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雷光、剣となりて

Penulis: 吟色
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-13 21:03:27

「次の演習からは、武器の使用も許可する」

訓練場に教官の声が響き、森の空気が張り詰める。

総合演算実技に向けた非公式のチーム訓練──クロたち六人は、個々の武器を手に立っていた。

カイは拳に馴染んだ演算強化グローブを装着し、パチンと指を鳴らす。小さな火花が走る。

サクラは黒扇を静かに開く。波紋のように、周囲の空気が整っていく。

フィアは無駄なく細剣を抜き、刃に氷の演算が重なる。剣先が揺れるたび、空気が凍る。

ミナは火導管のスイッチを入れると、両腕から赤い魔紋が浮かび上がる。

レインは無言で、大地に演算杖を突き立てた。地面が脈打ち、刻印が地脈を巡る。

この学園では、武器は基本的に自分自身の演算で生成するものだ。

生徒一人ひとりに宿る演算パターンと属性を解析し、それに最適化された演算媒体。

つまり武器を、自らの力で作り出す。外部から与えられるものではなく、自分と向き合い、構築し、鍛えあげていくのが魔術士としての基礎なのだ。

だからこそ、彼だけが異質だった。

「……え、俺、武器なんか持ってないんだけど?」

クロが言うと、フィアがあきれたように眉を下げる。

「次の演習から武器の使用が許可されたでしょ」

「俺でも聞いてたぞ?」とカイが笑いながら拳を鳴らす。

クロは小さくうなだれた。

(マジか……完全に出遅れた)

だが、もう時間はない。

「個別演習を開始する。チームは自由に組め」

最初に一歩を踏み出したのは──サクラ。

「フィアさん、手合わせ願います。私も……変わりたいから」

フィアは少しだけ目を細めた。

「……いいわ。来なさい」

「ちょっと待った!」

ミナが元気よく割り込む。「私も混ぜて!」

「えぇ……二人相手?」とフィアが肩を落とすが、その目は笑っていた。

その傍らで、レインがクロに声をかけた。

「お前の本質が見たい」

レインがクロを見据えた。

「なら、俺はクロのサポートだな!」

カイが肩を叩き、ニカッと笑った。

「──演習、開始!」

フィアの構築した氷陣が、静かに展開されていく。

地面を這うようにして、冷気が広がっていく。

「行くよサクラ!」

ミナが先行して突進し、拳で氷壁を砕く。その瞬間、フィアの細剣が光を裂いた。

「ッ──!」

サクラが扇を広げ、風を纏わせた。

氷の軌道をズラし、ミナに再接近の隙を作る。

「いける!」

しかし、フィアの動きは止まらない。

彼女は氷柱を逆手に取り、踏み台とすることで空中へと舞い上がった。

「上か──!」

サクラの風が上空を巻き込むが、フィアは氷の結界を身体に纏いながら急降下する。

着地の瞬間、氷霧が爆ぜ、周囲一帯が視界を奪われた。

「見えない……けど、動く!」

ミナが勘と気配で前に出る。拳を構えたその瞬間、フィアの剣が霧の中から突き出された。

「っ、サクラ、今!」

「風撃!」

風圧が横から叩きつけ、フィアの剣が逸れる。

その間に、ミナが拳をねじ込む──しかし、直前でフィアが後ろに跳ぶ。

「見えない中でも、意思の連携がある……」

フィアの目が、サクラとミナの動きを正確に捉えていた。

「面白い。けど、まだ届かない」

氷を収束させ、四方から小型の氷刃がサクラたちを狙う。

サクラが風で偏差をかけ、ミナが砕いて進む──ぎりぎりの連携。

「もう一歩!」

ミナが叫びながら飛び込むが、その直前──フィアの氷剣が、真正面から振り抜かれた。

「っ!」

防げない。そう思った瞬間。

剣は──寸前で止まった。

「……惜しかったわね」

氷の剣が霧とともに溶け、フィアが息をついた。

フィールドの別サイド

最初に揺れたのは、大地だった。

レインが一瞬、指先を立てる。

直後、クロとカイの足元から地面が盛り上がり、円状の岩が彼らを包囲する。

「動けなくなる前に抜けるぞ!」

カイが咄嗟に跳躍し、クロも遅れて追いかけるが──空中で足場を失った瞬間、岩柱が上へと突き上がった。

「っ、うわッ!」

「クロ!」

カイが拳で砕きながら接近するが、レインはまったく動かない。

代わりに、地面そのものが彼の意志を示すように動いていた。

「これ、完全に地形制圧じゃねぇか……!」

クロが歯を食いしばる。

「なら……突破するしかねぇ!」

右手に電流を集中させ、指先から一条の光を走らせる。

「閃雷刀!」

弧を描いた電撃が、地面に沿って蛇行しながらレインへ突き進む。

が──直前で土塊が立ち上がり、雷撃は吸収されたように消失した。

「くっそ、通らない!」「クロ、仕切り直すぞ!」

カイが前に出て、レインの新たな岩槍を拳で叩き潰す。土の波が彼らを分断するが、クロは食らいつく。

足元から雷光を走らせ、演算を重ねる。だが、思考の同期が追いつかず、術式が崩れ始めていた。

《警告。演算負荷が限界を超過。補助構築を開始します》

脳内にゼロの声が響く。

次の瞬間──クロの右腕に、雷の紋章が刻まれた金属製のブレイサーが生成された。

青白い光が迸り、装置が展開する。

「……俺に合う武器なんて、ないと思ってたのに──」

演算が一気に安定する。

「これなら……いける!」

「雷式・連鎖展開(リンクバースト)!」

クロの掌から走る雷が杭に沿ってレインを襲う。だが──

「地層反転」

レインは地面ごと姿勢を変え、攻撃を受け流す。

「こいつ……スキがねえ……!」

カイが隙を突いて踏み込む。

「今度は外さねえ!」

グローブの拳がレインの防御を打ち砕こうと迫るが、土の壁が生まれる。

「防壁──重奏」

音を立てて土が分厚く積層する。拳がのめり込んだ。

それでもカイが叫ぶ。

「クロ、見せてみろよ、お前の力!」

クロは叫ぶように演算する。

「雷式・斬撃変換──雷刃!」

演算展開装置が刃の形に変わり、雷が剣となる。クロがそれを握る。

「これが……俺の形だっ!」

刃が放たれた。一瞬、空気が止まる。

レインの演算壁を貫く寸前で──終了の合図が鳴った。

【訓練後・夕暮れ】

広場に夕陽が差し込む。

ミナは息を切らしながら地面に倒れこみ、サクラも座り込む。

フィアがふと呟いた。

「少しは……まともになったじゃない」

「ありがとうございます。でも……まだまだです」

「焦らないこと。戦いは、間で決まるものよ」

レインがクロに歩み寄る。

「未完成でも、戦える。意志があれば」

カイはクロの右腕を指差し、笑う。

「それ、カッコついてきたじゃねえか。雷の剣ってのが、またお前らしいわ」

クロは無言でその武器を見つめた。

演算装置の光が、まだ微かに灯っている。

(これが、俺とゼロで作った答えだ)

「ゼロ。……これ、俺、使いこなせるかな」

《お前ならできる。まだ、演算余地は99.7%残っているが》

「……期待しすぎだっての」

だが、表情は自然と笑っていた。

俺は、ここから変わっていく。

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