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第936話

作者: 桜夏
たかが元妻一人のために、命を張るとはな。父も取締役会の連中も、これで奴の評価も地に落ちたことだろう。

悠斗にとっては、これ以上ない好機だ。

博明は、言い聞かせるように息子を見た。「このチャンス、絶対にものにしろ。取締役会の老いぼれどもと、お爺様を黙らせるだけの実績を上げてみせろ」

悠斗は静かに頷く。「分かっております、父上」

もちろん、この機会を最大限に利用するつもりだ。

兄の蓮司には、すでに『妻を命がけで愛する夫』というレッテルを貼ってやった。その評判をさらに煽り、メディアに流す記事も手配済みだ。

悠斗がむしろ気にしていたのは、別のことだった。

人を遣って橘家の動向を隅々まで洗わせていたが、この一週間、雅人はほとんど第三京田病院に詰めており、オフィスにさえ顔を出していない。

橘家の両親も同様だ。一体、誰が入院しているというのか。

病棟は鉄壁の警備が敷かれ、情報を得ようとすればこちらの正体が露見するだけだ。

一度、雅人を尾行させたが、相手のボディガードに察知され、命からがら逃げ帰ってきた。

下手に動けば、こちらが疑われかねない。

しかし、こうして遠巻きに眺めてい
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