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限りある明日に、君を選ぶ
限りある明日に、君を選ぶ
Auteur: ジャスミン

第1話

Auteur: ジャスミン
人生最後の春になるかもしれないその時期、私は長谷川瑛太(はせがわ えいた)と頻繁に会うようになっていた。彼こそが、龍臣が私のためにあてがった相手だったからだ。

それを受け入れさえすれば、せめて私が彼にとっての「正すべき過ち」ではなくなったことの証明になるかもしれない、と。

その夜、龍臣は数週間ぶりに邸宅へ帰ってきた。書斎の暖炉の前に立ち、黒いシャツの袖を肘まで捲り上げた彼は、火のついていない葉巻を指先で弄んでいた。

私に対して徹底して冷淡になったこの半年間でさえ、私の前では決して煙を吐かないというその習慣だけは変わっていなかった。

「長谷川との交際はどうだ?」

私を見ようともせず、龍臣が口を開いた。

「何回会った?」

「4回よ」

「プロポーズはされたか?」

私は思わず笑いそうになった。瑛太は私の秘密を守ってくれている友人に過ぎず、求婚者などではない。彼とは手すら繋いだことがないのだから。それでも、龍臣の声はひどく淡々としていて、まるで大型プロジェクトの最終確認でもしているかのようだった。

「……もうすぐ、されるかもね」

葉巻を弄んでいた龍臣の指が、ピタリと止まった。

数ヶ月ぶりのまともな会話をここで終わらせたくなくて、私はかつて思い描いていた結婚式の情景を語り始めた。

「もし式を挙げるなら、ガラス張りの天井から冬のアネモネをたくさん吊るしてほしいな。ダイヤも純白じゃなくて、蜂蜜色のオーバルカットがいい。式の後は、派手な演出なんていらない。古いブルーのオープンカーに乗って、海沿いをずっと走っていくの」

細部を語れば語るほど、彼の表情はみるみる険しくなっていった。

「……もういい。お前が自立した人生を歩む気になったのなら、それで十分だ」

彼は葉巻をケースに投げ入れた。まるで、全身の力を振り絞らなければ、次の一言を口にできないとでもいうように。

「ご両親はお前を俺に託した。俺は後見人だったんだ、結衣。その事実が消えることはない。この家には、いつでもお前の部屋を残しておくからな」

私はドアの傍らに積まれた2つのダンボール箱に目をやった。

服や本、両親が遺してくれた写真の数々は、すでに海外の脳神経腫瘍センターがある国へと発送済みだった。ここを発つことが誰にも気づかれないよう、部屋にはカモフラージュとして私物を少し残してあるだけだ。

「部屋なら残さなくていいわ。たぶん、もうこの国で暮らすことはないから」

いや、「たぶん」ではない。仮に手術が失敗して二度と目が覚めなかったとしても、私はもうここには戻らない。

現地の病院が、覚醒下開頭手術とオーダーメイドのワクチン治験の受け入れに同意してくれた。2日後、私はこの国を離れる。奇しくもそれは、龍臣と西園寺財閥の令嬢・西園寺詩音(さいおんじ しおん)の結婚式が執り行われる日の朝だった。

龍臣が顔を上げ、その瞳の奥に訝しげな色が浮かんだ。だが、私は彼が口を開く前に尋ねた。

「詩音は、どんなお花が好きなの?」

「赤いバラだ」

ためらいのない即答だった。

胸の奥がチクッと痛んだが、私は笑顔を崩さなかった。

「アンティークとジュエリーなら、どっちが好きかしら?」

「あいつには何も必要ない。気遣いは無用だ、関わらないでやってくれ」

私が式を台無しにする気だとでも思って警戒しているのだろう。無理もない。半年前、私はこの邸宅で彼を泣きながら問い詰めたのだ。

「私が熱を出した時は一晩中そばにいてくれるのに、どうして『失うのが怖い』って認めてくれないの!」と。

だが今となっては、あの時お互いにどんな言葉をぶつけ合ったのか、はっきりとは思い出せなくなっている。

脳の腫瘍は、私の言葉を、時間を、見慣れた景色を容赦なく奪っていく。昨日も、コーヒーメーカーという名前がどうしても思い出せなくて、キッチンで10分も立ち尽くしてしまった。

それでも、彼が誰かを深く愛する時に見せる、あの不器用で優しい眼差しだけは鮮明に覚えている。好きな花、ドレスのサイズ、フライトの便名、一度だけ口にしたささやかな願い……彼は、愛した人のすべてを完璧に記憶する人だった。

詩音は彼を手に入れたのだから、私から与えられるものなんて、もう何一つ必要ないのだ。

私はただ、ここを発つ前に、九条家への恩義を綺麗に清算しておきたかっただけなのだ。

その時突然、何かが焦げるような鋭い匂いが鼻を突いた。主治医からは警告されていた。側頭葉への刺激が幻嗅を引き起こすと。多くの場合、それは発作の前触れだ。

私は椅子の背もたれを力一杯握りしめ、視界を侵食する黒い斑点が消え去るのをじっと耐えて待った。

龍臣が一歩こちらへ踏み出した。

「どうした?」

「……ちょっと貧血気味で」

彼は私の額に手を伸ばしかけて——肌に触れるほんの数センチ手前で、その動きをピタリと止めた。両親の葬儀の日、震える私の手を引いてくれたあの大きく温かい手は、行き場を失ったように固く握りしめられ、力なく下ろされた。

「……休め」と彼は短く言った。

彼の声から心配という感情を感じ取れるのは、きっとこれが最後になるだろうと予感を胸に抱いたまま、私は黙って2階の寝室へ向かった。

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