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跳ねる雷、教官の拳

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-07-13 21:36:19

「おいクロ。ちょっと放課後、屋上来い」

そう言ったのは、教科書すら持ってこないことで有名な担任教師だった。

アマギ・トウヤ。魔術理論担当、三十代半ば。

無精髭に、シャツは出しっぱなし。ネクタイは緩め、靴もスリッパ。

教壇に立っていても、なぜか常に眠そうで、授業は脱線しまくり。

けれど一部の教師たちは、彼を凄腕の演算魔術士だったと噂している。

「え、なんで俺……?」

「ああ。お前、演算制御が乱れる癖、まだ直ってねぇだろ」

「まぁ、正直……昨日も限界ギリギリでした」

「だと思ったよ。放課後付き合え。演算の補助感覚、叩き込んでやる」

クロは言葉を失った。担任のトウヤは、普段は口数も少なく、熱血とは真逆のタイプ。そんな彼がわざわざ補習を申し出るなんて。

「……マジすか」

「マジだ。逃げんなよ」

その放課後。

クロは言われた通り、学園屋上に足を踏み入れていた。

傾き始めた陽に、風が吹き抜けていた。

屋上の端に、タバコを吸っているトウヤの姿がある。

「武器は持ってきたか?」

「あ、うっす……」

クロは右腕に装着されたブレイサーを見下ろす。雷紋の刻まれた演算装置。あの日、限界の中で生成された、自分だけの答え。

「お前の右腕のそれ──昨日の演習で見たが……面白いな」

クロは無意識に、ブレイサーに触れた。

青白い雷紋が、金属の表面に微かに脈動している。

「自前で作ったんだろ? 演算補助の媒体。

……いや、正確には、何かもっと別の何かか」

トウヤはぼそりと呟いた。

「俺にはそれが何かまではわからねぇ。ただ、普通じゃねえってのはわかる」

「……」

「力はあっても、扱えなきゃ意味がない。今日は、それを叩き込んでやる」

タバコを片手に持ったまま、トウヤが姿勢を変えた。

──雰囲気が、変わる。

クロの肌がゾクリと粟立つ。直感が、告げていた。

(この人……やばい。ゼロ……いけるか?)

《演算安定率、初期値に比べて14.2%向上。短時間であれば、問題なし》

(よし……)

「始めるぞ」

トウヤがそう言った瞬間、地面を蹴って突っ込んできた。

「っ!」

早い。重心が崩れない。無駄がない。シンプルにして強靭な踏み込みだ。

クロは咄嗟に後退し、雷を帯びた右腕で迎撃を狙う。

「閃雷刃!」

雷撃が刃のように展開し、正面を制圧する。

だが――

「遅ぇよ」

トウヤは一歩も止まらず、最短距離を斜めから踏み込む。直線ではない、演算構造の穴を狙った動き。

「がっ――!」

クロは吹き飛ばされ、地面を転がる。

「お前、展開速度はまあまあだが、動きが演算に負けてる。自分の演算を活かす動きができてねえ」

「……っ、だったら、見てろ!」

再び演算展開。雷が周囲を奔る。

クロは一気に踏み込み――

(頼むゼロ、もう少しだけ演算補助!)

《応答。指示通り、加速パターン構築中。右脚に雷演算、収束を推奨》

「雷跳(らいちょう)……!」

雷光がクロの右脚を包む。

次の瞬間、彼の身体が弾けた。

雷の瞬発力を足元に集約し、演算によって跳躍方向と角度を制御する、超短距離・高速移動技。

ゼロの補助あってこそ発現した、クロ独自の移動術だった。

爆発的な加速。雷の反動を使い、空間を切り裂くような跳躍。人間の筋力では届かない軌道で、トウヤの側面へと一気に移動する。

(よし、いける!)

「雷式・斬撃変換──雷刃!」

演算装置が変形し、雷の刃が展開される。

そのまま斬りかかろうとした瞬間――

「読んでるよ」

トウヤが半歩引き、肘でクロの腕を弾いた。

「くっそ!」

「動きが単調になってる。いくら速く移動しても、次の手がワンパターンじゃ意味がない」

再び距離が離れる。クロは息を整えながら思考する。

(どうする……雷跳は一回きりじゃない。けど、連発には演算負荷が大きすぎる)

《提案。前回と異なる踏み込み角度での雷跳、成功率73%。左脚収束、側面斜め上方向に推移》

(わかった。頼む)

「雷跳──!」

今度は左脚に雷を集中。跳ねるように地を蹴り、ジグザグの軌道で接近する。

「右斜めから来るな」

だがトウヤは見切っていた。

「だったら、もう一段!」

地面すれすれで演算を滑らせ、真下から雷を迸らせる。

「雷突(らいとつ)!」

下からの斬撃。死角からの一撃が、ついにトウヤに襲いかかった。が。

「っと」

トウヤが指先で空を弾いた瞬間、波紋のような演算式が展開され、雷は煙のように拡散した。

「――へえ。やっと意図が見えたな」

トウヤが少しだけ口角を上げた。

「どういうことだよ……!」

「雷跳。いい技だ。でもな、お前がさっきまでやってたのは、動きに演算を合わせるってやり方だ」

「それが普通じゃ?」

「違う。演算を軸にして動け。お前は雷を使う。なら、お前の戦いは、雷のように――一瞬の衝動で、道を拓け」

クロの目が見開かれる。

「……じゃあ俺、今までずっと逆だったってことか?」

「ああ。だが――ようやく気づいたみたいだな」

トウヤは腕を払うと、戦闘をやめた。

「ま、今日のところはこれくらいでいいだろ」

「……え、もう終わり?」

「お前の演算と動きが合い始めた。それが今日の課題だった」

「じゃあ……合格?」

「5%だな。マシになったのは」

そう言って、トウヤはポケットに手を突っ込み、また気だるい態度でその場を後にする。

クロはその背中を見送りながら、右腕のブレイサーを見下ろした。

(……たった5%。でも)

ふっと、自然に笑みがこぼれる。

(俺の形が、少し見えてきた気がする)

夜・クロの部屋

訓練後の疲れが残る身体を、ベッドに倒しながら。

クロはぼんやりと天井を見上げた。

「……あの教師、なんなんだよ。だらしねぇのに、めっちゃ見えてんじゃん」

《観測結果:彼は生徒の可能性という概念に執着しているようだ》

「そっか。ま、悪くない」

ブレイサーが淡く光る。

クロはそれを見つめて、ふっと呟いた。

「次は、もっとやれる気がする」

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