Masuk第六話
「朱莉、片腕無くしたぐらいで動き止めたら死んでまうで! 死にとうないならもっと我慢せなアカンで」 僕はアイツに教えられた感覚を鈍らせる補助魔法を利根島さんに使用した。 「ありがとう風香ちゃん、これでもっと動けるよ!」 まだ連想ゲームみたいにするのに時間はかかるけど、回復魔法の練習の時よりは上手く出来る感覚はある。 香澄さんの実戦形式の訓練は容赦のかけらもなかった。 だけどそのおかげで、僕の恐怖は増えている。 恐怖が増えているということはまだ利根島さんと人間として暮らせるってことを意味する。 香澄さんなりの優しさなのだろうか? 「笑っとる場合ちゃうで風香!! アンタらその程度でホンマにあの魔物を成仏させたんか?」 この煽りは乗っても良いやつだよね。 ある程度恐怖も増えたし、心霊魔法を使おう。 「風香ちゃん、私も合わせるよ!」 「頼んだよ朱莉!」 朱莉の呪術で香澄さんの動きを鈍らせ僕の心霊魔法で攻撃する。 これなら少しぐらい香澄さんにダメージが与えられるはず! 命中した香澄さんは無傷で笑って立っていた。 「いや〜今のはちょいと驚いたわ。ええコンビネーションやったで」 もう驚くのも疲れてきた。 「だよね風香ちゃん。私たちが目指す目標としては驚いていられない……でしょ」 「朱莉の言うとおりだよ。だから僕は全力で立ち向かう」 僕が魔を取り入れて全力で攻撃する。 だから利根島さんはさっきみたいに合わせてほしい。 「任せてよ風香ちゃん!!」 僕は自らに補助魔法をかけ痛覚を鈍らせた上で魔を取り入れた。 「溜まったっ!!」 僕の合図と共に利根島さんは呪術の本で香澄さんの動きを鈍らせた。 「安心しぃや、避けへんから」 「「それなら遠慮なく、いかせてもらいます!!」」 僕と朱莉の攻撃は香澄さんにダメージを与えることが出来た。 全力の攻撃で左腕欠損させることしか出来なかった。 今回の訓練で僕と利根島さんは正式な魔葬少女の高さの片鱗を思い知ることになった。 香澄さんは欠損を秒で再生させた。 やはりなったばかりの僕と正式な魔葬少女では回復魔法一つとっても距離がありすぎる。 「二人ともなったばっかやって思えへんほどええで、ホンマ……ウチらがなったばっかの時よりええんやないか? 荒削りな部分はあるのはしゃあないけど良かったで」 訓練が終わって少し経ってアイツが僕と利根島さんを呼び出した。 「香澄との訓練の様子で二人にはそろそろ雛同士の顔合わせをしてもいい頃合いだと判断した。明後日には会ってもらうよう向こうの奴に交渉する。明日は休息時間にする。デートなりなんなりしていろ」 こいつから次にいつ休息時間と言われるか分からないのだから明日はゆっくり休むとするかな。 「私、風香ちゃんの家に遊びに行きたいですっ!」 いつかは言われるだろうと予測していた利根島さんのこの提案を僕は快く受け入れた。 だがこの時の僕たちには分かっていなかった。 雛たちの顔合わせの意味を。 そして場面は交渉を終わらせた後の顔合わせ予定の雛たちに切り替わる。 「ほんと何なのよ、突然顔合わせとかさ。何考えてんの?」 コンビ組まされた相手が変な奴なのは百歩譲っていいとして 「たしかアンタ契約霊っていうんだったわよね。契約霊はみんな元魔物とか言ってたけど、それなら魔物の姿ってどうやって決まるのか教えなさいよ」 この私に隠し事なんてさせないんだから! 「魔物の姿なんて簡単だよ。魔物になる前の未練みたいなものだよ。あたしの場合はワンちゃんみたいに可愛がられたいだったからこんな姿なんだよ〜、可愛いでしょ」 「可愛いわよ。でもアンタ相手にもその姿を要求して殺してたじゃない」 「あたしはみんなを可愛くしたい気持ちが強いんだよ」 「物はいいようよね」 未練って言われても私には思いつかないわね。 「ねえ、美月は私の未練ってなんだと思うのよ」 私は変な相方の松島美月(まつしまみつき)に聞きましたの、答えが返ってくるとは思っていませんでしたが。 「葵の未練なんて私が想像出来るわけないでしょ、私の真逆みたいな人間なのに」 「アンタに聞いた私が馬鹿だったわ。……そういえば美月には未練とかあるの?」 少しでも相方の美月のことを知っておきたい、その気持ちは私にだってありますわよ、当然ね。 