Mag-log in「──さあ、注目ッ! 本日より、総合演算実技の本戦が開始されるッ!」
甲高い放送がアリーナ全体に響く。 観客席には、教師陣に加え、上級生たちや外部関係者──さらに国家直属の魔導騎士団からも、数名の騎士団長クラスが視察に訪れていた。 演習の実力次第では、将来の推薦やスカウトにも繋がる一大イベント。空気は自然と引き締まり、ざわめきに熱気が混じる。 「出場するのは、1年生全4クラス! 各クラスから三チームずつ──合計で十二チームが参戦するッ!」 「まずは予選バトル! 全チームを四チームずつ、三つのブロックに分ける。そして──」 「各ブロックで行うのはロイヤルバトル形式! 全チーム入り乱れての生き残り戦だ!」 「勝ち残れるのは、各ブロックで最後まで残った一チーム──生き残った三チームだけが、決勝戦へと進むッ!」 場内では歓声、緊張、期待──熱を帯びた視線が、戦場に立つ生徒たちに向けられる。 その中心のひとつに、彼の姿があった。 クロ・アーカディアは、仲間たちとともに転送陣の前に立っていた。 制服の袖をまくり、右腕に装着された雷紋のブレイサーを一瞥する。 ……大丈夫だ。前より、ずっと長く戦える。 「ちゃんと使えよ、自分だけの武器」 少し離れた場所から、担任のトウヤが気だるげに声をかけてきた。 「……5%くらいはマシになったからな。せいぜい、壊すなよ」 「はい。壊さない程度に暴れてきます」 クロが笑って拳を握ると、ブレイサーが微かに光を放った。 「第2ブロック、転送開始!」 瞬間、視界が揺れ──クロたちは演習フィールドの東部、岩場に配置される。 同時に、他3チームも別地点へ。 ・紅牙(こうが)チーム:猛獣型の獣化演算を駆使する肉弾戦集団。 ・翠嵐(すいらん)チーム:風属性の俊敏さで撹乱し、連携に優れたバランス型。 ・白鋼(はくこう)チーム:鉄壁の守りと布陣を武器にする防御特化チーム。 どれも、油断ならない。 「サクラ、敵は?」 クロが問うと、少し離れた位置で風の紋章を描いていたサクラが応えた。 「……索敵完了。北に紅牙、南に白鋼、西に翠嵐──全方位、囲まれてます!」 即座に、フィアが全体の戦況を整理し、チームに向けて声を飛ばす。 「布陣取るわよ。カイとは前線突破、レインは中央で守りと妨害。私はサクラと一緒に右翼から展開する。クロとミナは左翼で反撃に備えて。」 「了解。ブレイサー、だいぶ慣れてきた」 「なら、信じる」 フィアが短く頷いた。数週間前とは違う、互いの信頼がそこにある。 ──足音。振動。殺気。 岩場の地形を突き破るように、紅牙チームの咆哮が響く 「っし、来やがったな!」 カイが飛び出す。その瞬間── 「熱式・昇炎牙ッ!」 紅牙のリーダーが地を蹴り、腕を獣のように変化させて迫る。まさに獣の突撃。 「ゼロ、演算いけるか?」 《演算安定率92%。戦闘時間、5分以上継続可能》 「よし……雷式・鎖撃(チェイン・ショット)!」 クロが手を振ると、雷光が鎖のように迸り、獣の突進を牽制する! 「面白れぇのが混じってんな……!」 紅牙の男が笑いながら距離を詰めてくる。 だが──クロの目は、前より冷静だった。 岩肌に雷光が跳ねる。クロの放った鎖雷が、獣化した男の動きを封じた瞬間── 「熱いのはこっちも同じだっつーの!」 ミナの火焔弾が横から襲いかかる。炎と雷が交錯し、爆音が岩場を揺らす。 「クロ、あと何発撃てる!?」 「あと4発は……いける」 「よし、こっちは冷却時間さえ稼げればまだ燃やせるよ!」 「なら、間に合う!」 ミナがクロの前に出て、火焔を纏った回転蹴りで突撃してきた紅牙のサブメンバーを吹き飛ばす。 「道開けたよ! 次、あんたの番!」 クロは頷き、深く息を吸った。 「閃雷刃──!」 雷が形を成し、剣のように伸びて敵を切り裂いた。雷撃の刀身は瞬時に分裂し、周囲の2体を巻き込む。 「やるじゃん、クロ!」 「お前が燃やしたおかげだ」 2人の連携は思いのほか機能していた。 一方、右翼側では── 「氷晶結界、展開。サクラ、後方支援お願い」 「はい、氷を通す風の流れを変えます!」 フィアとサクラの連携も、静かだが的確だった。 翠嵐チームの風術士が高速で切り込んでくるが、フィアの氷壁で加速を削ぎ、サクラの風流で軌道を逸らされていた。 「……よく見えてるのね、サクラ」 「まだまだです。でも、私も変わりたいから」 少女の瞳に宿る意志に、フィアはかすかに微笑む。 「じゃあ、次は一緒にいきましょう。 氷式・穿晶矢(せんしょうし)」 フィアが放った氷矢が、風術士の腕を正確に撃ち抜いた。 中央── 「……敵、白鋼チーム、接近」 レインの報告がチームに響く。防壁を複数展開しながら、白鋼チームがじりじりと迫っていた。 「いかにも重そうだな。