INICIAR SESIÓNSNSは白川茉莉の得意な分野で、彼女はそれを武器として上手に使う。
これ幸いと周りを煽り、好奇心を掻き立て、私を汚すだろう。
ただ……私、すでに結構汚れ役なんだよね。
原因はあの夜のパーティーの画像や映像、
煽るタグがつけられて拡散され、ネット上で私はかなりの『悪女』だ。
白川茉莉ファンや幼馴染恋愛推奨派からは蒼と白川茉莉の邪魔をするなと言われている。
凱ファンは実に過激で、世界各国のスラングで罵られるという経験をしている。
これが不快ではないと言ったら嘘だけど、事実も知らずいい加減だと思った。
蒼と私は夫婦で、蒼と白川茉莉は不倫の関係。
それは幼馴染のピュアな恋愛ではないし、【2人が結ばれるのをみんな待ってる】の“みんな”は主語は大きいが、蒼が大事に思人はいないため実はない。
凱が絡んだコメントは完全に笑い話。
私が凱を手に入れるためにしたあれやこれや(性的なものが9割以上)を見た・聞いたと好き放題に言っているが、私が凱の本当に異母妹だと知ったらどうするのだろう。
どうもしないのだろうな、匿名だから。
誤魔化すこともせず、好き放題っていた人は次に好き放題言える人の元へ行く。
ネットなんてそんなもの。
「陽菜、考え直せ。あの男たちには余罪もあるし、公務執行妨害ですでに捕まっているから」
「だめ、それでは白川茉莉にまでいかない」
「白川茉莉に関わるな、また陽菜に何かあったら……「何かはある」」
思いのほか強い言葉が出た。
でも……分からせれば理解する、白川茉莉に対するそんな甘さが今回のことを起こした。
いい加減自覚するべき。
白川茉莉という人間は道理でどうにかなるものではない。
「藤嶋家には白川家との付き合いがあると思う。だから蒼にどうしてとは言わないわ」
何百年続く絆
「きょうのおやつ、バナナかな? バナナじゃないかな、じゃあね、バナナじゃなくてもいいかな、でもやっぱりバナナがいいな」海の取り留めないお喋りを、ソファに座る自分の膝にのせて聞いている蒼の顔は優しい。擬音語満載で、気を抜くと全然違う話になっていて理解できない話なのに蒼は優しい顔で聞いている。部下に対しては「簡潔に、さっさと話せ」と暴君なのに差がすごい。「陽菜」蒼のその目が私に向くと、純粋に優しいだけの目に甘いものが灯る。おはようのキスよりよほど甘い。「海、ママが着替えてきたぞ。海もバッチリな姿を見せてやれ」海は蒼の足から降りて、準備のできた姿を私に見せてくれる。その姿は凛々しく見えなくもないのかもしれないけれど、蒼の膝から降りるときの、お尻を振って降りる姿こ可愛らしさが強烈過ぎて凛々しく見えない。 「おばあちゃんにあげるの」海の小さな手には例のドングリ。おばあちゃんとは翠さんのこと。海は宝物を惜しみなくあげるくらい翠さんが大好きで、今日は翠さんと一日遊ぶのだとずっと前から楽しみにしていた。 *私と蒼は離婚した。海の親権は私が持つことになったが、離婚する前に海の出生届に自分と私を父母として出したいと蒼に言われた。海の戸籍に『認知』という言葉を残し、海を非嫡出子にしたくない。海のためを思った提案であるし、できる男の黒崎さんが認知手続きを『面倒くさい』と分かる感じにまとめた資料を寄越し、それが決定打になった。当人同士が良ければいいじゃないと凱に愚痴ったら、拗れに拗れて周囲を喧嘩に巻き込んだ夫婦がいう台詞じゃないと呆れられた。蒼と離婚したあとは『朝霧陽菜』に戻る手続き。運転免許証、銀行や証券などの金融商品の名義、クレジットカードやネット通販のアカウント情報、『藤嶋陽菜』が意外とあった事実に、それに気づかぬままでいたという事実に苦い思いがこみ上げた。 私のパスポートが『朝霧陽菜』に戻るのを待って
