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第1160話

Author: 風羽
その後、陣内家の事情には九条津帆が介入した。しかし、既に事実は変わらない。誰が何をしても結果は覆らない。九条津帆は鷹栖知世に会食を申し込んだが、B市で最も高額な報酬を請求することで知られる彼女は、1時間しか時間を割いてくれなかった。

この会食は、九条津帆が個人的にセッティングしたものだった。

この時、高橋徹(たかはし とおる)がまだ帰国しておらず、鷹栖知世はまだ自由奔放な敏腕弁護士として名を馳せていた。藤堂家と鷹栖家では藤堂群だけが恋愛らしい感情を抱いてはいたものの、それも順調とはいかない様子だった。

その店の中で最も豪華な個室。

九条津帆と鷹栖知世は向かい合って座っていた。九条津帆はグラスを片手に、有能な女性弁護士を見ていた。彼女の両親は彼女に美しい容姿と、ずば抜けた頭脳を与えた。ビジネスの世界でも、九条津帆はこの女性弁護士の手腕を耳にしていた。法曹界、芸能界問わず、男女を虜にする魅力の持ち主だった。

鷹栖知世はスーツ姿で、そこに座っているだけでも圧倒的な存在感を放っていた。

彼女は九条津帆の意図を理解していた。そして、食事が一段落したところで単刀直入に切り出した。「九条社長が一番気にしているのは、中川さんが何年の刑になるかということでしょう。回りくどい言い方はしたくありませんし、現実的ではない希望を与えるつもりもありません......3年です。少なくとも3年は覚悟してください」

九条津帆は静かにグラスを置いた。

そして伊藤秘書に視線を向けると、伊藤秘書はすぐにアタッシュケースから用意していた小切手を取り出し、テーブルに置いた。

小切手の金額は40億円だった。

鷹栖知世は小切手を手に取り、しばらく見つめた後、小さく笑った。「九条社長、ずいぶん大金ですね。壊れかけた結婚生活を取り戻すために40億円とは、なかなか太っ腹ですね。

しかし、この事件はもう結論が出ています。私にどんな力があっても、中川さんを無罪にすることはできません。担当検事は、とてつもなく手強いことで有名なんです」

この40億円は、鷹栖知世には受け取れない金だった。

彼女は小切手を返し、席を立った。

帰る際、鷹栖知世はドアノブに手をかけ、少し考えてから言った。「実は、あなた当時の選択は間違っていませんでした。ただ、陣内さんを愛していなかったことが問題でした。愛していないのなら、
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