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交錯する初陣

Author: 吟色
last update Huling Na-update: 2025-07-13 21:56:20

「──さあ、注目ッ! 本日より、総合演算実技の本戦が開始されるッ!」

甲高い放送がアリーナ全体に響く。

観客席には、教師陣に加え、上級生たちや外部関係者──さらに国家直属の魔導騎士団からも、数名の騎士団長クラスが視察に訪れていた。

演習の実力次第では、将来の推薦やスカウトにも繋がる一大イベント。空気は自然と引き締まり、ざわめきに熱気が混じる。

「出場するのは、1年生全4クラス! 各クラスから三チームずつ──合計で十二チームが参戦するッ!」

「まずは予選バトル! 全チームを四チームずつ、三つのブロックに分ける。そして──」

「各ブロックで行うのはロイヤルバトル形式! 全チーム入り乱れての生き残り戦だ!」

「勝ち残れるのは、各ブロックで最後まで残った一チーム──生き残った三チームだけが、決勝戦へと進むッ!」

場内では歓声、緊張、期待──熱を帯びた視線が、戦場に立つ生徒たちに向けられる。

その中心のひとつに、彼の姿があった。

クロ・アーカディアは、仲間たちとともに転送陣の前に立っていた。

制服の袖をまくり、右腕に装着された雷紋のブレイサーを一瞥する。

……大丈夫だ。前より、ずっと長く戦える。

「ちゃんと使えよ、自分だけの武器」

少し離れた場所から、担任のトウヤが気だるげに声をかけてきた。

「……5%くらいはマシになったからな。せいぜい、壊すなよ」

「はい。壊さない程度に暴れてきます」

クロが笑って拳を握ると、ブレイサーが微かに光を放った。

「第2ブロック、転送開始!」

瞬間、視界が揺れ──クロたちは演習フィールドの東部、岩場に配置される。

同時に、他3チームも別地点へ。

・紅牙(こうが)チーム:猛獣型の獣化演算を駆使する肉弾戦集団。

・翠嵐(すいらん)チーム:風属性の俊敏さで撹乱し、連携に優れたバランス型。

・白鋼(はくこう)チーム:鉄壁の守りと布陣を武器にする防御特化チーム。

どれも、油断ならない。

「サクラ、敵は?」

クロが問うと、少し離れた位置で風の紋章を描いていたサクラが応えた。

「……索敵完了。北に紅牙、南に白鋼、西に翠嵐──全方位、囲まれてます!」

即座に、フィアが全体の戦況を整理し、チームに向けて声を飛ばす。

「布陣取るわよ。カイとは前線突破、レインは中央で守りと妨害。私はサクラと一緒に右翼から展開する。クロとミナは左翼で反撃に備えて。」

「了解。ブレイサー、だいぶ慣れてきた」

「なら、信じる」

フィアが短く頷いた。数週間前とは違う、互いの信頼がそこにある。

──足音。振動。殺気。

岩場の地形を突き破るように、紅牙チームの咆哮が響く

「っし、来やがったな!」

カイが飛び出す。その瞬間──

「熱式・昇炎牙ッ!」

紅牙のリーダーが地を蹴り、腕を獣のように変化させて迫る。まさに獣の突撃。

「ゼロ、演算いけるか?」

《演算安定率92%。戦闘時間、5分以上継続可能》

「よし……雷式・鎖撃(チェイン・ショット)!」

クロが手を振ると、雷光が鎖のように迸り、獣の突進を牽制する!

「面白れぇのが混じってんな……!」

紅牙の男が笑いながら距離を詰めてくる。

だが──クロの目は、前より冷静だった。

岩肌に雷光が跳ねる。クロの放った鎖雷が、獣化した男の動きを封じた瞬間──

「熱いのはこっちも同じだっつーの!」

ミナの火焔弾が横から襲いかかる。炎と雷が交錯し、爆音が岩場を揺らす。

「クロ、あと何発撃てる!?」

「あと4発は……いける」

「よし、こっちは冷却時間さえ稼げればまだ燃やせるよ!」

「なら、間に合う!」

ミナがクロの前に出て、火焔を纏った回転蹴りで突撃してきた紅牙のサブメンバーを吹き飛ばす。

「道開けたよ! 次、あんたの番!」

クロは頷き、深く息を吸った。

「閃雷刃──!」

雷が形を成し、剣のように伸びて敵を切り裂いた。雷撃の刀身は瞬時に分裂し、周囲の2体を巻き込む。

「やるじゃん、クロ!」

「お前が燃やしたおかげだ」

2人の連携は思いのほか機能していた。

一方、右翼側では──

「氷晶結界、展開。サクラ、後方支援お願い」

「はい、氷を通す風の流れを変えます!」

フィアとサクラの連携も、静かだが的確だった。

翠嵐チームの風術士が高速で切り込んでくるが、フィアの氷壁で加速を削ぎ、サクラの風流で軌道を逸らされていた。

「……よく見えてるのね、サクラ」

「まだまだです。でも、私も変わりたいから」

少女の瞳に宿る意志に、フィアはかすかに微笑む。

「じゃあ、次は一緒にいきましょう。

氷式・穿晶矢(せんしょうし)」

フィアが放った氷矢が、風術士の腕を正確に撃ち抜いた。

中央──

「……敵、白鋼チーム、接近」

レインの報告がチームに響く。防壁を複数展開しながら、白鋼チームがじりじりと迫っていた。

「いかにも重そうだな。お前、止められるか?」

カイが肩を鳴らす。

「……試す」

レインが地面を叩くようにして言う。

「土式・断層杭(だんそうくい)」

地面から伸びた岩杭が、白鋼チームの前進を遮る。しかし、鉄壁の盾魔術がそれを難なく弾いた。

「……強いな」

「なら、俺も出る! 燃えてきたぜぇッ!」

カイが突撃するその瞬間、上空から突風。

翠嵐チームの別部隊が、機を見て空から奇襲してきたのだ。

「上か!?」

ミナが振り向くも、クロが叫ぶ。

「ミナ、伏せろ!」

雷の稲妻が上空を走り、飛来する風使いを撃ち落とす。

「こいつら……連携してきてる!?」

バラバラだった3チームが、徐々に動きを合わせてきていた。

「やばいねこれ。俺ら、狙われてるじゃん」

「……正面からの強さだけじゃ、目立つってことか」

クロが息をついた時だった。

《警告:残演算時間、あと2分30秒──》

ゼロの声が静かに告げる。

クロは拳を握り直した。

(ここで終わるわけには──いかねぇ)

次の瞬間、白鋼のリーダーが巨大な盾を振り上げ、前線を崩すように突進してきた。

「全員、再編成! ここが正念場よ!」

フィアの叫びが戦場に響く。

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