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日常の中の成長、小さな変化

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-16 04:02:01

政府との騒動から半年が経った。

アリアは二歳の誕生日を迎え、すっかり活発な女の子に成長していた。言葉も流暢になり、複雑な文章も理解できるようになっている。

「ママ、きょうはなにする?」

朝食を食べながら、アリアが期待に満ちた瞳でリリスを見つめる。

「お天気がいいから、お庭で遊びましょうか」

「やったー!」

アリアが手を叩くと、部屋の空気がほんのり暖かくなった。感情と魔力が連動する現象は、成長と共により顕著になっている。

「でも、お約束は覚えてる?」

「おそとでは、ひかりはないしょ」

「そう、とてもお利口さんね」

アリアの魔力制御は着実に上達していた。以前のように無意識に魔法を使うことは減り、意図的にコントロールできるようになっている。

庭に出ると、アリアは花壇に向かって小さく手を振った。すると、花々が少しだけ鮮やかに輝く。

「きれいね、アリア」

「アリアのひかり、やさしい?」

「とても優しいわ。お花たちも喜んでる」

実際、アリアの魔力に触れた植物は、より健康に育っているようだった。枯れかけていた薔薇も、いつの間にか美しい花を咲かせている。

「ママ、あれなあに?」

アリアが空を指差す。空には、見慣れない鳥が飛んでいた。普通の鳥より大きく、羽根が虹色に光っている。

「あれは……魔法の鳥ね」

リリスも初めて見る種類だった。

「どこから来たのかしら」

鳥はゆっくりと舞い降り、アリアの近くに止まった。アリアが手を伸ばすと、鳥は怖がることなく手のひらに止まる。

「やさしい とり」

アリアが優しく撫でると、鳥の羽根がさらに美しく光った。

「この子も、アリアの魔力に引かれて来たのかもしれないわね」

リリスが感心する。

「アリアの力は、生き物を引き寄せる効果もあるようね」

その時、家の門の前に人影が現れた。

「失礼いたします」

現れたのは、見覚えのない老人だった。上品な服装で、どこか学者のような雰囲気を漂わせている。

「どちら様でしょうか?」

リリスが警戒しながら尋ねる。政府の件以来、訪問者には慎重になっていた。

「私はマーカス・エルドリッチと申します。魔法生物学の研究者です」

老人が丁寧にお辞儀する。

「お嬢様の噂を聞いて、お会いしたくて参りました」

「噂?」

「はい。『光の天使』と呼ばれている、特別なお子様のことです」

老人の視線がアリアに向けられた。アリアは母親の後ろに隠れな
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