美月の未練は私にとっては意外とそう思うものでした。 「私の未練は人間らしく扱ってほしい。それだけだね。道具じゃなく人間みたいにお話したり、遊んだりしてみたい」 「なんか意外ね。私からすれば美月は変な奴って思ってますけど、可愛らしい人間の女の子じゃないですか。まあ私に比べれば天と地ほどかも知れませんがね」 私の未練は素直になりたい、なのかも知れませんね。 今までは誤魔化すために高飛車で通してきましたけれど、魔法を使っていて思いますの……幸せってなんなんですの? 魔葬少女になる前までは私の人生は幸せに満ちていました。 ですが、母上が惨殺され契約霊のミコトに出会った三ヶ月前のあの夜から私の人生は狂い始めました。 説明しなくともわかると思いますが、主に悪い方向へです。 契約すれば母上を惨殺した相手に復讐出来るとミコトに言われ契約をしましたが、一向に出会える気配すらしません。 「本当、私の人生の意味ってなんなのでしょうね。美月もそう思いませんか?」 「私に聞かれても、良い答えは渡せないよ」 なんだか最近思うのですが、美月の口数が増えているのです! 昨日まで一言話せば良い方だったのですけれど……せっかくですから、もっと色々と話したいですわね。 「ねえ、美月の好きな食べ物って何かしら?」 「どうしたの急に?」 「友情を深めておけば連携が取れやすくなるでしょう? まっ、まあこれもコンビとして戦いを有利に進めるため仕方のないことですから」 「そうなの? 強いて言うなら肉かな?」 「何故疑問形ですの!! せっかく私が聞いてあげたというのに……ですがお肉ですか、分かりました。私は断然お肉よりはブロッコリーですわね! あのしゃきしゃきの歯応えにフサのモサモサの可愛さときましたら、一言でいうなら"愛い"ですわね」 「そうなんだ」 「反応が薄いですわよ!」 「あのさぁ二人とも仲がいいのは良いことなんだけど、仲良くしすぎたら失った時キツくない? 適度な距離感も大切だと思うなぁ」 「なななな仲がいいですって、わわ私と美月がですか!? そんなわけないでしょ、そもそも友達ですらないですよ、知り合いレベルですわよ……今はまだ」 「それなら良いんだ。大切な雛が死んじゃうのを見るとあたしも悲しいからね」 私の前任の雛をお腹が空いたとかしょうもない理由で食い殺してアンタに悲しいとは言われたくないわよそんなこと。 「そうだった、明後日顔合わせ予定の雛たちの紹介をしなきゃだよね。忘れてたよ」 私と美月は顔合わせ予定の秋口風香、利根島朱莉についての説明を受けた。 「案外まともそうね、この子達」 「そうだね。でも距離感が恋人みたいでちょっとどう接したらいいのか分からなくて苦手かも」 「何言ってるのよ美月、今の私と同じように接すればいいのよ。大船に乗ったつもりで私に任せなさいよ!」 「いいの?」 心配そうに見つめる美月を安心させるために私は声を張り上げて叫んだ。 「あったりまえよ、この私を誰だと思ってるの? 霜月財閥の一人娘である霜月葵(しもつきあおい)よ!」閑話その27風香の成長は著しく、私の想定を超える程だ。だが、想定を超えると言っても赤子が掴み立ちをせずに立った程度だ。過去の被験体にも愉悦に浸ることのできる個体はいたが、ここまで魔法創作に長けていたのは久しく見ていない。魔葬少女としては及第点にすら届いていないのは確かだが、絶望の可能性には合格を与えたいとさえ感じる。叶わないと知りながらも、希望を絶やさずもがく様が特に私の嗜好なのだよ!命を軽々と渡そうとする浅霧のようなものは、退屈極まりない。飼い始めたばかりのペット程度に愛着が湧いていたからこそ、至高の愉悦に浸らせてくれるかと期待もしたものだが……やはりペットはペット期待はずれも甚だしい結果となってしまった。だからこそ自ら作り上げる絶望により価値を見出すことが出来たのだから感謝しなくては。「それでは質問を続けようか、貴様は何故私を退屈させるのだ」「とっ、咎様次こそは成果を上げて見せます! ですから命ばかりは!!」「……何を勘違いしている。命をそう易々と奪うわけがないであろう。大切な部下(玩具)なのだから」「あっ、ありがとうございます!!」「それではまず、これに耐えて見せてくれ。