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傾いた天秤

مؤلف: エチカ
last update تاريخ النشر: 2026-07-26 07:45:54

 ケルメスはその青年をアルバと呼んだ。

「種は違いますが、彼が同じ胎から生まれた兄ですよ」

 アルバと呼ばれたその青年は、物珍しい物を見る様にこっちを見ている。

「へぇ……全然似てない。あ、でも耳飾りは似てる」

「彼は母親にそっくりですよ。耳飾りはレプリカでしょう」

「母さんの事、全然覚えてないや」

「お前が生まれて間もなく死にましたから、覚えていなくて当り前です」

 そう言ったケルメスは、気持ち悪い程の笑みを見せる。

 オルタナは今の状況を理解しようと必死に頭を回していたが、考える事を放棄したい感情が邪魔で上手く思考出来ない。

 ただ、アルバはケルメスを“叔父上”と呼んだ。

 母を愛妾として囲っていたのはケルメスだと思っていたが、ケルメスは彼の父親ではない。

 それが何を意味するの

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  • 魔女ドーラの孫(仮)   傾いた天秤

     ケルメスはその青年をアルバと呼んだ。「種は違いますが、彼が同じ胎から生まれた兄ですよ」 アルバと呼ばれたその青年は、物珍しい物を見る様にこっちを見ている。「へぇ……全然似てない。あ、でも耳飾りは似てる」「彼は母親にそっくりですよ。耳飾りはレプリカでしょう」「母さんの事、全然覚えてないや」「お前が生まれて間もなく死にましたから、覚えていなくて当り前です」 そう言ったケルメスは、気持ち悪い程の笑みを見せる。 オルタナは今の状況を理解しようと必死に頭を回していたが、考える事を放棄したい感情が邪魔で上手く思考出来ない。 ただ、アルバはケルメスを“叔父上”と呼んだ。 母を愛妾として囲っていたのはケルメスだと思っていたが、ケルメスは彼の父親ではない。 それが何を意味するのか。 アルバの父親が誰なのか、誰が母を孕ませたのか――。 考えなければならない事がただ溢れてきてしまう。「驚いているようですね、オルタナ」「……そうですね」「彼はアルバと言います。正真正銘、彼はエヴレカの子であり君の弟です」「父親は誰なのですか?」「私が父親だと思いましたか? 残念ながら私は生まれて間もなく去勢されましてね。そう言った事は出来ない体です」 去勢――? この国で去勢が行われていたのはもう随分昔の事だと聞いている。 信じ難い発言だったが、今はそれどころではない。「アルバを見れば分かるでしょう? 見覚えのある顔なのでは?」 オルタナは一番気付きたくない事に、気付いてしまった。 彼がこの祈りの間に入って来た時に感じた既視感――それは、公爵に似ていると言う事だ。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   潜入班

     大聖堂へと連れて行かれるオルタナ達を馬車に乗せ、ケルメスはそちらへ付かせる護衛達に何か指示を出している様だった。 ノチホド ソチラニ ムカイマス ? ケルメスの唇を読みながらアラベルとオブライアンは顔を見合わせる。 潜入できたは良いがまだ何の証拠も手に入れられていない。 公爵から言われているのは種芥子に関する証拠とラカンとの繋がりに関する証拠を押さえる事。 だがこの爺はアステール河を視察すると言う大公妃の最初の目的を果たした後、すぐにオルタナ達を別行動させるつもりらしい。 もう少し一緒に動ける見込みだった所を、早々に窮地に追い込まれてしまった。 王妃とオルタナの安否が分からない状態では、動き辛い事この上ない。 ケルメスは大公妃と大人の話をする為に礼拝堂に行くつもりらしいが、多分そこにはこちらが欲しい情報は何もないだろう。 兎に角、この爺を引き離さなければ動きようがない。「なぁにしてんだい、あんた達」 ひっそりとそう声を掛けて来たのはドーラだった。「……何で分かんだよ」 アラベルは周りに聞こえない様に声を落としてそう答えた。「見りゃ分るわ。私を誰だと思ってんだい」「って言うか、バレちゃいけねぇヤツだわ」「あの爺の脳みそは鳥の糞だからね。気付いちゃいないだろうさ」 相変わらず口が悪い。「そっちのも、えらく懐かしい顔じゃないか」 ドーラは変装しているはずのオブライアンにそう問いかけた。「久しいですね。オピ」「まだ引退してなかったのかい、オブ」「……知り合いなのかよ」「「同胞だ」」 そう言われてアラベルは、あぁなるほど、と納得した。 βの癖に何でも出来ると噂の元王妃の専