「おはよう、陽菜」着替え始めた海を満足気に見た蒼は、同じくその光景をぼんやり見ている私を抱き寄せ、頬に挨拶のキスをする。「蒼……」「何? 物足りない?」それならと唇に寄ってくる蒼の唇をぺチンと手で軽く叩く。「痛いな」「嘘、そんなに強く叩いていないもの」我ながら随分と甘ったるい朝の風景だと思う。蒼も同じように思っているのか……いや、「おはよう」と言ってくる声はさっきの何倍も甘い。「おはよう」「どうした?」甘い朝に文句は特にない。甘ったるく愛情を伝えてくる蒼は、向けられる感情に照れ臭さを感じつつも、蒼自体は嫌いじゃない。むしろ……。「イヤイヤ期の対処法その3、肯定的なフィードバック」イヤイヤ期の海を上手く扱う姿はヒーロー。「……肯定的……なんだって?」「フィードバック。蒼って小さな子どもの扱いが上手いのね」なんで突然そんなことを言い出したのかを、散らかったリビングを見渡して蒼は理解する。朝の戦場に苦笑いだ。「ここは俺が片付けておくから、着替えてこいよ」「ありがとう」スーツの上着を脱ぎワイシャツの袖をまくる蒼。理想的な育児のパートナー。寝室に向かおうと部屋を出るとき、「なんでここに食パンが?」と不思議がる蒼の言葉には笑ってしまった。*いま、私たちと蒼は同じマンションの違う部屋に住んでいる。ちなみに黒崎さんも同じマンションに住んでいる。正確には黒崎さんが先住者。
「夫婦じゃなくても母親と父親として海を育てることはできる」ドンッと大きな音がして、バスルームが揺れる。シャワーに残っていた水がバスタブに音を立てて落ちた。「……ごめん」「ううん」ポタリ、ポタリと音を立てて水が落ちてくる。まるで泣いているみたいだ。 「蒼」返事はないけど、扉の外に蒼はいる。「蒼?」蒼は、私の“お願い”を断れない。どんなお願いも、蒼は困ったような、時には悔しそうな顔をしても絶対に受け入れてくれる。蒼は、優しい。その優しさを、利用する。……ごめんね。 「そーう?」「……………………分かった」蒼の小さな声。「ありがと」私も、小さな声。ポタリと水が落ちてきた。まだ髪が濡れていたみたい。「……っ」持っていたタオルで口元を抑えて、私は嗚咽を殺した。 「長く話して体が冷えただろう、もう一度シャワーを浴びておいで」蒼の優しさに甘えて、私はシャワーの下に立ってコックを捻る。水量は最大。……蒼の泣く声を聞いてしまったら決心が鈍ってしまうから。 * 【約2年後 日本】 「海、お願いだからご飯を食べて」「や」「海」「やーあ」息子の海はいま2歳。魔のイヤイヤ期の真っ最中。 魔のイヤイヤ期については噂で聞いていたけれど、2歳を過ぎてしばらくしてもその予兆はないから、覚悟はしていたけれど拍子抜けした。でも、
蒼がどんな選択をしても、私には関係ない。海は私の息子だし、蒼がいなくても生きていく術はある。仕事はあるし、リモートとか、いまは働き方がたくさんあるのだから。 人手が必要なときだってなんとかなるだろう。多分、凱を頼るけれども。だって凱は海を目に入れても痛くないほど愛している……というか、「目に入れて持ち運びたい」と豪語している。頼めば喜んで海の面倒をみてくれるだろう。 「ねえ、蒼……「子どもの……海の生まれたときのことを話して」」蒼の声、震えている。私の気持ちも震えている。 蒼が海を拒否したら『気にしていない』「それでもかまわない』というつもりだった。実際に言ったと思う。でも、蒼がどんな選択をしようとも構わないというのは、強がりでしかなかったみたい。海に興味を示してくれた。そう思った。そして、胸がジンッと痺れた。 「体重は約7ポンド……3000グラムを超えて生まれたわ。健康だって言われて泣いたの」蒼は「そうか」と言ったあと、“ポンド”を気にした。「ポンド? イギリスにいたのか?」「うん。話せば長くなるんだけど、私と凱の父親はイギリス人で、クリストファー・アシュフォードというの」「イギリス人……日本、台湾の多国籍だな」蒼の妙な感心に笑ってしまった。 「海を産むと決めたとき、ごめんね、絶対に蒼に知らせるもんかって思った」「……うん」「どうせこの子も隠される。そう思ったら、逃げなきゃって思ったの」「それで李凱を頼ったのか」「お兄ちゃんだもん……私が困ったら、地球の裏
