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第53話

Author: 桜夏
ガス中毒での救急搬送、その上同時に二人も運ばれてきたため、急診室の看護師たちは自然と事情を察し、蓮司を軽蔑するような目で見ていた。

走ってくる姿はやけに必死だったが、事故が起きた直後に助けたのは愛人だけだった。

今さら正妻が意識不明になっているのに、何を気取って愛情深い男のふりをしているだろう?

午前中、蓮司は仕事を休んで病院にずっと詰めていた。

どれだけ時間が経ったか分からないほどで、美月の様子を一度も見に行くことさえなかった。

最終的には美月の方から彼を訪ねてきた。

蓮司はそのとき我に返り、慌てて彼女を支えて椅子に座らせた。

「透子の様子はどう?全部私のせいよ。あのとき意識を失って、透子を呼べなかったの」

美月は申し訳なさそうに言った。

「お前のせいじゃない。お前だって被害者なんだ」

蓮司はそう答えた。

「原因はもう調べた?配管のガス漏れ?」

彼女が尋ねた。

「いや、推測では火は消えていたけれど、ガスコンロのスイッチが切られていなかったのが原因らしい」

蓮司は唇を引き締めながら答えた。

これは管理会社と修理業者の報告によるものだ。

しかし、彼らが中に入ったときに、スイッチはすでに切られていて、窓も開けられていた。さらにキッチンのドアも閉められていたため、ガスの拡散は食い止められたらしい。

「昨日の夜、寝る前にガスコンロ触った?」

蓮司が美月に尋ねた。

「触ってないよ。キッチンには入ってすらいない」

彼女は無実を主張した。

蓮司は眉をひそめて、さらに尋ねた。

「じゃあ昨夜、キッチンのドアは開いてた?閉まってた?」

「開いてたよ。だって透子が外に出ようとしないか見張ってたから、ずっとリビングにいたの」

蓮司はその言葉に少し驚き、「お前、ずっと部屋に戻らなかったか?」と聞いた。

美月はうなずいた。

「ソファで寝てたの。ドアの鍵が動いたらすぐ分かるようにね」

「そんなバカなことを……」

蓮司の心には大きな罪悪感が込み上げてきた。

彼が寝てしまったからこそ、美月がリビングに見張っていた。

そのせいで美月はガスを多く吸って気を失った……

「私は平気よ。まさかガスが漏れるなんて思ってなかったし」

美月はため息をついた。

「昨日の夜、私たちは外で食事してたよね。透子は一人で家にいたから、あのガスコンロは……」

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Comments (4)
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flower.usagi
バカじゃないの⁈美月さん!貴方の悪行は仕舞には全部自分に返ってくるからね!吐き気がするわ!
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1216.k.eiri
頭にウジ湧いててこんな男おるんか
goodnovel comment avatar
おくら
もう男が頭弱過ぎてやばい 早く透子は逃げてほしいし、家に監視カメラあるなら見てほしい これだけ事件起きてるのに確認しないなんて頭沸いてる(笑)
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