  • 魔女ドーラの孫(仮)   新しい王

    「おや、王妃様。貴女もラカン進軍の伝令をお聞きになったでしょう? ケルメス様はラカン進軍を予期されていました。敵襲さえ予期出来ぬ王など、民を危険に晒すだけ。民がどちらを支持するかなど、聞かずとも分かる事でございましょう」 良く喋る。  これは重畳。 オルタナは昂る王妃をもう一度庇う様に、一歩前へと進み出る。「それを僕達に聞かせると言う事は、ここから出す気がないと言う事でしょうか?」「ははっ、出た所で王陛下や特警はモリガンから生きては戻らぬでしょう」「どういう意味です?」「言葉通りですよ。でも心配はいりません。すぐに新しい王がこの国を正しく導いてくれます」 そう言って喋る護衛は覆面の下で卑下た笑い声を吐く。 新しい王――? ケルメスは現王を殺して自分が王位に就くつもりなのか? ここまで来るとこの五人の中にアラベルもオブライアンもいないと考えた方が良いだろう。 やっぱり王妃だけでも逃がすべきだったのか。 逃げる選択をしなかった事が、最悪の結果を招いているように思えた。 次の言葉を探していると、また地鳴りのような音が聞こえて来る。 入って来た石戸の絡繰りが動いている音だ。「あぁ、来られたようです」 喋る護衛の視線が、入口へと向けられた。 ゆっくりと開いた扉の向こうには、ケルメスと若くて体格のいい黒髪の青年が立っている。 誰だ?  何だか、その青年に既視感を覚える――。 そしてオルタナは彼を見て思い当たり、思考が一時停止した。 護衛達はその黒髪の青年に片膝をついて首を垂れ、礼を尽くす。「ダリス、王妃様を連れて出なさい」「え?」「この部屋にその子供は必要ありません」

  • 魔女ドーラの孫(仮)   大聖堂

     ゴトリと大きな音を立てて馬車が止まる。 護衛の一人が扉を開けて降りる様促された。「ここはどこ? 大聖堂へ行くのではなかったの?」 王妃のその問いに、誰も答えようとしない。 顔の見えない護衛達に取り囲まれて、オルタナは思考をフル回転させた。 マズい。  このまま行くと背後に見えている滝壺へと転落させられるか、斬り捨てられた所で誰にも助けて貰えずに息絶えて死ぬだろう。「どういう事ですか? 大司教様は大聖堂へお連れしろと……」 ダリスも同じ様に焦っている様だった。「こちらから大聖堂へ入って頂きます」 護衛の一人が初めて喋った。 彼が差した指の先には、洞に扉を付けた様な入り口が見えている。 正面から入らない所がもう既に怪しい。  だが、ここで暴れたり隙を作って逃げても、こちらはΩが二人もいる上に王妃はドレスを着ている。 走って逃げるにも限界があるし、唯一αであるダリスはまだ杖を突いていて宛てにはならない。 オルタナは苦し紛れに公爵邸を出る時に持たされたハンカチを、護衛に見つからない様に叢へと落とした。 運が良ければ誰かに見つけて貰えるかもしれない。「行こう、ラティ」「オルティ?」「今ここで逃げても成功率は低い」「……分かったわ」「ダリス」「はい」「君の優先順位は僕じゃなくてラチア様だ。絶対、それだけは違えないで」「……かしこまりました」 ナタリスは“サリバン公爵の番”は、公爵との交渉材料になると言っていた。 なら、自分が殺される確率はほんの僅かだが王妃より低く見積もっても良いだろう。 それに、ケルメスは夜会で王陛下に王妃に何かあれば責を負うのはお前だと釘を刺されていた。 殺そうとするだろうか?

  • 魔女ドーラの孫(仮)   人間を辞めた犬

    「その節は、大変ご無礼を……」「ファージ様……」「ナタリス様、及びサリバン公爵の命で数日前よりこちらに」「そ、そうでしたか……」「お前が人間辞めた方ね」「はい、王妃様。私めの事は犬とでも思って頂ければ……」 あの口が悪くて激情家だったダリス・ファージがまるで別人の様だった。 平民平民と見下していたのに、遜って喋る様は違和感しかない。「良いわ。お前の事は許さないけど、お前の飼い主は信用に値する。でも、私の友をもう一度傷つけたら、今度は私が死ぬより辛い罰を与えてあげるわ」 さっきまで王陛下のモリガン進軍の話で心ここに非ずだった王妃が、いつもの調子に戻っていた。「御意」「ラティ……僕はもう、気にしてないよ。ファージ様もナタリス様に色々とお仕置き? されたみたいだし……」「いいえ、オルティが良くても私が許さないわ! αだからと言ってΩを組み敷いて蔑むなんて、人間辞めさせられて当然なんだから!」「ちょ、落ち着いて……ラティ……」 クスニューの森でのダリスを知っているオルタナからしてみたら、覇気のない自分を犬だと言うダリスが可哀想に見えていた。 ナタリスに何をされたかは知らないが、あの短時間でこの従順さと言うのは信じ難い姿でもある。「他の潜入班の人達も、無事に入れたのかな……?」「オルタナ様、お気付きではなかったのですか? さっきのあの場に全員揃っていましたが……」「えっ? さっきって、あの河岸に?」「はい。あぁ、でも一人赤毛の彼だけは、別行動しているはずです」「そうなんだ……」 と言う事はあの覆面を被った護衛の中に、アラベルとオブライアンがいると言う事になる。 もしかしたら付いて来ている五人の中に、どちらかがいるのかもしれない。「これから行く大聖堂では“神の宴”が行われる他、ドラコン

