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第447話

Author: ちょうもも
どうして起こしてくれなかったのよ!

ようやく彼はゆっくりと彼女を下ろし、尋ねてきた。

「自分で歩けるか?」

歩けなくても、歩けないなんて口が裂けても言えない。

恥ずかしすぎる。

まして、身長190センチの男が気品をまとい、誰もが目を奪われる顔立ちで自分を抱えていたなんて......視線を集めるに決まっている。

もしネット民に撮られて拡散でもされたら、本当に終わりだ。

数年前の史弥の件で、五年も叩かれ続けた。

やっと帰国して少し落ち着いたのに、また燃料を投下するなんて冗談じゃない。

悠良は彼の腕を借りて何とか立ち上がり、顔を上げた瞬間――

「婦人科」の文字が飛び込んできた。

その途端、顔が一気に真っ赤になる。

唇をきゅっと結んで、問いただした。

「病院に連れてきて、何のつもり?」

伶は視線を落とし、二人にしか聞こえない声で答える。

「具合悪いんだろ」

「確かにちょっと体調は悪いけど......」

まあ、来てしまったからには、ついでに診てもらうか。

診察室の扉を押して中へ入る。検査自体は初めてでもないから平気なはず。

けれど「伶が婦人科に付き添っている」という事実が、どうにも落ち着かない。

検査を終えた医者が手袋を外し、唐突に言った。

「ご家族の方を呼んでください」

「えっ......なんで家族?」と、ズボンをはきながら思わず聞き返す。

医者はカルテを書きながら淡々と。

「彼氏のせいでこうなったんでしょう?」

「ち、違っ......先生!私に説明してくれれば大丈夫ですから!」

「いいえ、これはあなた一人じゃ対処できる問題じゃありませんよ」

そう言うや否や、診察室のドアを開けて大声で呼んだ。

「小林さんのご家族はいますか?」

「せ、先生......!」

穴があったら入りたい。

伶が扉を押して入ってきた。

ちらりと意味深に悠良を見やり、そのまま医者に言う。

「彼氏です」

医者は眼鏡を直しながら苦言を呈する。

「若いからって加減を知らなすぎる。裂傷まで起こさせてどうするんですか」

その言葉に悠良は全身を震わせ、医者を見つめた。

まさかここまで酷いとは思っていなかった。

単に「一晩中無茶されたせい」くらいだと考えていたのに......歩くのが辛いわけだ。

まるでアヒルみたいに。

伶は口元を覆い、軽く
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