先日出来の良いものが届いたのでな、試したいのだ」拷問用として作られたもののようだが、たまにはいつもと嗜好を変えてみるのもありだと思ったのだが、この玩具は甲高く耳障りな音ばかり発する。だが、その表情は唆られるものがある。「……咎様、なんの冗談ですか? こんなの無理です、それ以外ならなんでも、そうなんでも致しますからそれだけは嫌だ!!」「そうか、それ以外ならなんでもするのだな。ちょうど他にも試したいものがあったのだよ」私が実物を見せるなりこの玩具は身体を震え逃げ始めた。「何を逃げようとしているのだ。そろそろ理解しろ、貴様は私の玩具なのだ。貴様とて存じているだろう逃げた者がどうなるのか……なぁ」「…………」もはや言葉すら発せられぬか、それならこうすれば良い。私は玩具の大切な人間を連れてきた。玩具は人間を視界に入れるなり、私に唆られるほどの怨みの眼を向けてきた。「さっきよりも胸の高鳴りを感じるぞ! それではまず一本目」人間の腕をへし折りもいだ。血飛沫を上げながら小鳥の囀りのような安心感の漂う音を奏でてくれたのだ。バキ「あぁぁあぁぁああぁ!!」
第八十九話吾野蔵公園を乗り越えて僕は朱莉と世界に向かうんだ。咎を殺さないといけないのは、同然として……最優先目標は朱莉の尊厳を壊した香取雛を殺すことだ。今の状態だと咎には爪すら届かない状態にしかされない。あの時の香取雛には確実に遊ばれているだけだが、遊びの状態では香取雛より咎の方が僕には恐ろしかった。可能性も含めるのなら咎よりも香取雛を狙うのが必然だ。そのためならばこの朱莉への恐怖を上手く利用してやる。「風香ちゃん、心の声と行動のギャップ凄いよ」ぷにぷに「しっ、仕方ないよ。朱莉の魅力にえないんだもん」公園が目の前だからか、もう少し気持ちを落ち着かせたい僕がいる。「ほんと風香ちゃんがここまで素直になってくれて私、嬉しいよ。やり返しちゃうんだから、えい、えいえい」ぷにぷにぷに「もう朱莉~、触りすぎだよ」僕は思わず警戒を緩めてしまい、そのせいで反応が遅れてしまった。「……っぶない!!」「ありゃりゃ、これギリギリでも避けちゃう? 残念無念そんな怨念はどこにおんねん……いやぁ寒いねぇ。もう冬かな?」「風香ちゃん、痛み飛ばすから!」「これくらいなら大丈夫だよ朱莉、安心して」「聞こえてないってか、せめて反応してほしいねぇ!!」「聞こえてないわけじゃないけど、つまんないから反応してないだけだ」「素直なのは良いことだなっ!」この女はさらに魔法を畳み掛けてきた。この女の魔法、速度自体は避けられないわけではない。そこが唯一救いなのだが、威力の高さもさることながら接触箇所が捩じ切られてしまうのがさらに拍車をかけて女の強さを納得せざるおえなかった。「さあさあこれならどうかなぁ~?」女の魔法が次々と僕の身体を捩じ切る中、ある準備を進めていた。それは甘い魔法の開発だ。普段は失う恐怖を使用して魔法を作り発動させるが、今回は朱莉への抗えない魅力という名の恐怖を利用するのだ。新しい試みというものも今後は必要となってくる。そのためには朱莉への欲望を吐け出し利用する。あぁ、ダメかも顔のニヤケが止まらない。「おい、何ニヤケてんだよ。お前の状況分かってんのか?」「分かっているとも、だからこそ笑ってるだよ! 僕には希望が存在し続けているとその証明のためにだ!!」『風香ちゃん、カッコつけて恥ずかしいこと言ってない? 嬉しいけどなんか嫌だ』『そ
第八十八話僕はアルバムを置いた場所を思い出していると、全く別のことを思い出してしまった。『引っ越しても絶対に風香ちゃんのこと忘れないからね! 絶対……絶対にまた遊ぼうね!』『うん、絶対に遊ぼうね! 〇〇ちゃん!!』 思い出したはいいものの、顔や名前に軽いモヤがかかっているのが分かる。彼女の乗っている車に反射している私を見るに幼少期の思い出なんだろうけど、今はまだ分からないのがもどかしい。幼少期の思い出を少し思い出したというのは大きな進歩だということに違いない。引っ越した友人がいたというのなら、アルバムにもしかしたら載っている可能性もある。僕自身を知ることが咎にも……母さんにも繋がるのだから、妥協している暇はない。「朱莉、僕が物を触っている記憶を読めないかな?」