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第8話

Auteur: 流川翼
結局、時乃は隼人の誘いを受けることにした。

彼に対する憎しみは確かにある。だが、今回出演するパイロットは、ずっと憧れてきた人物だった。

会場に到着すると、席はすでに満席。

隼人と紗良も姿を見せていたが、時乃は二人の様子には一切関心を示さず、舞台の演出に集中していた。

ショーが終盤に差しかかり、時乃がそろそろ席を立とうとしたその時だった。

突然、頭上を飛ぶ機体が激しく揺れ、制御を失ったかのように観客席へ突っ込んできた。

その進路は、まさに時乃と紗良のいる方向だった。

「機体が制御不能だ!」

観客たちの悲鳴が飛び交い、人々は我先にと逃げ出す。

だが、時乃と紗良は動くことすらできなかった。

人波に囲まれ、足の踏み場さえない。

飛行機がどんどん近づいてくる。紗良は怯え、泣き叫んだ。「やだ......やだよ、私まだ死にたくない!」

時乃の手のひらは汗でびっしょりだった。彼女も恐怖に震えていたが、こういうときこそ冷静でいなければならない。

ようやく、周囲の人の流れが緩んできた。

時乃は素早く出口へ向かおうとしたが、機体はそのまま落下を続け――

ドンッ!

轟音とともに、二人は強い衝撃に吹き飛ばされた。

痛み――それは鋭く、全身を貫いた。

目を開けると、機体の破片が自分と紗良の脚に深く突き刺さっているのが見えた。

「紗良!」

かすかに、誰かの叫び声が耳に届いた。

朦朧とする意識の中、時乃は振り向いた。人混みをかき分けてこちらへと駆けてくる男――隼人だった。

彼の表情には、焦燥と不安、恐れが浮かんでいた。

いつも完璧だった髪も乱れ、彼にしては珍しく必死の姿だった。

彼が駆け寄ってきた瞬間――

「おじさん、痛いよ......助けて!」紗良が泣きじゃくりながら彼に手を伸ばす。

隼人は、一瞬の迷いもなく紗良を抱き上げた。

時乃を一瞥すらせず、その場から去ろうとした。

生きようとする本能が、時乃に叫ばせた。

「隼人!」

その声に彼は振り返った。血まみれの時乃の姿が目に入る。

だが、腕の中の紗良が泣き声を上げ続けている。

そして――「ここで待ってろ。すぐ救護が来るから」

それだけ言い残し、紗良を抱いたまま人波の中へ消えていった。

力を使い果たした時乃は、その場で静かに目を閉じた。

......

気がつくと、そこは病院だった。

白い天井、薬の匂い、そして......脚の感覚がまったくない。

見下ろすと、自分の両脚には分厚いギプスが巻かれていた。

「目が覚めたか。まずは安静にしていろ。紗良に骨髄を移植したばかりで、体が弱ってるからな」

時乃は一瞬、耳を疑った。

「......なに、今の......骨髄?」時乃の声は震えていた。

隼人は淡々と告げた。「紗良の足に刺さった破片が骨にまで達してて、移植が必要だったんだ。急だったから、お前のを使わせてもらった。でも心配するな、骨髄はまた再生するし、数年もすれば元通りになるって医者も言ってた」

まるで、何でもないことのように。

時乃の頭が真っ白になった。

「......あなた、まさか......脚の骨髄を......紗良に移植したの?」

「そうだ。でも安心しろ。ちゃんとお前には償う。お前、前から鍋料理を食べに行きたいって言ってたろ?紗良の手術が終わったら、俺がお前を連れてってやるよ。薬膳鍋が好きだったよな?」

それはまるで――施しだった。ご褒美かのように、彼は言った。何かが、時乃の中でぷつりと切れた。

彼女は震える手で隼人の頬を思い切り叩いた。

その音は、病室にいた助手までも思わず固まってしまうほど響き渡った。

隼人様に手を上げた人間を、助手である彼は見たことがなかった。

「勝手に私の体を使って――私だって怪我したのよ!どうして私のものを、紗良に渡すのよ......っ!」

取り乱した時乃の叫びに、隼人は珍しく何も言わず、そっと彼女を抱きしめた。

「触らないで!」

彼女は汚らわしいものに触れるかのように彼を突き飛ばした。

赤くなった目で彼を睨み、拳で何度も彼の胸を叩く。「返して......私の骨髄を返してよぉ......」

骨髄がなければ――もう飛べない。

もう、空を駆ける未来はない。

パイロットとしての道は絶たれたのだ。時乃は壊れたように泣き崩れた。

隼人はそんな彼女を見つめ、初めて......胸の奥に何かが刺さった。

彼女の笑顔が頭をよぎった――あの、太陽みたいな。

「時乃......」喉が詰まり、ようやく言葉を探し始めたそのとき――

病室のドアが勢いよく開き、医師が声をかけてきた。「隼人さん、紗良さんが目を覚まされました」

その言葉を聞いた瞬間、隼人は何の迷いもなく時乃の腕を放し、立ち上がった。

ドアを出る直前、彼は振り返りこう言った。「体を休めておけ。回復したら鍋、食べに行こう」

そして、部屋を出ていった。

残された時乃は、顔を布団に埋め、声を押し殺して泣き崩れた。

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