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霧が眠らないうちに
霧が眠らないうちに
작가: 冬霧の島

第1話

작가: 冬霧の島
綿霧子(わた きりこ)は、桐山行人(きりやま ゆきと)が海外の闇市場から救い出した美人だった。

彼は彼女のために、一人で闇市場の勢力を潰し、かつて彼女を辱めた者を全員縛り上げ、彼女に触れた部位をことごとく切り落とした。

ある密売人が彼女に向かって口笛を吹いただけのことで、彼はその密輸ルートを一掃し、血は川となって流れた。

彼女に清らかな未来を捧げるため、行人は絶頂期に権力を投げ打ち、裏方に身を引いたのも、ただ彼女を安心させたい一心だった。

誰もが彼女を幸運だと言った。

行人は愛を刃に鍛え上げ、その切っ先は外へ向けあらゆる茨を断ち切り、柄の部分だけを彼女に握らせた。

半年前、国中を騒がせた結婚式は、彼が全世界に突きつけた宣言だった。

花火が国の半分の夜空を焦がしたあの夜、行人は彼女の手を握りながら、こう言った。

「これからは、お前の世界にいるのは俺だけだ」

彼女はそれを信じた。

……

けれど、ある雨の夜、彼女は一報を受けた。

行人が露崎白雪(つゆざき しらゆき)のため、天新町を焼き払ったという。

白雪は、露崎川悟(つゆざき せんご)の妹だ。

川悟は行人の最も忠実な腹心で、長年の彼のそばに従い、最後は行人のために、蜂の巣のように撃たれて果てた。

死の間際、彼は白雪を行人に託したのだ。

天新町は、行人の勢力範囲の中で最も「穢れのない」土地。

全てを洗い清めた後、霧子と二人きりで隠れ住むと、約束してくれた場所だったのに――

霧子は黒い傘をさし、天新町に立った。

焦げ臭い匂いが立ち込め、地面には所狭しと人々が倒れていた。

彼女は一瞬で、焼け跡の中心に立つ行人を見つけた。

彼は白雪をしっかりと抱いている。白いスカートは血と泥に染まっているのに、彼の顔には微塵も嫌悪の色はない。

行人は片手で白雪をがっしりと抱き、もう片方の手には拳銃――銃口からはまだ硝煙が漂っていた。

銃口を向けられた男は地面に半跪き、口元から血を流しながら、かすれ声で笑い続けていた。

「桐山行人!……お前、そんなにこの女が好きなのかよ……お前が抱いてる奴が何者か、わかってんのか……」

言い終わらぬうちに、銃声が炸裂し、男はその場に崩れ落ちた。

行人は一瞥もくれず、彼女を抱えたまま車へ歩き出した。動作は優しく、白雪を後部座席に寝かせ、自分の上着を脱いでかけさえした。

その瞬間、霧子は彼が白雪を見つめる目をはっきり見た。

あまりにも見覚えのある眼差しだった。

あの年、霧子が行人の仇敵に廃船工場の大型水タンクに閉じ込められ、水位が上がり口や鼻が水に浸かっていく時。

行人が自らの身を顧みず、素手で鉄のドアを破り、霧子を抱きしめて守った時――霧子を見つめた、あの眼差しとそっくりだった。

彼が身をかがめて車に乗り込もうとした瞬間、ふと顔を上げた。

雨と揺らめく煙の向こう、傘の下の霧子を見て、目が合った。

結局、彼は何も言わず、そっと視線をそらし、抱いた女を連れて車内に座った。

エンジンが唸りを上げ、車輪が水たまりを轢き、雨の夜の闇へと速やかに消えていった。

霧子は車内に戻り、運転手に追跡を命じた。

行人の車は見知らぬ一軒家の前で止まり、彼は彼女を抱いて降り、急ぎ足で中へ消えた。

霧子は車内に座り、静かにそれを見つめていた。

彼女は行人の名義の不動産をすべて覚えている。どこにも彼女の名前が入っている。

ここだけは、彼女に何も知らされていなかった。

スマホが光った。部下からの報告だ。

【調べました。今夜、近藤家の者がバーに因縁をつけに来て、露崎さんを公然と辱め、店を壊しました。

行人様が現場に着いた時、露崎さんが地面に押さえつけられているところでした……堪えきれず、銃を使い、火を放ちました】

霧子はうつむいてタバコに火をつけた。

ゆっくりと煙を吐き、もやもやとした煙の向こう、灯りのついたあの窓を見つめた。

――本当によく似ている。あの頃、海外の汚い地下オークション場でのことと。

霧子は檻に鎖でつながれ、家畜のように展示され、初夜権はオークションにかけられ、穢らわしい言葉に晒されていた。

あの時の行人も、こうして乱入してきた。

彼は血路を切り開き、彼女を泥と絶望から引きずり出し、きれいに拭いて、そして言った。

「俺についてこい。これからは、誰もお前を傷つけさせない」

今、その全てを顧みない姿勢が、そっくりそのまま別の女に与えられている。

タバコは燃え尽き、指に熱さを感じて、彼女ははっと我に返り、そっと消した。

あの窓の灯りが、消えた。

霧子は視線を引き、瞳の奥は静寂に沈んでいた。

「行こう」

車は雨の夜を抜け、郊外の山間へ向かった。

神社では、蝋燭が燃えていて、半年前に二人が誓いを立てたこの場所を照らしていた。

彼があの日誓った言葉を、彼女は覚えている。

「神様の前に、この桐山行人はこの生涯、決して綿霧子に背かず」

霧子は空っぽの神社の中央に立った。

そして、進み出て――そこに祀られていたお神札、彼が自ら書いた誓いの絵馬を、一つ一つ、壊し、蹴り飛ばした。

最後に、隅に置いてあった予備のガソリン缶を手に取り、ぶちまけた。

彼女は数歩下がり、敷居の外に立って、ライターを取り出した。

手首を振ると、ライターはガソリンに浸った廃墟の中へ落ちていった。

灼熱の炎がぼうっと立ち上り、熱風が彼女の顔を襲った。

その時、後ろから温かい手が伸びてきて、彼女の冷たい手をそっと包み込んだ。

「怒った?」

霧子がゆっくりと振り向くと、行人が彼女のそばに立っていた。

「白雪は今夜、天新町で因縁をつけられた。俺は川悟に、彼女をしっかり面倒見ると約束した」

彼は彼女を見つめ、冷静な口調で言った。

「知ってるだろ。俺は死人に借りは作らない」

炎の明かりが霧子の顔を明るくしたり暗くしたりする。

彼女はその言葉を聞き終えると、そっと手を引き戻した。

炎の明かりが彼女の顔で躍動する中、声は冷たく響いた。

「……だから、彼女のために天新町を焼いたのね」

行人はしばらく沈黙し、口を開いた。

「霧子、天新町の件は俺が処理する。お前もそろそろ、わがままはやめてくれないか?」

「わがまま?」

霧子は笑った。笑いは目に届いていない。

「行人、あなたは私がどこから来たかを忘れているようね。私はわがままだけでなく、小賢しく、恨みを忘れない女よ」

彼女は小さく一歩前へ出て、彼を見上げた。

「露崎白雪は、あなたがちゃんと隠しておいたほうがいい。これ以上、あなたが彼女と一緒にいるのを見せないで」

行人の瞳の色がわずかに暗くなり、霧子の手を掴もうとした。

しかし彼女はもう離れ、口調は平板だった。

「じゃないと、彼女を殺すから」
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