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第538話

Author: 桜夏
聡は、透子が送ってきた一番上のメッセージを引用して、返信した。

【確かに羽目を外してたな。酔って何をして、何を言ったか、知りたくない?こっちには録音もあるよ。思い出させてやろうか】

この内容を見て、「ブーン」という音と共に、透子の頭の中は一瞬で真っ白になった。

昨夜、記憶がなくなってから、自分は何をしたんだろう?まさか、酔うと暴れるタイプだったとか……

聡に抱きついて泣いたりしてない?そんなことになったら恥ずかしすぎる……

しかも、録音までされてるなんて……

聡って人は、どうしてこんなことができるの!

透子はもともと恥ずかしがり屋で、顔からようやく引いた赤みが、この瞬間、またエビのように真っ赤になった。

彼女は、聡が自分を家まで送ったのは、自分の「恥ずかしい姿」を見るためでもあったんじゃないかと、すごく疑った。

そして、あの意地悪な男は録音して、もしかしたら動画まで撮って、わざと自分をからかってるのかも。

彼女は震える指で、自分が何をしたのかを聞くメッセージを打ち始めた。怖いからじゃなく、気まずさと恥ずかしさからだ。

生まれてからこれまで、こんなに恥ずかしい思いをしたことはない。しかも、一番自分をからかうのが好きな男の前で。これじゃ相手に弱みを握られるようなものじゃない?

でも、彼女がメッセージを打っている、まさにその時、少し離れた場所で。

紺色のスーツを着た男が彼女を見つけた。透子がうつむいて顔を赤らめ、歩き方までおぼつかず、体がふらついているのを見て。

その表情、その姿……

まさに、恋する女の子そのものだった!

恥ずかしさで赤くなった頬は、相手の甘い言葉にどう反応していいか分からず、照れているんだ!

急に、昨日やっと完全に離婚したばかりの男は、我慢できなくなった。

それどころか、体はふらふらし、人が見えてないみたいに何人にもぶつかり、周りの人たちから不満の声が上がった。

「あっ、社長!しっかりしてください!!」

大輔は慌てて声をかけ、同時にわざと声を大きめにして、うつむいてスマホを見ている透子に聞こえるようにした。

やっぱり、その言葉は透子を顔を上げさせるのに成功した。一瞬で、顔の恥ずかしさで赤かった色は消え、青ざめた白へと変わった。

つい先ほど執事から、新井のお爺さんがもう蓮司のことは関わらないと聞いたばかりなのに、
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