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日常への回帰

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-10-10 17:06:23

WAU設立から二週間が経った。

オブシディアン基地は急速に拡張され、今では立派な町のような規模になっていた。

新しい建物が次々と建てられ、世界中から異常演算者たちが集まってくる。

しかし、その喧騒の中で――

12人は、ある重要な決断を下そうとしていた。

「みんな、本当にいいのか?」

ルーク司令官が確認する。

「学院に戻るって……」

「はい」

クロが頷く。

「俺たち、まだ学生ですから」

会議室には、12人とルーク、エリスが集まっていた。

「でも、WAUの代表評議会は?」

エリスが心配そうに聞く。

「学業と両立できるの?」

「大丈夫です」

ジンが冷静に答える。

「重要な決定は、週末に基地に戻って行います」

「平日は学院で普通の学生として過ごす」

「それが、僕たちの望みです」

12人の意志は固かった。

確かに、世界を変える大きな役割を担っている。

しかし、それでも彼らは10代の若者。

普通の学生生活も送りたかった。

「わかった」

ルークが微笑む。

「君たちの気持ちを尊重しよう」

「ただし、何かあったらすぐに連絡してくれ」

「もちろんです」

クロが感謝を込めて答える。

「ルークさんたちのおかげで、ここまで来られました」

「これからも、よろしくお願いします」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌日、12人はセントレア魔術学院に戻ってきた。

久しぶりに見る学院の門。

約一ヶ月ぶりの帰還だった。

「懐かしいな……」

カイが感慨深げに呟く。

「まだ一ヶ月しか経ってないのに、ずいぶん遠い昔みたいだ」

「本当ね」

ミナも同意する。

「色々ありすぎて……」

校門をくぐると、多くの生徒たちが驚いた顔で見ていた。

「あれ、クロたちじゃない?」

「本当だ!戻ってきた!」

「生きてたんだ!」

噂は既に学院中に広まっていたようだった。

政府軍との戦い、アビス機関との対決。

そして、WAUの設立。

すべてがニュースになり、世界中に報道されていた。

「クロ・アーカディア!」

大きな声が響いた。

振り返ると、トウヤ先生が駆けてきていた。

「先生!」

「お前ら、無事だったか!」

トウヤが12人を見回す。

「ニュースで見たぞ。政府軍と戦ったって」

「はい……色々ありました」

クロが苦笑いする。

「心配かけてすみません」

「心配したぞ、本当に」

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