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親友対決の始まり

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-17 09:35:16

準々決勝、第二試合。

学院講堂の観客席は、これまでで最も熱気に満ちていた。フィールド中央には、クロとカイが向かい合って立っている。

二人の間に流れる空気は、これまでの試合とは明らかに違った。

「……なんか、変な感じだな」

カイが苦笑いを浮かべながら拳を握りしめる。いつものような気軽さはそこにはなく、代わりに静かな緊張感が宿っていた。

「ああ」

クロも短く答える。右手のブレイサーが微かに光を放ち、左手では無意識に雷を練っていた。

観客席では、二人の仲間たちが複雑な表情で見守っている。

「……どっちを応援すればいいのよ、これ」

ミナが腕を組みながら困ったような顔をする。隣でサクラも小さく頷いていた。

「どちらも頑張ってほしいけど……勝負は勝負だから」

フィアとレインは無言だったが、その視線は真剣そのものだった。二人とも、この戦いが単なる勝負以上の意味を持つことを理解していた。

《両者、準備を》

審判の声が響く。

クロは深く息を吸い、左手に雷を宿す。青白い光が指先で踊り、空気がわずかに震える。

カイは両拳を握り、炎を纏わせる。赤い光がゆらめき、熱気が立ち上った。

「……始める前に、一つだけ言わせろ」

カイが口を開く。その声は、いつもより低く、真剣だった。

「俺たち、親友だろ?」

「ああ」

「だからこそ……手は抜かない」

カイの目に、これまで見たことのない鋭さが宿った。

「俺はもう、お前の背中を追いかけるだけじゃ終わりたくねぇんだ。今日は――本気で倒しに行く」

その言葉に、クロの胸に熱いものが込み上げる。

「……俺も同じだ。親友だからこそ、全力で来い」

二人は同時に構えを取った。

《――始め!》

審判の声と共に、カイが一気に距離を詰めてきた。

「焔拳!」

炎を纏った拳が、真っ直ぐクロの顔面へ向かう。だが――

「っ!」

クロはその拳を間一髪で避け、横へ跳ぶ。カイの攻撃は予想していた軌道とは微妙にずれていた。

《動きのパターンが従来と違う。警戒せよ》

(わかってる……カイの癖、全部知ってるつもりだったけど)

着地と同時に、クロは雷弾を放つ。青白い光がカイへ向かって走るが――

「甘ぇな!」

カイは拳で雷弾を弾き飛ばした。炎と雷が衝突し、小さな爆発が起こる。

「おいおい、マジかよ」

観客席からざわめきが起こる。カイが素手で雷弾を弾くなど、以前なら考えられなかった。

カイがにやりと
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