちんと会ってあの子をお願いすることも、その幸せを見届けることも出来なかった。「それでも私がいなくなれば、きっと解決するわよね。ダリウスもミレイユもきっと幸せになれる……」そう口にすると、ホッとした。塔には、もしミレイユに避難が必要になったら何とかなるように錬金術の道具を多めにおいた。 魔導炉や樹海の魔物討伐に必要な資料も……拠点から塔にうつしたわよね。ミレイユとの思い出や悩んだ日記などは一つの箱に片付けた。 できるだけ、塔の中は備えたつもりだけど、大丈夫だろうか?ミレイユに手紙も何も残せなかったから困惑させるかもしれない。だけど、私は人と感覚が違う自覚はある。 今、ミレイユに必要な適切な言葉を手紙に残せる気がしない。最後に、樹海防衛部隊に行った。 いつもの変わらない風景、笑って寄ってくる隊員たちを集めた。 一人一人に魔物よけの鈴やポーションを手渡しした。「みんな、王のところに行ってくるわ。これ以上魔物を乱獲するのは良くないことだから説明してくるわね。ただ、王に反旗を翻すようなものだから、もし、自分が帰らなかったら撤退してほしいの」「隊長……大丈夫なんですか?」アリエルは、命まで取られることはないから心配しないようにと笑顔で話す。これで大丈夫…… 守らなければいけない人たちへの手配は済んだ。アリエルは覚悟を決めて、王のもとへ向かった王の部屋に入るのは、ここ最近ずっと恐怖だった。 正確に言うと、ダリウスが私以外の女性との幸せを望んでいる姿を見続けることが苦痛だった。ダリウスが、貴族女性と知らない世界で過ごしている。 他の女性と踊り、笑い、楽しそうに顔を寄せ合う映像。
アリエルは、かなり疲弊していた。最初の頃は....王とライナルのことで、嫌なことがあったら全てを打ち消すようにダリウスに抱きついた。「どうした?アリエルから抱きつくなんて珍しいな」ダリウスは優しく私のブロンドの髪に指を入れ、こめかみにキスをして私を抱きしめてくれる。ダリウスは、この世の私の全てで、息をするのと同じぐらい大切な人で、愛というものとは違う気がした。 だから、愛しているよと言われても、その返答も出来ない。それでも、国王のことを相談できるのは、ダリウスしかいない。起きたことをぽつりぽつりと伝えていた。何かをしてもらいたいわけじゃない。 ただ、誰かに聞いてもらいたかった。 自分が自分でなくなっていくような感覚がある。ライナルに触られて気持ち悪い感覚。 盛られる毒。おかしいんだよね? それを、おかしいと思う私はおかしくないよね?毒の話までは流石に出来なかったが、ライナルのことだけでも知ってもらいたかった。だが、その話をしたらダリウスの顔色は変わった。「ライナルは俺の直属だ。俺を通すように言え。必ずアリエルを守るよ」ダメだ。すべてを知られれば、ダリウスは私を守ろうとして危険に巻き込まれるかもしれない。 相手は国王と魔術師団長、更にはあの原因の掴めない精神干渉だ。ダリウスを遠ざけなければいけない。 平気な顔をして、なんてこともないって言わないと。「大丈夫……大丈夫」自分に言い聞かせるように、ダリウスにそう伝えるうちに話を聞いてもらうことも出来なくなってきた。ただただ、言えないぶん、日記に苦しいことを書き連ねた。 だが、私の知らない世界で微笑み、大切な女性と過ごすダリウスの映像が頭の中で何度も繰り返され、書くことが辛くなった。何を書いているのか、もう訳が分からなくなり、ただの日記なのに書けなくなった。そうなると、頭の中は更に混乱していた。防御魔法も浄化魔法も最大限に使った。