お前、止められるか?」 カイが肩を鳴らす。 「……試す」 レインが地面を叩くようにして言う。 「土式・断層杭(だんそうくい)」 地面から伸びた岩杭が、白鋼チームの前進を遮る。しかし、鉄壁の盾魔術がそれを難なく弾いた。 「……強いな」 「なら、俺も出る! 燃えてきたぜぇッ!」 カイが突撃するその瞬間、上空から突風。 翠嵐チームの別部隊が、機を見て空から奇襲してきたのだ。 「上か!?」 ミナが振り向くも、クロが叫ぶ。 「ミナ、伏せろ!」 雷の稲妻が上空を走り、飛来する風使いを撃ち落とす。 「こいつら……連携してきてる!?」 バラバラだった3チームが、徐々に動きを合わせてきていた。 「やばいねこれ。俺ら、狙われてるじゃん」 「……正面からの強さだけじゃ、目立つってことか」 クロが息をついた時だった。 《警告:残演算時間、あと2分30秒──》 ゼロの声が静かに告げる。 クロは拳を握り直した。 (ここで終わるわけには──いかねぇ) 次の瞬間、白鋼のリーダーが巨大な盾を振り上げ、前線を崩すように突進してきた。 「全員、再編成! ここが正念場よ!」 フィアの叫びが戦場に響く。それから五年が経った。《ニューエラ・アカデミー》は、世界中に20の分校を持つまでに成長していた。卒業生は5000人を超え、彼らは社会の様々な場所で活躍している。異常演算者への差別は完全に消え、共存が当たり前の世界になっていた。そして――クロとサクラには、4歳になる娘がいた。名前は、アイリ。風属性の魔術を使える、元気な女の子だった。「パパ、見て!」アイリが小さな風の渦を作る。「おお、すごいな」クロが褒める。「上手になったな」「ママが教えてくれたの」アイリが誇らしげに言う。サクラが微笑む。「この子、才能あるわ」「そうだな」クロも嬉しそうだ。二人の家は、アカデミーの近くにあった。毎日、教師として働き、夜は家族と過ごす。そんな平和な日々が続いていた。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ある休日、12人全員が集まることになった。場所は、最初に約束の海に来たビーチ。「久しぶりだな、みんな」クロが仲間たちに声をかける。「ああ、久しぶり」カイが笑う。ジンも微笑んでいる。「みんな、元気そうだな」ミナとフィアは、親友同士で話している。「最近、忙しくてさ」「わかるわ。私も」レイン、レオ、リア、マルクも談笑している。「久しぶりの休みだ」「楽しもうぜ」アイリは、他の子供たちと遊んでいた。そう、他の仲間たちにも子供ができていたのだ。ジンとフィアの息子。
《ニューエラ・アカデミー》開校から三年が経った。学院は今や、世界中から注目される存在となっていた。卒業生は1000人を超え、彼らは社会の様々な場所で活躍している。「信じられないな」クロが校長室で書類を見ながら呟く。「三年で、ここまで大きくなるなんて」「君たちの努力の賜物だ」ルーク司令官が訪問し、そう言った。「いや、みんなのおかげです」クロが謙遜する。「先生方、生徒たち、支援者の皆さん」「すべての人の協力があったから」ルークが微笑む。「謙虚だな、相変わらず」「それで、今日はどうされたんですか?」「実は――」ルークが真剣な表情になる。「君たちに、新たな提案がある」「提案?」「世界各地に、《ニューエラ・アカデミー》の分校を作らないか」その言葉に、クロは驚いた。「分校……ですか?」「ああ。ヨーロッパ、アジア、アメリカ」「世界中に、この教育を広めたい」「でも、俺たちだけでは……」「大丈夫だ」ルークが安心させる。「各地のWAU支部が協力してくれる」「そして、君たちの卒業生が教師になる」クロが考え込む。確かに、素晴らしい提案だった。しかし、責任も大きい。「みんなに相談してみます」クロが答える。「わかった。返事を待っている」ルークが去った後、クロは仲間たちを集めた。「分校か……」ジンが考え込む。「やりがいはあるな」「でも、大変だぞ」カイが心配する。「俺たち、各地
《ニューエラ・アカデミー》開校から一年が経った。 初期の生徒たち300人は、今や立派な異常演算者に成長していた。 そして、新たに400人の新入生を迎えることになった。 「すごい人数だな」 カイが新入生の名簿を見ながら言う。 「400人も」 「需要が高まってるんだ」 ジンが説明する。 「異常演算者への理解が深まり、正しい教育を受けたいという人が増えた」 「いいことだな」 クロが微笑む。 「俺たちの活動が、実を結んでる」 新入生歓迎式が開かれた。 壇上には、12人の教師だけでなく―― 1期生の代表として、ユウキとアカネも立っていた。 「新入生の皆さん、ようこそ」 ユウキがマイクを手に取る。 「僕は、1期生のユウキです」 「一年前、僕もここに入学しました」 ユウキが自分の経験を語る。 「最初は不安でした。本当に、異常演算を使いこなせるのかって」 「でも、先生方の丁寧な指導のおかげで、今ではこんなに成長できました」 ユウキが風の魔術を披露する。 美しい風の渦が、会場を包む。 新入生たちが感嘆の声を上げる。 「すごい……」 「僕たちも、あんなふうになれるのかな……」 アカネも続ける。 「私も、最初は自信がありませんでした」 「でも、仲間と一緒に頑張ることで、強くなれました」
