Masuk「こんにちは ! モノクロームスカイです !
今日午後7時から、ゲーム会社のアイテール公式生放送に出ます ! 」「音ゲーで有名な会社だよね ? 」
恵也は流石だ、切り替えが早い。すぐにトークに絡んできた。
「そうそう。
実はアイテールのX公式アカウントでは既に広告の画像が上がってるんですが、リアルに存在するアーティストさん達の曲を使ったリズムゲームが秋にリリースされます。そして、わたしたちも出ま〜す ! 」「物語調になってるんでしょ ? 今回の生放送、今カメラ持って貰ってるけどシナリオライターの田中 ゆかりさんとトークだしね」
「楽しみ ! 」
「あとはうちの新メンバー、キラです」
パチパチ !
「こんにちは。キーボード担当キラです ! ピアノも弾くよ ! よろしく ! 」
「紹介動画はYoutubeに投稿したから、是非観てください。リンクは下に貼っておきます。
では ! 十九時からアイテール公式チャンネル生放送でお待ちしてます ! 」「バイバーイ」
カメラを構えていたゆかりがokサインを出す。
「慣れてますね。噛まないですか ? 」
カメラを受け取った彩が顔を顰める。
「俺はたまに噛みます。なるべく喋りたくない……ケイとキリに任せてます。歌とか演奏ならどこでも出来るんですけど……喋るのはいつもドキドキで……」
「そ、そうなんですか ? どちらも変わらない気がしますが……」
「変わりますよ……」
「それ、僕も分かるかも ! 今、緊張したぁ〜。ステージでピアノ弾くのはあんなに気持ちいいのに」
「へぇ……そんなもんですか。慣れでしょうかね」
「多分、一種のトランス状態に近いですよ。緊張してない訳じゃないんですけど、凄く快感でまさに絶頂というか昇天というか&helli
「動かないで」 本番一時間前。 更衣室にあてがわれた霧香の部屋で、蓮と彩が霧香をドレスアップしていた。今回はゴシックロックと和ロック。衣装は和装寄りで、帯は蓮がギブアップ。彩が出来るが生身の人間に……女性にやったことは無い。蕁麻疹対策の為、蓮に指示を出してやる作戦だ。 そしてやはり今日も、霧香は蓮に顔を筆で撫でくり回されている。「くっ……ふぇ……」 部屋の隅で彩が霧香の衣装を持ちながらスマホ片手に咲と喋っている。 向かい合って座った蓮が、ムズムズしている霧香を見下ろしながら眉を梳かしポツリと呟く。「恵也となにかあった ? 」「へ !? 」 彩ならともかく、蓮が何故知っているのか。「あ……え ? ビンゴ ? 当てずっぽうだったんだけど……」「な、にゃい ! 無い無い ! 」「いや、なんか顔に出てるし……。 ……ま、別に隠す事も無いだろ。最初から薄々分かってた事だし」 そう言い、霧香の髪を掬い上げスンと香りを弄び口付けする。「誰が惚れようと……関係ないね。お前が良いか悪いかだ」「……」 そうではあるが、何となく霧香は妬いて欲しかった。 無言でそれを聞き流す。 蓮も素直には言えない。 これが彩でなくて良かったとは。「お前の髪は綺麗だね。今日も編まなくていい ? 」「ん。髪飾りの方……ちょっと」「編むの ? 」 そこへ彩が慌てて二人のそばに戻る。「蓮、右腕側の毛束を少なめに後ろに流せる ? ベースの時も移動の時も、とにかく右側映るから」「了解。じゃあペアピンで固定して、この摘み細工の花飾りで隠そうか」
ここからは再びゲームの話に戻って行く。 本日はコメントを解放してあるのだ。 追い切れない楽しげなファンのコメントに、チェックをしていた木村はホッとする……と言うより、感動していた。 ネットの炎上に良いイメージなど無いからだ。 毒薬変じて薬となると言うものか陰徳あれば必ず陽報あり……か…… 。「昨日ゲームしながら喋ってた奴いた ? 」「キラと恵也。すっげーうるさかった」「よく喋れんな。RPGとかならギリ喋れるけどさ、リズムゲームって集中するしさぁ」「VEVOが配信スタートしたら、ちょっと実況はしてみようかな」「あぁ、それは楽しそう」「やっぱミミにゃんでプレイした方が面白そうだな。