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第667話

Author: 桜夏
向かい側で。

理恵はもちろん、目の前の男が自分を三、四秒も見つめていたことを気づいてたし、翼が自分に少なからず好意を抱いていることも分かっていた。

何しろ、「復讐」を決意してからは、彼女は翼が付き合ってきた女性たちをかなり研究したのだから。

法則をまとめ、それから自分の性格を抑え、笑顔さえも意図的に練習した。

翼は顔を上げて笑いながら言った。「デザートを二つ頼むか?理恵ちゃん、高校の時、甘いものが大好きだったろ。でも、お兄さんが厳しくて」

理恵ははにかんで笑った。「翼お兄ちゃん、まだ覚えててくれたんだ」

翼はいつもの調子で言った。「当たり前だろ。君のことは、何でもはっきり覚えてるよ」

理恵は表面上は笑ってたけど、心の中では盛大に白目を剥いてた。

聞いてよ、この口説き文句。口を開けばスラスラ出てくるし、しかもそれがまた、すごく自然で真心がこもっているように聞こえる。

聡が口を挟んだ。「高校の時、こいつはニキビがひどかったんだ。甘いものはニキビを悪化させる」

彼も理恵のためを思って、甘いものを控えさせていただけなのに、翼の口にかかれば、自分が妹を「虐待」してるかのように聞こえてしまう。

翼は言った。「じゃあ、もう思春期はとっくに過ぎたんだし、今もそんなに厳しくないだろ?この前、理恵ちゃんと話してた時、まだ門限までチェックするって言ってたぞ」

その「告げ口」を聞き、聡は横目で妹に視線を送った。理恵は黙って顔をそむけた。

嘘を言っているわけでもない。以前、「透子の家に泊まりに行く」って言った時、兄は彼女が遊び歩くのではないかと心配して、しつこく問い詰めてきたのだから。

聡は言った。「それはそれ、これはこれだ。まだ嫁入り前の身なんだから、帰りが遅くなれば俺が口出しするのは当然だ」

翼はそれを聞き、彼の徹底した妹を守る姿勢を見て、聡が「シスコン」って確実だと思った。

だから、未来の彼の義弟は必ず「兄による厳選」を経なければならず、聡という関門を突破できなければ、柚木家の門をくぐることは夢のまた夢だろう。

そんな考えが頭に浮かび、翼はまた一人で、ふっと自嘲気味に笑った。

そんなこと、自分に何の関係がある?理恵は、自分の妹のようなものでもあるのだ。

小さい頃から成長を見守ってきたのだから。

注文が終わり、料理を待つ間、店員が先に飲み物を運んで
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