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第2章

Author: 桐谷
見慣れたその顔。

俺は、臆病で気弱だった栞が、一人で何でもこなせるようになるまでをずっと見てきた。

栞は幼い頃からよく俺の家に遊びに来ていた。あの頃の栞は痩せて小さく、口数も少なかった。

俺の母は「圭吾の面倒を見てあげて」と栞に言っていたけれど、今思えば、むしろ俺が彼女の面倒を見ていた気がする。

俺はいつもわざと栞をからかった。あちこち遊びに連れ回しては、恥ずかしそうに頬を赤くする姿を見るのが好きだった。

栞をかわいいと褒めるたび、彼女は足をばたつかせて否定した。

そして、しどろもどろになりながら付け足す。

「圭吾も……かっこいいよ、すごく」

一晩中眠らず、ほかの女の子たちを真似して、小さな星を折って瓶いっぱいに詰めてくれたこともある。

そして恥ずかしそうに、ほかの誰かを好きにならないで、と言った。

栞はいつも俺の後ろに立って、小さな声で繰り返していた。

「圭吾……私の圭吾」

まるで俺の小さな子分だった。俺以外の言うことなんて、ほとんど聞かなかった。

十六歳のとき、俺は橘家に恨みを持つ連中に拉致された。閉じ込められた廃倉庫が、轟音とともに崩れ落ちた。

もう助からないと、周囲の誰もがそう言っていた。それでも栞だけは諦めなかった。

血まみれの脚を引きずりながら、素手で瓦礫を掘り返し、俺を助け出してくれた。

俺の胸に倒れ込み、息もできないほど泣きじゃくっていた。

その後、栞は一か月姿を消した。正確には、一か月もの間、集中治療室にいた。

片脚を失ってもおかしくないほどの重傷だった。

目を覚ました日、俺は栞を抱きしめながら目を赤くした。なのに彼女は笑っていた。

「泣かないで。目が腫れたら、せっかくのかっこいい顔が台無しだよ」

俺のほうから、彼女にキスをした。その日の夜、栞は俺の服を掴んで言った。

「責任、取ってね」

そうして俺たちは、周りの声も聞かずに付き合い始めた。母は何度も反対した。

それでも栞は、何を言われても別れないと言い張った。

その一途さから、いつしか周囲では「純愛の化身」とまで呼ばれるようになった。

それから十年以上、俺たちの恋愛はちょっとした伝説のように語られていた。

やがて母が病に倒れ、入院した。命さえ危うい状態だった。

栞はほとんど眠ることなく、献身的に母の世話をした。

そして目を真っ赤にしながら、病床の前に膝をついた。

「おばさま、私は本当に圭吾が好きなんです。どうか私たちを認めてください。これから先、一生大切にします。必ず圭吾を幸せにします。だから、安心してください」

息を引き取る直前、母は栞の頭をそっと撫でた。栞の手を握り、途切れ途切れに言った。

「栞ちゃん、私には、この子しかいないの。お願い、この子を傷つけないで、この子にはもう、ほかに家族がいないから……」

栞は自分の命にかけて誓った。一生俺だけだと。生涯、俺一人だけを愛する、と。

俺はそんな栞を支えたくて、自分から会社の経営を任せた。当時の彼女は、本当によくやっていた。

会社を引き継いでからは休む暇もなく働き、新しい取引先を開拓し、投資家のもとを走り回った。

そして短期間で、橘グループを大きく成長させた。

その年の暮れに栞はウェディングドレスを着て、俺にプロポーズした。

俺たちは盛大な結婚式を挙げた。式の途中、振り返った栞は目を真っ赤にして、そのまま俺の胸に飛び込んできた。

「私を家族にしてくれて、ありがとう。これから一生、何があっても離れないから」

そうして俺たちは、幸せな家庭を築いた。栞は俺に苦労をさせたくないと言って、家のことを手伝う人間まで雇った。

それが、和泉航(いずみ わたる)だった。

地方から出てきた男で、体格がよく、日に焼けた肌をしていた。

学はなかったが、とにかく働き者で、頼まれれば何でもやった。

栞はかなりの金を積んで、わざわざ彼を雇ったらしい。

俺は、そんなに金をかけるなんて馬鹿だな、と笑った。

すると栞は背伸びをして、俺にキスをした。

「圭吾の負担が少しでも減るなら、いくらだって惜しくないよ。私を捨てないでね」

航は働き者ではあったが、善意がいつも裏目に出た。

片づけをしようとして、俺の昔の思い出の品を捨ててしまう。

酒棚を整理すれば、決まって高価な酒を割る。

栞のパソコンを閉じようとして、重要なファイルを誤って消したことまであった。

栞は何度も腹を立て、クビにしようとしたが、行く当てもない彼を気の毒に思った俺が止めた。

そのたび栞は、自分のことにはそんなに気を遣ってくれないのに、とぶつぶつ文句を言っていた。

それでも俺の顔を立て、航には優しく接していた。

まさかその結果、航はこの家に残ることに成功し、そのまま俺の居場所を奪っていくなんて。

そして最後には、俺のほうが、この家の部外者になった。

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