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第28話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-06-21 09:43:23

半ば無理やり、バラの花束を渡された私は、色とりどりの花の美しさに心が揺れた。

香りも乙女心をくすぐる。

「か、花瓶あるかなぁ?」

恥ずかしくなって、私は立ち上がった。花瓶を探すふりをする。

……こんな大きな花束を飾れるような花瓶、あったっけ??

「雪音、私がするから。ご友人とゆっくりしておいで」

龍太郎が私の隣に立ち、どこからか大きな花瓶をひょいと出してきた。手品みたいだった。

そして私の手から、バラの花束を優しく自分の手に移動させた。

……な、なんか、準備よすぎないか?

「か、彼氏さん、やっさしい~!」

「ゆっき~、羨ましいぞ~」

三人から冷やかしが飛んできた。

……あははは。もうなんとでも言っとくれ。

でもまぁ、このバラを私のために買ってきてくれたんだよね。今切りましたと言わんばかりの、元気に咲き誇るバラ……。

私は龍太郎にお礼を言った。

「りゅ、龍太郎、忙しい中、バラを買ってきてくれてありがと……。こんなにたくさん、う、嬉しいよ」

すごく、すっごく恥ずかしい。後ろで三人が聞き耳を立てているのもわかるから。

龍太郎は一瞬、目を瞬かせたけど、嬉しそうにはにかんだ。

「いいよ。このぐらい……。本当はこの部屋一面に花を贈りたかった……」

私は胸がキュンとした。部屋中にお花なんて、ド、ドラマか?

それに、りゅ、龍太郎ごときにときめくなんて……。

そもそも、これ、な、なに? これなんの遊びなの?

こんな(普通の)龍太郎見せられたら、心がついていかないっていうか、すごく(普通に)ドキドキしちゃうよ……。

「……じゃ、龍太郎、私はあっちに戻るね」

私は龍太郎のところから、みんながいる場所に戻ろうとした。

その時、耳元で龍太郎の本来の魔王《すがた》での声が発せられた。

「……後でご褒美くれる?」

え? お仕置きじゃなくて、ご褒美? な、なにを? 彼は私になにをするの?

いや違う。今度は私が彼になんかするの? なにゆえ??

その時、コンコンと部屋をノックする音がした。

「はぁい」と私が返事をすると、紺色のスーツ姿の係長が部屋に入ってきた。

「おお、みんな来てたのか~⁉︎ 僕は····この近くまで仕事で来たから、ついでにね~」

「ちょっとぉ。ついでって。ゆっき~
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Comments (1)
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もちむぎ玄米
めっちゃ!面白い!! さくさくと楽しく読みましたーー! 良い意味での毒をもつ個性満載の性格の龍太郎と、平凡な?平凡だった?雪音の今後の展開が凄く楽しみ〜!! 雪音がどういう決断をしながらどんな変化をしていくのか??どんな新たな人生を歩んで行くのか?? そして、龍太郎と田村係長の恋愛バトルがどうなっていくのか?? まぁ、既に龍太郎の圧勝で決まりそうな状況ですけどね。 光太郎先生も今後絡んできそうな気がするのは…私だけかな??… 雪音が幸せになりますように。 次回はどうなるのか??愉快なお話を楽しみにしていま〜す。
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