「了解、私に任せてよ風香ちゃん!!」神妙な面持ちで僕の記憶を辿っている朱莉にトキメキを感じていた。「見つけたよ!! あのタンスの二段目の…………わっ、私の写真の下にあるよ。風香ちゃん、そんなに私の写真印刷してたんだね。恥ずかしくなっちゃうよ」「どこにいても朱莉を感じてたかったからっていうのもあるけど、魔法を使う時に役に立てようと思ってね。ごめん、こんな使い方して」朱莉は疑問符を浮かべながら僕に質問してきた。「あのさ風香ちゃん、今更になるんだけど私たちの使ってる感情って愛と恐怖だよね。ものすごくふわっとしてないかな?」「急にどうしたの?」「いやね、風香ちゃんの記憶見てて思ったんだけど、愛にしても恐怖にしても感じ方で強くなるんじゃないかなって」「たとえば、どんな感じ?」「私は基本的に風香ちゃんへの愛なのは知ってるでしょ、風香ちゃんは私を失う恐怖を基本的に使ってる。恐怖を使う風香ちゃんでもお義母さんの時は私を落としちゃうぐらい動揺して魔法すら使えなかった」確かにそうだ、あまり疑問に思っていなかったけど、感情の種類……というか感じ方で魔法は変わるのかもしれない。恐怖にしても、母さんに朱莉を紹介出来ないと感じた時や母さんを失うと感じた時は発動すらしなかった。朱莉を失った時は普段以上に魔法を発動することが出来た。だけど、一般人となるとそこまでの威力にはなっていない。けれど魔法を発動する材料として……今もこの録音を残している。「だよね、風香ちゃん。風香ちゃんが自分を知ること
閑話その26「そんじゃあ、自己紹介からだな。私は三浦華だ。まあゆっくり教えていくから……だらけて聞いてくれ」これでも私は魔女会で講師を務めている。教えているのは第二条件だ。感情を増やす方法の増築を教えるのが、私のここでの仕事だ。「えーまず第一に、なんでもいいから趣味を増やせ」「あの先生、流石にそれは雑すぎませんか。魔法には私たちの命だって関わっているのですよ」「知ってるよ、だから趣味増やせって言ってんの。例えば食べることが趣味の少女がいたとしようじゃないか、食べ続けて運動をしなければどうなるかぐらいは想像出来るな」「はい、それは当然出来ますが……」「それで散歩が趣味として加わるとしよう、そうすれば運動でもストレスを発散することができるだろ」「ええ、それはまあ……ですが、運動の趣味に目覚めたとして食への関心が減ることも想定出来るのではないですか?」「そりゃあそうだ、その可能性だって当然ある。だが生きている以上私は美味しいものはいくらでも食べたいに決まってる」「私はって……本当にこの人が講師でいいのかな」生徒たちがすんごい不安がってんなぁ、まあ良いか最初だらけて聞けって言ってんだし。「それに幸せが一つあるだけでも人生を豊かにはするだろ、単純に考えれば増やせばより豊かになる……まあ増やしすぎて手が回らないなんてこともザラにあるがな」この顔、すんげぇ引いてんな。「みんな帰ろう、こんな人から聞いても良いことないよ」「帰るのは待て」私は教室を隔離の異空間へ転移させ生徒たちの逃げ場をなくした。「先生何をするのですか!!」「ここで帰して死なれても寝覚めが悪いんだよこっちだってな。それにお前らだって漫画やらなんやら色々読むんだろ」「……えぇ、それは読みますが、今関係ありますかそれ?」「あるに決まってんだろ。お前は何を読むんだ今すぐ教えろ」「何故ですか」「これは第二条件にも関係があるからだ。今から一方的に話すからだらけてろ。漫画の読むジャンルを増やすこと、それもすなわち感情を増やす方法の増築になる。ギャグ漫画とバトル漫画で得る感情が違うだろ。特にシリアスバトル漫画とかだと顕著だな。たとえばシリアスバトル漫画でギャグ漫画展開をするとしよう。前提として面白ければ私は構わないんだぞ。シリアスバトル漫画で突然ギャグをされてもいやこ
