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第1247話

Author: 小春日和
「言いなさい!冬城があなたを真奈の監視につけたのは、いったいどんな魂胆があるのよ!」

幸江は福本英明をリビングのソファにぐいっと押し込むように座らせた。三人からの詰問に、福本英明の額にはじわりと汗がにじみ始めていた。

神様!

殺してくれた方がましだ!

福本英明はしどろもどろになりながら言った。「ちょ、ちょっと待って、お二人とも!何かの聞き間違いだよ。冬城?俺、そんな人と面識ないから!」

伊藤が言った。「俺たちはそこまで耳が遠くないよ?福本社長、そんな筋の通らないことしていいと思ってんのか?さっきはっきり聞こえたよ?もう逃げられないからな」

「俺は!」

福本英明は目の前の幸江と伊藤を見ながら、歯を食いしばって観念したように口を開いた。「……わかった!もうバレてるなら、隠しても仕方ない!実はな……本当のことを言うと、俺はずっと冬城が瀬川に何か下心を持ってるんじゃないかって疑ってたんだ!お前たちの友達として、何か役に立ちたいと思ってさ。だから、牽制するためにわざとあいつに近づいて、冬城の腹の中を探ってやろうって決意したんだよ!」

それを聞いた幸江は、まだ半信半疑の表情で言った。「……ほんとに?」

「もちろん本当だ!俺を誰だと思ってるんだ!福本グループの社長様だぞ!冬城と連絡取るなんてな、やろうと思えば朝飯前よ!」

今度は伊藤がじろりと睨みながら尋ねた。「ってことは……お前、冬城の手下じゃないってことか?」

「おいおい、何言ってんだよ!俺は福本グループのトップだぞ?あの冬城はもう会社の実権を失ってるただの一般人じゃねぇか。俺がなんでそんなやつに指図されなきゃならないんだ?お前、自分で言ったそのセリフ、ちゃんと論理的に通ってるか?」

伊藤は、福本英明の話にすっかり煙に巻かれていたが──聞けば聞くほど、なんだか理屈は通っているようにも思えてきた。

「……言われてみれば、確かにそれっぽく聞こえるな」幸江と伊藤は顔を見合わせ、小さく頷き合った。

しかし、そのまま引き下がる幸江ではなかった。すぐさま表情を引き締め、ぐっと一歩前に出る。「じゃあ──さっき冬城と何を話してたの?携帯、出して。中、見せてくれない?」

「ゴホン――!」

唐突な要求に、福本英明は盛大にむせ込んだ。額には汗が噴き出し、背中にまで冷や汗がつたう。

携帯を……見せるって?

冬城との
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