  • 魔女ドーラの孫(仮)   伝令

     祖母が古代語を使う時は誰にも知られてはいけない事を話す時だけ。 冷たい神殿と言うのが何の事かは分からなかった。 けれど、そこに何かがあると言う事なのだろう。 薬草と土の匂いの混じった懐かしい祖母の香りに、ずっとそうしていたくなる名残惜しさを感じた。 オルタナは祖母の腰に回した自分の両手にグッと力を入れた。「良い事をした後は気分が良いですね。ですが、このような穢れた場所に銀の君を長居させる訳にも行きません。後程また時間を取って差し上げますから、移動しましょう」 ケルメスはそう言うと、大公妃を馬車へと促す。 穢れた場所――。 そんな場所でたった一人、瓦礫を集め流木を拾い、まるで奴隷の様な扱いを受けている祖母を目の前にして良くもそんな事を! 良い事だと⁉ 殺そうとしておいてよくも! 祖母を抱きしめた腕が震える。 あの爺だけは絶対に許さない。「すぐ挑発されるんじゃぁないよ、お馬鹿さん」「あいつ、嫌いだ……」「自分より強い相手には、どうするんだった? ん?」「ちゃんと観察……いっぱい喋らす」「そうだよ。出来るだろ? お前は私の自慢の孫だからね」「ん……」 腕を解いた祖母が、頭をワシワシと雑に撫でる。 名残惜しくも祖母の体を離して、馬車へ戻ろうとした所に早馬が駆け込んで来た。「伝令――! 伝令――ッ!」 そう叫んだ馬上の男に、全員が振り返る。「モリガン国境地帯にラカン軍の進軍を確認! 国王陛下指揮の下、国軍が防衛戦に参加するとの事!」「何とっ! 陛下自ら挙兵なさるとは……」 そう零した大

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅳ

     ミレー中尉に至ってはヴィンス・サリバン公爵閣下の番がどうお得なのかを延々と語って来る始末。 結局、番の話は有耶無耶になったが、この日を境にノエルやミレーとも普通に会話出来るようになった。 庭の方から子供の笑い声が聞こえて、オルタナは不思議に思い二階の私室の窓から顔を出す。 広く美しい庭園のガゼボで、ミレーと少女が笑い合っている。 少女は下級貴族の様な質素な装いで、傍には見た事のない中年の髪のない下男らしき男が侍っているが、少女の髪は鴉の濡羽の様な美しい黒髪だ。 あんな黒髪を持つ少女が下級貴族

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅲ

     口に入れた瞬間から、何が入っているのかを考えて、危ないと判断したら吐き出す。 でもそれが遅れれば、体に支障が出る。 どんな薬草で、どういう症状が出るのか。 どの程度なら問題なく食べられる物なのか、常に考えていなければならない。 勿論死ぬほどの量は含まれていないが、祖母はスパルタだったから、吐こうが下そうが、白目をむいて倒れようが容赦なかった。 そうして具合を悪くする度、祖母が作ってくれるのはミルクベリーのスープだった事を思い出す。 母乳に近いと言われる栄養価の高いベリ

  • 魔女ドーラの孫(仮)   アウルム地方 Ⅱ

     そう聞かれて、オルタナはただ全力で左右に首を振って答えた。「こっちを向いて。オル……オーリィ」「へっ?」「怖くない、と言っていただろう?」「ちょ、まっ……」「ぶはっ! ははははははっ……流され過ぎだぞ、オーリィ」 公爵は、我慢ならないと言った風に腰を折って笑う。 解かれた手首には、まだ公爵の熱が残っている。 何が起こっているのか未だに整理が付かないオルタナの脳内は、混乱し熱を持って呆然とするしかなかった。

  • 魔女ドーラの孫(仮)   モリガン区 Ⅱ

     馬なんて王都の貴族か、国軍くらいしか乗らないものだからだ。「逃げるか……」 オルタナは非常時に備えていつも用意してある荷袋を持って、カウンターの後ろに設えてある子供一人が通れるほどの隠し扉を開けて潜り込む。 その出口を知っているのは、祖母と自分だけだ。 なのに、出た瞬間覆い被さる様な人影に、オルタナは動きを止めた。「あ。出て来た」「は?」 四つん這いになって見上げたその先にあった影は、ローブを被った軍人の物だった

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