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第465話

Author: 小春日和
録音が終わったあと、会場は水を打ったように静まり返った。

出雲は、まさか真奈がボイスレコーダーを持参していたとは思ってもおらず、眉をひそめた。

その出雲の視線と、真奈の視線が真正面からぶつかる。

真奈はふっと片眉を上げた。

私を陥れようって?甘く見ないで。

田沼会長と冬城おばあさんは、録音によって状況が揺らいだことに気づきながらも、事態の流れが把握しきれずにいた。

沈黙を破ったのは出雲だった。「瀬川さん、たった一つの録音では、何も証明できません。それに、あれだけの人が瀬川さんが人を突き落とすところを目撃しています。これは動かしがたい事実です」

真奈は肩をすくめて、誠実そうな顔で答えた。「出雲総裁、誤解されています。この短い録音で私の無実を証明するつもりはありません。ただ、田沼さんが冬城の名を騙って私を二階に誘い出し、不可解なことを言った――その事実を明らかにしたかっただけです」

「たとえ夕夏が何か妙なことを言ったとしても、あなたが突き落としたという事実は消えない!」

「どう言い繕おうと、真奈が私の曾孫を死なせたことに変わらない!」

ふたりの言葉は連携したように真奈の反論の道を断ち切り、会場の空気は再び真奈に不利な方向へと傾いていく。

藤木署長も言った。「瀬川さん、他に証明できるものはありますか?……なければ、私としても職務を果たさねばなりません」

会場中の視線が真奈に集中するなか、藤木署長もこの場での公平性を保たなければならなかった。

真奈は落ち着いて言った。「もちろんあります」

人々は顔を見合わせて戸惑いを浮かべる中、真奈は静かに口を開いた。

「事件が起きたのは二階です。そして、ちょうどその二階には監視カメラが設置されていました。その映像を確認すれば、すべては明らかになるでしょう?」

その言葉に、冬城おばあさんの眉間がぴくりと動いた。「何を言ってるの?うちの二階に監視カメラなんて……そんなもの、あった覚えはないけど?」

「以前はなかったかもしれません。でも、昨日からはありました」

その一言に、冬城おばあさんは言葉を失った。

家にカメラを設置したなんて、一言も聞いてない……そんなはずがない。

角の陰にいた大垣さんが進み出た。彼女は手にしたスマートフォンを真奈へ差し出す。「奥様、証拠はすべて、こちらにございます」

その姿を見て
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Mga Comments (1)
goodnovel comment avatar
良香
お前らスズメもおんなじやけどな。 まあ、無実が証明されたなら良し! 折居夫人とも仲良くなれそうだし、目的は果たされたな。
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