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3話

Author: 東雲桃矢
last update Petsa ng paglalathala: 2026-08-06 13:17:14

「綺麗だ……」

 蒼斗の言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。

「な、なにを……、言ってるの……?」

「でしょー? ね、蒼斗くん。地味で不幸顔なお姉ちゃんとじゃなくて、私と結婚しない?」

 舞花はにっこり笑い、ドレスの裾をつまんでくるりと回って見せる。

「それがいい。まだマスコミには、ふたりが結婚すると言ってない。招待客には、印字ミスだと言えばいい」

「そうね、そうしましょう」

「えぇ、そうですね。僕としても、舞花ちゃんのほうが」

 トントン拍子に話が進む。言葉は理解できるが、意味が理解できない。彼らが話しているのは、本当に日本語なのだろうか? 同じ日本人なのだろうか? 常識があまりにも違いすぎて、思考が追いつかない。

「待って! これは私と蒼斗さんの……」

「うるせぇ、ブス」

「え……?」

 蔑む目と刃のような言葉が、ヒカリに突き刺さる。

「お前なんかよりも、舞花ちゃんを選ぶに決まってんだろ」

 ショックで言葉も出ない。今まで舞花に恋人を奪われたことは、何度もある。だが、よりによってこのタイミングで奪われるなんて……。

「何被害者ぶってんだよ。夢を見せてやったんだ、感謝してほしいくらいだね」

「ホントよね。お姉ちゃんみたいなのが、蒼斗くんと結婚できるわけないじゃーん」

(どうして、いつもこうなの……?)

 あまりにも惨めで、涙が零れる。ここで泣いたら負けだと頭では分かっているのに、涙が溢れて止まらない。

『舞花ちゃんは確かに派手で可愛いけど、俺はヒカリさんのような、素朴な美人のほうが好きだな。それに、ヒカリさんは優しいし』

 告白された時、舞花の方がいいんじゃないかと聞き返したら、蒼斗はそう言ってくれた。それが嬉しくて、彼との交際を始め、結婚しようと思ったのだ。

『一生大事にする。ふたりで幸せになろう』

 緊張で顔を真っ赤にしながら、プロポーズをしてくれた蒼斗の姿が脳裏に浮かぶ。あの照れや緊張は、演技じゃなかった。だから嬉しかったし、彼と結婚しても大丈夫だと思えた。それなのに……。

(あの言葉は、嘘だったの……?)

「お姉ちゃん、ここでドレスでもレンタルしたら? 私が着てきたドレス着られても、不幸移りそうだし、キモいし」

「悲劇のヒロインが着たドレスなんか、誰が着たがるんだよ。そう考えると、このウエディングドレスも舞花ちゃんに着てもらって幸せかもな」

 蒼斗はヒカリのコンプレックスを抉るような言葉を選び、嘲笑う。

 かつてヒカリは、清純派ヒロインとして知られ、ドラマも映画もメインヒロインを演じることが多かった。だが、最近はパートナーと死別したり、奪われたり、片想いで終わる噛ませ犬のような役が多く、世間では悲劇のヒロインと言われていた。以前蒼斗には、それがコンプレックスだと話したことがある。

 蒼斗はその話を聞いて、『世間がなんと言おうが、君は俺のヒロインだよ』と言ってくれた。歯の浮くようなセリフだとは思ったが、嬉しかった。

 目の前にいる蒼斗と、記憶の中の蒼斗が一致しない。

「式に参加しろって言うの? 嫌よ、そんなの……」

 拓也は舌打ちをし、ヒカリの胸ぐらを掴んだ。

「まだ殴られ足りないのか? 妹の結婚を祝福できないなんて、お前はどこまで心が狭いんだ」

(私の結婚は、祝福するどころか、壊したくせに……)

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