アリエルは、ずっとダリウスに負い目を感じていた。ダリウスも、わたしなんかに出会わなければ、もっと自由に白い目で見られることもなく、幸せな人生を送れたはずなのに。樹海の外で生活を始めて公爵という身分はとても高いものだと知る。更には、ダリウスのように国に貢献して実績もあると、結婚したいと願う人が多い事にも気づいていた。「ダリウスも、お前のような女に引っ掛からなければな」国王の言葉は、まるでアリエルの胸の奥をえぐるように突き刺し、何度も頭の中で繰り返される。 自分が抱えていた負い目を、そのまま形にした言葉だった。だが同時に、王の声にはどこか奇妙な力が混ざっているような、王とは別の魔力も感じていた。精神を揺さぶる、黒い影のような薄いベールに覆われるような気持ち悪い干渉で、それは王もだがあの部屋全体にかかるような奇妙なものだった。だが、周辺をみても干渉するものはいない。 自分に効くような強いものでもない。王という立場になれば責任も伴うし、時には気持ちを楽にするための薬を使う事だってあるのかもしれない。 実際、王の目は何かに追い立てられているような気がしていた。でも?自分こそが世界の頂点だと信じて疑わない傲慢な光で目がぎらぎらと輝いている。 元々、傲慢さはある人だったけど、なんか最近の様子は違う気がする。それが、日増しにだんだん強くなり、アリエルはますます困惑した。(……おかしいわ。防御魔法が反応して、ずっと輪ゴムで弾かれるみたいな違和感がある。どこから操っているのかしら?この室内じゃないところだわ)周辺をぐるりと見回すがやっぱりいない……操られているわけじゃないわね。何度も進言にいくが、王自身の意思が、ありえないほど増幅されていて、自分の言うことに間違いはない。言う事を聞けという圧が強くなる一方だった。誰がこんな力を?ライナル?それとも……別の誰か?ライナルは、最近魔術師団長になったばかりだ。 それよりは前だと思う……だとしたら、別の人が王に何かを行なっ
話はアリエルが行方不明になる前にさかのぼる。アリエルは、樹海防衛部隊長として、もう10年以上、樹海で活動を続けてきた。今では、特別訓練を受けているわけでもない素人のような兵たちも部下に出来た。国からは、隊員を増やせば富が増える。そう安直に思われているのだ。その考えに、アリエルはとてもモヤモヤとした気持ちを抱え続けていた。かつては、一人で黙々と国から指示されたことをやっていただけだった。それが何人か隊員が増えたからといって「そうか」で終わっていただろう。なぜ増えたのか?何を彼らにさせる方がいいのかなんて考えもしなかったに違いない。しかし、今は自分が行ってきた活動は相当な富を生むものだと気づけるようになっていた。それは、自分が錬金術の店を営むことで、普通の人たちの収入やいくらぐらいでどんなものを求めるのか知り、アドリアンやダリウスから色んなことを学び、ミレイユと普通の生活をしてきたからだ。自分の持つ力が恐ろしい。自分は人とは違う。樹海防衛部隊は、国王の秘密部隊だったのでミレイユにはその存在は知られていない。だが、ここ最近、きな臭い。国王の様子が、どんどんおかしくなっている。私の愛する人たちまで、もしかしたら危害を加えられるかもしれない。そんな危機感がアリエルにはあった。◇きっかけは《魔導炉》だ。この国にとっては心臓そのもの。科学の国でいうなら、原子力発電をさらに進化させたようなもの。魔物の核を燃料にして莫大な魔力を生み出す装置で、それが国を潤し、兵を強くしてきた。もとは討伐した魔物から出る余剰魔力を、貴族の魔道具に回す程度の仕組みだった。それが街単位、国単位へと短期間で拡大し、いまや霊峰山に築かれた《魔導炉》一基だけで国全体を賄えるほどになっている。それを起動するには、相当の魔核を取らなければいけないから大変なのに……「……それなのに、なぜ陛下はその魔導炉をもっと造れとい







