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第1013話

Author: 龍之介
桜井家の旧宅周辺は朝から賑やかだった。

山助は家の前に提灯を飾ろうとしたが、高い場所に手が届かず、苦戦していた。

ちょうどそこへ、天揚と恵那が訪ねてきた。

「ちょうどよかった、これを掛けてくれ!」

山助は二人に手招きしながら、赤い提灯を渡した。

「おじいちゃん、そんな高いところに登ったら危ないよ!」

天揚は慌てて受け取った。

「だからお前たちを待ってたんだ」

山助はぼやいた。

恵那は冗談めかして言った。

「おじいちゃん、私たちが来るのが遅いって怒ってるの?」

「フン、確かに遅かったな。綿ちゃんなんて、まだ来てないぞ!」

山助がそう言った直後、門のところから綿が荷物を抱えて現れた。

「おじいちゃん、遠くからでもあなたが私の悪口言ってるのが聞こえて、何回もくしゃみ出たよ!」

綿はにっこり笑いながら答えた。

みんな一斉に綿の方を振り向いた。

今日は綿、大きめのコートを着ており、スラリとしたスタイルがより引き立っていた。

恵那はにこりと笑った。

「お姉ちゃん」

綿は眉をひそめた。

「おや、ちゃんと『お姉ちゃん』って呼べるんだ?」

「もちろんだよ、お姉ちゃん!この間の『雪の涙』、本当にすごかったんだから。イベントが終わった後、いろんなトレンドに上がったんだよ!あのとき貸してくれなかったブランドたちは全員後悔してる!」

恵那は口をとがらせ、不満そうに言った。「現実的な人たちだわ」

綿はうなずいた。

「で、主役の役、取れたの?」

「当然よ!っていうか、もともと主役のオファーはあったんだからね」

恵那は綿の荷物を受け取りながら、ふと足を止めた。

「お姉ちゃん、どうしたの?家に入らないの?」

綿は微笑んだ。

「もう少しだけ待つわ」

もうすぐ、待っている人が来る。

彼は電話をかけてきて、「一緒に入ろう」と言ったのだ。

山助はすぐに察した。

「誰かを待ってるのか」

恵那も興味津々だった。

「誰?一緒に来る人って?」

天揚も顔を輝かせた。

「まさか、彼氏できたのか?それはいいな!この数年、お前が家にいなかったから、うちはどこか寂しかったんだぞ」

綿はぎこちない笑みを浮かべた。

山助は鼻を鳴らした。

「お前たち、あまり期待するなよ」

「何言ってるんだよ、綿ちゃんに彼氏できたなら、大歓迎じゃないか!」天揚は興奮気
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