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第3話

Penulis: 梨花
週末。実家に帰るまで、あと5日。

梨花は荷造りを終えた。ただ、竜之介との思い出の品だけは、どうすればいいか分からなかった。それで、とりあえず玄関に置いておいた。

お昼になると、松井家の親戚がいつものように食事会にやってきた。

竜之介の母親・松井智子(まつい ともこ)が玄関にあった箱を手に取ると、興味津々で中を覗き込んだ。「これ、何?」

松井家の親戚たちは、梨花のことが良く思っていなかった。彼らにとって、竜之介の嫁にふさわしいのは、昔からよく知っている渚のはずだ。家柄も釣り合っていたからだ。

梨花の気持ちなんてお構いなしに、智子は箱の中の日記を開いて読み上げはじめた。

「2020年9月3日、晴れ。

入学式。彼は光の中に立っていた。白いシャツの袖を、無造作にまくって。その時、『まぶしい』っていう言葉の意味が、初めてわかった気がした。彼の名前は松井竜之介。名前まで、カッコいい。

2020年9月15日、雨。

彼が渚を好きだって噂を耳にした。学校の掲示板には、二人の仲睦まじいエピソードが溢れていて、胸が苦しくなる。でも、それ以上に、お似合いの二人だから仕方ないって、無力感に襲われた。

2021年3月20日、曇り。

渚が教えてくれた。子供のころ、親同士が冗談で婚約みたいな話をしたことがあるんだって。彼女は私の腕を組んで、笑いながら言った。『竜之介のこと好きなの?アタックしてみなよ。あんな冗談、本気にしなくていいから』って。私は首を横に振った。二人を裏切るなんてできない。それに、私が彼を追いかけたって、勝ち目なんてないから。

2024年6月30日、雨のち晴れ。

渚がいなくなった。婚約パーティーの当日、何も言わずに。彼はたくさんお酒を飲んで、私を見ていた。目が怖いくらい真っ赤で、『俺と一緒になるか』って聞いてきた。

私は『うん』って答えた。

彼が私を愛していないのは分かってる。でも、その時、思ったんだ。どんなに冷たい人だって、いつかは私を好きになってくれるかもしれないって」

竜之介は、母親が読み上げるその日記に耳を疑った。そして、思わず梨花のほうに視線を向けた。

この女のことを、彼が初めて、本当の意味で真剣に見つめた瞬間だった。

まさか、彼女が本当に自分のことを好きだったなんて。

竜之介は、梨花が玉の輿狙いで自分と結婚したのだとばかり思っていた。

彼女はいつも優しくて、気配りができて、まるで完璧な恋人を演じているかのようだった。

誰の目にも触れないところで、梨花はこれほどまでに自分を愛していたのだ。

竜之介は梨花の方を見た。その視線は、ほんの一瞬、彼女の上で留まった。そして、彼の心には、今まで感じたことのない、不思議なざわめきが生まれた。まるで、静かに爪弾かれたギターの音色が、心に響くように。

彼がまだ何かを理解する前に、けたたましい着信音が突然鳴り響いた。

それは、彼が渚専用に設定している着信音だった。

「竜之介……どこにいるの?私、家に一人なんだけど、さっき窓の外に人影が見えたような気がして、すごく怖いの……」途切れ途切れの泣き声が聞こえる。「お願い、来てくれない……」

竜之介は車のキーを手に取ると、ダイニングテーブルの料理に一口も手を付けないまま、ドアの外へ消えていった。

30分後、梨花のスマホの画面が光った。

渚から送られてきた、一本の動画だった。

映像に映っているのは、竜之介が所有する別荘だった。プライバシーと最高レベルの警備で有名なその別荘のリビングで、窓の外には黒服のボディーガードが巡回しているのが微かに見える。

竜之介は、渚を当たり前のように抱きしめていた。「大丈夫、ここは安全だよ。俺がここにいるから、誰も君を傷つけたりしない」

スマホの光が梨花の目に映り、ちかちかと痛んだ。

ふと、彼女は竜之介と付き合い始めたばかりの頃を思い出した。

あの日、竜之介は会社で残業していた。一人で家にいると、誰かが乱暴にドアノブを回して、こじ開けようとしてきたのだ。

震えながら竜之介に電話をすると、彼は心底面倒くさそうに言った。「こんな安全なところで、人が来るわけないだろ?こっちはまだ仕事があるんだ。少し落ち着けよ」

愛されているかと、そうでないかの差って、こんなにもはっきりしているんだ。

身内だけの食事会が終わった頃、竜之介がようやく帰ってきた。

「さっきは……」彼は咳払いをして、言い訳を試みた。「渚の様子がちょっとおかしくて。家に誰か入ってきたみたいで、かなり取り乱してたんだ」

でも、梨花はただ静かに座っているだけ。想像していたような、怒りや悲しみ、あるいは問い詰めるような表情は一切見せなかった。

竜之介は、胸が詰まるような息苦しさを感じた。

ふとリビングの隅に目をやると、きちんとまとめられたスーツケースが二つと、封をされた段ボール箱がいくつか置いてあった。

「これは……」彼は喉を上下させ、初めて声が震えた。「どういうことだ?」
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