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112.護の行動力と共有する時間

last update Last Updated: 2025-08-10 19:57:30

華side:

「え?東京の家を引き払ったの?」

プロポーズされてからしばらくして、私が返事をする前に、護さんは長野の別荘の麓にあるファミリー向けのマンションを購入した。

「うん。ここだったら高速もすぐに乗れるし、慶くんや碧ちゃんの通園にも支障がないと思って」

そう言って新しいマンションを嬉しそうに案内してくれた。

瑛斗が訪ねてきてから、護さんは頻繁に別荘に来るようになり、私は彼の身体を心配していたがまさか引っ越してくるとは思わなかった。そして単身ではなくファミリー用にしたのも、私や子どもたちが住むことも視野に入れてのことだろう。

私は、護さんの行動に驚きを隠せないでいた。

購入した物件は、別荘に比べてアクセスも良く、周辺には大きなスーパーやショッピングモールもあり、専属の運転手がいなくても買い物にも困ることはなさそうだった。

私は、子どもたちが幼稚園に行っている間に、護さんと一緒にマンションの部屋を掃除したり、引っ越し準備を手伝った。護さんが休みの日は、近くの家具店へ二人で出かけ、新しいソファーやカーテン、ベッドを選んだ。

「こうしていると、なんだか新婚の気分だよ」

私の手を繋ぎながら、そう言ってはにかんで喜ぶ護さんが可愛くて私も微笑み返した。

家の中は、一緒に選んだ家具やお揃いのグラスなど少しずつ二人の物で埋め尽くされていった。部屋のあちらこちらに思い出が出来ていく。

そして、護さんが休みの平日はこのマンションで二人きりで過ごすようになり、子どもたちのお迎えの時間になると一緒に別荘へと帰り、次の日の朝まで過ごすようになった。

次第に私の生活は、護さんと過ごす時間で埋め尽くされていった。

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