ミミカーになるかもしれないし」「なりませんよ」 ミミにゃんは口を尖らせて否定するが、ゆかりはカメラの外で何やら必死にメモを取っている。ミミにゃんは嫌な予感しかしない。 □□□□□ 川から戻った霧香の異変に、彩はすぐ気付く。「……」 緊張とも落胆とも違うその感覚は、遠い昔……一度感じた様な……彩にとってはそのくらいの理解度だった。 しかし、耳は聴こえていないはずだ。 彩はスケッチブックの端に『何かあった ? 』と書いた。 恵也に限ってそんなことは無いはずだが、水着で出かけた霧香の異変に何も干渉しない訳にはいかない。『何も無いよ』 そう書き返した霧香だが、顔が赤い。 そこで彩は思い出す。 人の恋心は動揺したり、複雑な気持ちになることを。そしてすっかり自分とは疎遠になったそれらを実感して静かに落胆する。「あ〜……」 霧香が彩に振り向いて、考えながら話すように言葉を探す。「耳、あんか、ちょっともろって来たかも」「早いな。ヴァンパイアの体質のせい ? 」「んあ〜、ヴァンパイアだから ? って言った ? 」 やはり途切れ途切れにしか聞こえないし少しボンヤリとしていて聞き分けるの
「霧香さんて、KIRIで活動している時とギャップがあるじゃないですか ? わたしは年下なので、あのインスタのロリータこそ作られた霧香さんだと思ってたんですけど。 実際話したら、普段はほんとに温厚でお嬢様って感じで。でも歌ってる時は確実に別人じゃないですか !? 」 Angel blessとミミにゃんのトークも主に霧香の話題で埋まる。全員がここにはいないはずの霧香を案じて、口をついて出てしまうのだ。 ミミにゃんの疑問には全員爆笑。 特に千歳も同意で疑問を投げる。「俺もどっちかなって思ってたけど、案外歌ってる時が素かなぁーって思った。 だって普段からふにゃふにゃしてたら……ハランはまだ分かるけど、蓮は一緒に住むのキツくない ? 」 問われた蓮はまずまず同意。 千歳も「やっぱり」と大きく頷く。「俺も勤め先の電気屋で実感したんだけどさ。女性もさ。ずっと可愛いわけじゃないじゃん ? 俺ねシフト終わった後、可愛いと思ってたバイトの子がさ、めちゃくちゃ疲れた顔してエナジードリンク飲んでるの見てさ。……世の中の可愛いって自然体じゃないだなって」「その子は普通だよ。 みんな仕事明けは疲れるよ」「千歳さんは女性に夢を見るタイプなんですねぇ」「お前、アイドルは老廃物出さないと思ってるタイプ ? 」「そうだけど ? 」「うえ〜……」 全員、言わない。千歳の生活は所帯染みて来たのに、未だ浮いた話を聞かないな……とか。 ハランが切り替えて行く。 ここからは水戸マネージャーと口裏合わせした方向へと進む。ミミにゃんの本性を暴露し、更に人気に火を付けたい。「いや、女性は怖いよ。表と裏がね。特にこう言うメディアに出る人はキャラクターってモノもあるしさ」 蓮の追撃。「キャラクターね。 俺、昨日霧香を連れて戻った時さ、フロントに実々夏さんがいて…&h
「ま、せっかくの休みだし……。 あ、そうだ管理人さん」 料理を運んでいた高齢の女性に恵也が声をかける。「側にある川で釣りがしたいんすけど、なんかダムみたいなのがあって上に行けなかったんですよね」「あ〜。釣りはね。旅館の裏手から行くんだわ。裏道あるからさ。そこ登って行くと丸太を渡ってその上に行くと滝壺があるからさ」「はぁーなるほど ! ありがとうございす ! レンレンとハラン配信だし、彩は夜の用意か。 キリとキラ、釣り一緒に来る ? 」 希星はスケッチブックに恵也の言葉を書くと、霧香は笑顔で頷く。「管理人さん、そこも水浴び出来る ? 」「滝の真下はダメだよ。少し離れれば大丈夫だけど」「やった ! 」 盛り上がる三人を後目に、千歳と京介はだらりと椅子に持たれる。「あう〜……午前中なんて頭回んねぇよ」「午前はわたしも出るんですから。しっかりしてください ! 」 ミミにゃんは相変わらず厳しい。「実々夏さん、やっぱりネコミミ外すと凶暴化しますね」「え ? そうなの ? 」「何それ面白い。なんか喋って」「はぁぁっ !? 訴えますよ ! 」「え、急な拒絶キツ〜」 その発言を興味深く水戸マネージャーも聞き逃さず観察する。「昨日、俺超足踏まれた。連打。踏みつけ連打」「ぎゃはは ! 」 □□□□□□□ 恵也は釣竿を持つと希星に使い方を説明していた。 岩の上で真剣に釣竿と格闘する希星を、霧香は川岸で見守っていた。 水が柱となり高所から落ち、飛沫を上げる。一応水着は着てきたが、足だけ水の中に入れる。 音は聞こえなくとも、その強い振動は身体に伝わるほど力強く、飛沫がミストになり全身を冷んやりと包み込む。 ゆかりの印刷してくれたモノクロファンの言葉の綴りに目を通す。 涼しい