《ニューエラ・アカデミー》が開校してから半年が経った。生徒たちは、目覚ましい成長を遂げていた。「すごい……」クロが訓練場で生徒たちの模擬戦を見ながら呟く。「半年前とは、別人みたいだ」ジンも頷く。「基礎がしっかりしてきた」「このまま成長すれば、立派な異常演算者になるだろう」訓練場では、二人の生徒が戦っていた。一人は、風属性のユウキという少年。もう一人は、炎属性のアカネという少女。「《風刃・連撃》!」ユウキが風の刃を連続で放つ。アカネが炎の壁で防御する。「《炎壁》!」しかし、風刃が炎壁を突破しそうになる。「まずい……」アカネが焦る。その時、アカネは授業で習ったことを思い出した。(ミナ先生が言ってた。防御が破られそうな時は、攻撃に転じろって)「《爆炎弾》!」アカネが攻撃に切り替える。炎の弾丸が、ユウキに向かって飛ぶ。「うわっ!」ユウキが慌てて回避する。その隙に、アカネが距離を詰める。「《炎拳》!」炎を纏った拳が、ユウキに命中した。「勝負あり!」審判役のカイが宣言する。「アカネの勝ちだ」「やった!」アカネが喜ぶ。「ありがとうございます、ミナ先生!」ミナが笑顔で親指を立てる。「よくやった」「でも、ユウキも悪くなかったぞ」カイがユウキに声をかける。「攻撃は完璧だった。ただ、相手の反撃を予想できなかった」「はい……」ユウキが悔しそうに言う。「次は、勝ちます」
開校式の朝。《ニューエラ・アカデミー》の校門前には、300人を超える新入生が集まっていた。年齢も経歴も様々。10代の若者から、30代の大人まで。すべてが、異常演算者として正しい教育を受けるために集まった。「すごい人数……」サクラが緊張した顔で言う。「みんな、私たちを見てる」「大丈夫だ」クロが励ます。「俺たちは、彼らの先輩だ」「胸を張っていこう」12人が壇上に上がると、大きな拍手が起こった。「ようこそ、《ニューエラ・アカデミー》へ」クロがマイクを手に取る。「僕の名前は、クロ・アーカディア」「この学院の教師の一人です」300人の視線が、一斉にクロに注がれる。「皆さんは、今日からここで学びます」「異常演算の使い方、制御の仕方、そして――」クロが一呼吸置く。「どう生きるべきか」「異常演算者として、社会とどう関わるべきか」「それを、僕たちが教えます」次に、ジンがマイクを受け取る。「僕は、ジン・カグラ」「クロと共に、この学院を運営しています」ジンが冷静に続ける。「この学院には、ルールが一つだけあります」「それは――仲間を大切にすること」「異常演算者は、一人では生きていけません」「仲間と助け合い、支え合う」「それが、僕たちの信念です」その言葉に、生徒たちが深く頷く。他のメンバーも、次々と自己紹介をしていく。カイの熱い挨拶。ミナの親しみやすい言葉。サクラの優しい笑顔。フィアの冷静な分析。レインの短いが
休暇から戻った12人を、オブシディアン基地で盛大な歓迎が待っていた。「お帰りなさい!」ルーク司令官とエリス・ノヴァが出迎える。「ただいま戻りました」クロが笑顔で答える。「休暇は、どうだった?」「最高でした」サクラが嬉しそうに言う。「みんなで、たくさん思い出を作りました」ルークが満足そうに頷く。「それは良かった。では、早速だが――」「育成機関の件、どうするか決めたか?」「はい」クロが前に出る。「12人全員で、やらせていただきます」その言葉に、ルークが嬉しそうに微笑む。「そうか。嬉しいな」「では、さっそく準備を始めよう」会議室に移動し、詳細な打ち合わせが始まった。「まず、機関の名称だが――」ルークが資料を開く。「政府からの提案は《異常演算者育成アカデミー》だ」「うーん……」カイが首を傾げる。「堅苦しくないか?」「確かに」ミナも同意する。「もっと親しみやすい名前がいいわね」「なら……」ジンが提案する。「《ニューエラ・アカデミー》はどうだ?」「新時代の学院、という意味だ」「いいね!」サクラが目を輝かせる。「前向きで、希望がある感じ」全員が賛成し、名称が決定した。「次に、場所だが――」エリスが地図を表示する。「政府が用意した候補地が、3つある」画面に映し出されたのは、どれも広大な土地だった。「海沿いの土地、山間部の土地、都市部の土地」「どれがいいかな?」