SNSは白川茉莉の得意な分野で、彼女はそれを武器として上手に使う。これ幸いと周りを煽り、好奇心を掻き立て、私を汚すだろう。 ただ……私、すでに結構汚れ役なんだよね。原因はあの夜のパーティーの画像や映像、煽るタグがつけられて拡散され、ネット上で私はかなりの『悪女』だ。 白川茉莉ファンや幼馴染恋愛推奨派からは蒼と白川茉莉の邪魔をするなと言われている。凱ファンは実に過激で、世界各国のスラングで罵られるという経験をしている。これが不快ではないと言ったら嘘だけど、事実も知らずいい加減だと思った。蒼と私は夫婦で、蒼と白川茉莉は不倫の関係。それは幼馴染のピュアな恋愛ではないし、【2人が結ばれるのをみんな待ってる】の“みんな”は主語は大きいが、蒼が大事に思人はいないため実はない。凱が絡んだコメントは完全に笑い話。私が凱を手に入れるためにしたあれやこれや(性的なものが9割以上)を見た・聞いたと好き放題に言っているが、私が凱の本当に異母妹だと知ったらどうするのだろう。どうもしないのだろうな、匿名だから。誤魔化すこともせず、好き放題っていた人は次に好き放題言える人の元へ行く。ネットなんてそんなもの。 「陽菜、考え直せ。あの男たちには余罪もあるし、公務執行妨害ですでに捕まっているから」「だめ、それでは白川茉莉にまでいかない」「白川茉莉に関わるな、また陽菜に何かあったら……「何かはある」」思いのほか強い言葉が出た。でも……分からせれば理解する、白川茉莉に対するそんな甘さが今回のことを起こした。いい加減自覚するべき。白川茉莉という人間は道理でどうにかなるものではない。 「藤嶋家には白川家との付き合いがあると思う。だから蒼にどうしてとは言わないわ」何百年続く絆
インターホンの音に私と蒼の体が同時にビクッとする。私、何を思い出して……。 「誰か来たみたいだ。出てくる、一人で大丈夫か?」「……うん」この状況で初めの日を思い出している自分が恥ずかしくて俯いてしまったが、蒼はそれを我慢している思ったようで「すぐに戻る」と言ってバスルームを出ていった。……恥ずかしい。 「副社長」知らない女の人の声、誰だろう。「朝霧様のお着替えをお持ちいたしました」「どうやって?」「李支社長がなんかやったようです」まるで凱が犯罪でも犯したかのような口ぶりで話している……あの凱に嫌悪を示す女性は初めて。どんな人だろう。「陽菜、聞こえたと思うけれど着替え……陽菜?」鍵を閉めたから、バスルームの扉は開かない。さっきの状況と、服を渡すという理由を考えれば、私が鍵をかけると思っていなかったようで蒼は不思議そうな声を出した。「白川茉莉の子どもは、蒼の子どもなの?」扉の向こうにいるけれど、蒼が緊張するのを感じた。面と向かってはいないけれど、正面から問いただしたのはこれが初めて。蒼の子どもだと思っていたから、「そうだ」と言われるのが嫌だった。 「違う、俺の子じゃない」どうして、蒼が自分の子どもだと誤解させたままだったのか。なんで私には、秘密だよって、言ってくれれば……。はあ。過去に「こうしてくれていたら」と考えるとキリがない。あくまでも結果論でこの状況、選択が違えば過程や結果が変わり、違う今がある。この今だから出てくる「こうしてくれたら」は、過去の選択を責め