「動画のはあくまでパフォーマンスだよ。それに全員好意を持っててもいいと思よ。霧香が選ぶか選ばないか分かんないしさ。 じゃあ……実々夏さんから見て、モノクロで誰が好みとかあります ? 」「はぁ ? そういうところですよ ! イケメンなのにデリカシー無いんですね〜」 手強い。 ネコミミを外したミミにゃんは中学二年とは思えない悪女のような発言をしてくる。「いや。ほら、ゆかりさんは霧香と恵也のコンビが、一番理解出来ないって言ってたらしいんで。 実々夏さんから見たらどうなのかなって。参考にです。 って言うか、俺にだけ当たりが強くないですか…… ? 」「ん〜。そうですね。ケイさんはトークが上手いのでモノクロには必要ですよね……。 あ、でも恋愛パフォーマンスとして霧香さんとくっ付けるのに向きの方って事ですよね ? えーと、じゃあ。深浦さんじゃないですか ? 」「彩 ? へ〜……」「深浦さんが一番霧香さんの事を考えてるし、甘やかして無いと思いますし。しっかりした方だなと。 でも、あの二人が恋愛パフォーマンス ??? は……完全に向いてないですね〜」 蓮は意外なミミにゃんの返答に言葉に詰まる。「霧香さんも聞いてみましょうよ」「はぁ" ? 」 これには蓮がミミにゃんの足を踏みたいところである。「だって蓮さんは御自身に自信があるようですし。何より本音を知りたいでしょう ? 」「え……じゃあさ。例えば今日の夜、ガールズトークとかで聞き出してくれない ? 」「うわ ! 一番最低 !! ガールズトークに男が首突っ込んでくるとか変態すぎ」「何この子……辛すぎる」『モノクロで好きなメンバー誰ですか ? 』 霧香はミミにゃんのスマホを読むと、満面の笑みでス
パーキングエリアのベンチでロイと合流する。「霧香さんにダメージが言ってしまうなんて……本来我々の問題なのに……」 ロイは申し訳なさそうに頭を抱えた。 ロイの診察は独特だった。いや、相手がヴァンパイアだったから躊躇いなく魔法を使ったのだろう。霧香の頭、首、肩、腕をポンポンと触れていき常人には視えない魔法陣を浮かばせた後、診察は終了した。「内臓とか、脳に以上は無いね。外耳も中耳も炎症が無い。 やっぱり心因性難聴だね」 暖かい缶のポタージュを持たされたまま、霧香はボンヤリと駐車場のトラックの群れを眺めている。「炎症が無い場合、治療は…… ? 」「内服薬は同じだけど、安定剤も出そうか……でも、噂が落ち着いてくれるのが一番なんだけどね」「そうですね」 蓮はまだネットを見ていなかった。 時刻は0時を越える。 着信。 京介からだった。「あ、すみません」「どうぞ」「京介 ? 」『なぁってば !! ネット見た !? 』 何やら興奮した様子で喋り出す京介に思わず、顔を顰めて受話音量を下げる。「何 ? 」『だーかーらー、樹里から連絡来て言われたの ! X見たかって聞いてんの ! っつーかチャンネル登録者回復してるぜ ? 』「はぁ !? いや……だってさっきまで……」『とにかく見てみ ! 』 一方的に切られる。 蓮が通話中、そのそばでロイが霧香に筆談で尋ねる。『家に居た方が楽かい ? 』 質問の意図が見えず、霧香は顔を上げてロイを見る。『自分が一番居たい場所にいるのが一番だから。入院も出来るけどどうしようか ? 』「あー……」 それを読んで霧香は考える。 自分の居たい場所とは…… ? 蓮はモノクロのチャンネルを開くと、既に十万人まで回復していた。訳が分からない。 Xを開いたところでようやく把握し