第八十七話まず探すことにしたのは、僕の部屋だ。「風香ちゃんはどこにアルバム置いたとか覚えたりする? 私はねぇ、アルバムとかって結構置いた場所忘れるんだよね、あはは」「それならその時は僕も一緒に探そうかな?」顔をものすごく近づけながら喜ぶ朱莉に多少の戸惑いを出しつつ僕たちはアルバムを探し始めた。「見てみて風香ちゃん、私の名前が書いてあるノート見つけたよ!」セミを捕まえて親に見せる子供みたいな無邪気な笑顔で持ってきたものを見て僕は思わずむせた。「……あっ、朱莉ななななんでそれを見つけたの!?」そうそれは、僕が朱莉への想いを書き殴ったポエムみたいなものであり、欲望がダダ漏れのノートだ。正直言って黒歴史にしたいレベルに書いてるから……本人にだけは見られたくなかった代物なんだ!!「あっ、朱莉~そのノートを今すぐに渡してほしいなぁ……というか渡して!!」「そんなに言われたら中身が、気になっちゃうな~」「というか心を読んだんだから分かってるでしょ!! 恥ずかしいから返して!」「えっ、やだ。だって風香ちゃんの全部知りたいもん、私」即答する朱莉を見て……かっこいいと思ってしまった僕がいるんだ。「朱莉、読んで良いよ」真剣な顔で滑らせている朱莉の瞳に、引かれないか不安になりながら気持ちを紛らわすためにアルバム探しを再開させた。心を読まれるのと本音を見られるのは、僕にとって似て非なるものなんだ。パタンとノートを閉じる音に身体が反応してしまった。「言いづらいのは分かるけどこういうのはやっぱり伝えてほしいな。なんか私が応えないって思われてそうでちょっと悲しいよ」あれだけ信じてくれてないと感じるのが悲しいとか朱莉にのたまった僕が、朱莉を信じきれていないなんて悪い冗談にもほどがあるだろうが。「ねえ風香ちゃん、この『僕には朱莉がいればいい朱莉さえいてくれれば元の生活になんて戻れなくてもいい。朱莉に触れたい朱莉に会いたい…………』これって本気?」これ……やっぱり引かれるやつだ。書くんじゃなかった、朱莉に嫌われるぐらいなら死んだ方がマシだ。「私は本気かどうか聞いてるの、答えて」「本気だよ。引くでしょこんな……気持ち悪いこと書いてる僕なんて」「引くわけないでしょ、触れたいならいつでも触れて良いし会いたいなら今すぐにでも一緒に住めばいい。だから死んだ方が
第八十六話今の僕たちだと届かない以前の問題だ。蹂躙されて終わるのが関の山というやつになってしまう。だけど、今回は咎により痛覚増幅魔法を覚えることができた。魔物の成仏には再生出来ないほど痛めつければ良い。ならばこの魔法を使えれば葬りやすくなる、香取雛を殺しやすくなったと捉えればこれほど喜ばしいことはない。……ダメだな、僕じゃなくなってきてる。このままだと朱莉にまた秋口さんと呼ばれてしまう。……そういえば、僕がこうなる理由を考えてみれば避けようがあるのではないだろうか?僕が考え始めた時に朱莉の意識が戻った。「……朱莉、おはよう」本当はこんな状態でおはようなんて言いたくはなかったな。「……おはよう、風香ちゃん」ジトっとした瞳で見つめてくる朱莉に求愛時に瞳の色が変化するオウギワシみたく興奮を覚えながらも平静を保っている僕を褒めてほしいぐらいだ。いや突然どうしたんだって話になるだろうと僕もそう思う。しかしだな、この可愛さには抗えないのだよ!もはやあの時と同じだとは思わない、なぜならばあの時は朱莉の可愛さではなく絶望を見ていたからだ。朱莉の絶望は正直カレーに入れた隠し味なのに隠しきれないほど濃厚な味わいを僕に与え彩りをくれるものだ。しかしだ、それは朱莉のこの可愛さがあってこその味わいというものだ「本当に可愛いよ朱莉、その表情をめちゃくちゃにしたい」無意識に口角が上がっていることを理解出来てしまうことに嫌気がさしてしまう。「風香ちゃん、良い方に考えてみようよ。前は絶望のことばかり絶望の表情ばかり考えたのに私のことを考えてくれるようになったんだよ」齧り付きたくなるほど熟したトマト色に染め上げられた朱莉を見ていると無性に襲いたくなってしまう。「そんな目を向けてくれるのも嬉しいけど、もう少しだけ獲物を見るような目は抑えてほしいかも。いつもみたいな好きな人を見るような目にしてほしいな、その方が私は嬉しいな」朱莉が獲物か、あながち間違いじゃないのかもしれないな。「……って何考えてんの僕!?」今の何なの、思考はおかしくなった時に似てるのに、なんか変態みたいなこと考えてなかった!?「ああああ朱莉、今のは忘れてほんとに……ほんっっっとうに忘れて!!」もしかしておかしくなるのにパターンでもあるの!……でっ、でもさっきみたいな方がもしかして







