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38.夜空 - 3

last update 最終更新日: 2026-02-07 11:00:00

 翌日夕方。

 非番の黒ノ森楽器店の天使組、希星、そしてゲソの二人は、恵也がファミレスを辞めたと聞いて驚く。

「れ……LEMONの成功も確定じゃないし、見切り発車過ぎない ? 」

「ちげぇーよ。転職だよ ! 」

「天職 ? そうは言いきれないよ……」

「違う ! 天職じゃなくて、仕事変えるの ! 転職 ! 」

「え……あぁ。そうなんだ」

「もう決まってるの ? 」

「ここの住宅地のすぐ抜けたところ……李病院の近くに和食屋があるんだけどさ。そこでランチの時だけピンチヒッターすることになって」

「ピンチヒッターって……すぐ出来るもんなの ? あそこ結構、広いし客多いしさ。今までもホールだったのに ? 」

「最初は掃除とかホールだと思うけど。夜は居酒屋になるじゃん ? その時の仕込みを手伝う感じ。裏方作業のピンチヒ

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  • 黒と白の重音   40. 三色菫

     集まったユーザー達は皆、思い思いにワールドを満喫する。 広いフィールドで鬼ごっこを始める社員。公式に雇われたゲーム実況者は先行配信で各所を体験し、魅力を伝える。日本版しか知らない関係者は海外のワールドも行き来し、違いを比べ回る。ちょっとした小旅行だ。 海外に展開した支部の社員とも合同交流。 どちらかと言うと、本日は試験的なニュアンスが強いプレオープン。 関係者同士で繋がる人脈。 全員が使用出来るサービスを利用し尽くし、フィールドを余すこと無く把握する。 そこへ響き渡るギターの開放弦のロングトーン。 ジャーーーーーーンッ♪……ギッ !! ステージに現れたシルエットに、見に来ていたミミにゃんは咲と合流していた。「始まりましたね……皆さんのアバターと比べて、モノクロは本当にリアルなアバターなんですね。生き写しみたい……。 さ、咲さん ? 」「お姉さん、感動と緊張で泣きそう ! 」「まぁ……そうですよね……。これからモノクロは世の中に旅立つんですね……」 希星のピアノがイントロを奏で出す。『LEMON公式アンバサダー モノクロームスカイ ! 』 ステージの蹴込みにデジタルで流れる紹介文。 奏でるSAIのギターとKIRIの相棒 マシンの重低音。 恵也のドラムにリズムを刻む蓮のベースとハランのギター。 第一曲目は、ゲソファンファーストとしてSAIとKIRIのペアをメインとしたロックナンバー。 フィールドにいる関係者は勿論、ショッピングワールドにいた者もイベント開始のデジタル広告を見てフィールドに戻る。 ステージに近付くにつれ音が大きくなるのはリアルだ。 激しく細かいリズム。 音色の質。 アバター動作と音のタイミング。 全てにおいて完璧に表現されている。

  • 黒と白の重音   39.夜空 - 4

    「で ? 結局白紙同然に戻ったのかぁ」 南川は器用にホッケの骨を箸で剥ぎ取り、皿の隅へ寄せる。 手にはスマホ。相手は彩だ。「ま、急がなくていいよ。日本のライブステージでモノクロの音楽やるのが初日のスケジュールだし……ゆっくり悩んでよ」 南川はそれと同時にテーブル横に置かれたパソコンで X を見ていた。「それにしても……やってくれたね。ヴァイオリンでゲリラライブ ? 結構、噂になってるよ。『謎の看板の女性の正体は』だってさ。さっきまで『謎の看板』がトレンド入りしてたんだけど……今は消えちゃったね」『す、すみません……』「いいけどさぁ。凛さんからアドバイスもらって来たよ。 まず、YouTubeのモノクロの音楽動画とお部屋紹介動画だけど、音楽の方だけ公開してくれるかな ? あとは霧香さんのインスタ。 もうみんなモノクロの認知度はあるから、公開していいよ。 カメラの設置がおわったら、お部屋紹介動画も解禁で。 他のイチャイチャしてる動画は最後に再アップロードでいいかなって」『そうですか』「理由はまだ、モノクロとLEMONの結び付きは世間一般ではされてないから。 そのくらいはそろそろ公開しましょうということらしいです」『分かりました。ちなみに、アップロードしておいて欲しい動画とかあれば撮りますけど、何かありますか ? 』「あー。やっぱり霧香さんメインでの、MVかな。歌より構図にこだわった感じの。ゴシックの世界が伝わるようなセットでね」『成程。分かりました』「楽しみだよ。LEMONのリリースが」『はい。俺達もです。 ……あと、そう……ですね。南川さんのアドバイスは、いつも的確なので……単純に凄く尊敬してます』「ははは ! なんか君み

  • 黒と白の重音   38.夜空 - 3

     翌日夕方。 非番の黒ノ森楽器店の天使組、希星、そしてゲソの二人は、恵也がファミレスを辞めたと聞いて驚く。「れ……LEMONの成功も確定じゃないし、見切り発車過ぎない ? 」「ちげぇーよ。転職だよ ! 」「天職 ? そうは言いきれないよ……」「違う ! 天職じゃなくて、仕事変えるの ! 転職 ! 」「え……あぁ。そうなんだ」「もう決まってるの ? 」「ここの住宅地のすぐ抜けたところ……李病院の近くに和食屋があるんだけどさ。そこでランチの時だけピンチヒッターすることになって」「ピンチヒッターって……すぐ出来るもんなの ? あそこ結構、広いし客多いしさ。今までもホールだったのに ? 」「最初は掃除とかホールだと思うけど。夜は居酒屋になるじゃん ? その時の仕込みを手伝う感じ。裏方作業のピンチヒッターだよ」「休みとか……厳しくないか ? 俺らは樹里さんの紹介で黒ノ森にいるから自由が効くけど……」 蓮とハランに関しては、夕方から客寄せパンダに変わる。だが、店長や樹里も事情を知ってのことだ。勿論休みの自由も効く。 しかし、飲食店となると昼、土日と小さな繁忙期が永遠に続く。恵也の行く店は割と繁盛しているから余計にだ。「でもさ活動拠点、俺たち暫くLEMON内だろ ? スタジオ行くにも、家から出て移動時間とかあるわけじゃないし。 これから私生活公開するのに、フリーター呼ばわりされんのも嫌だしさ。それに、あのファミレス客来ねぇんだもん。レビューもコメントも悪いし……」 霧香が初めて彩と待ち合わせした時を思い出す。「そういえば、昼時でも他の店に比べてお客さん少なかったね」「今、事業縮小とかしてるから、あそこ引っかかりそうなの。単純に飯が不味いんだよ。 そうなる前に辞めて来た。っ

  • 黒と白の重音   37.夜空 - 2

    「え、そのケース……二台も入るの ?! 」「ダブルケース。普通に売ってる」「は、初めて見た。……なんでバイオリン ? 」「この公園、音出せるから。まだ人も多いし……。チューニングだけ魔法でお願いしていい ? 」「いいけど……ここで弾くの ? なんか……人もいるし。恥ずかしい」 霧香が手のひらをバイオリンに向けてそっと撫でるような動きをする。弦がしなり、ペグがグリリと巻き上がる。「わたし指切っちゃうかも……。それに魔法使い続けると……血が……」「多分、夜だし一瞬の出血くらいは見えない。それに血なら……別にいい。齧られても別に……痛くないし……」 彩が自分から提供を許すとは、霧香は少し驚いた。しかし彩は霧香のペースを無視し立ち上がると、早速弓を滑らせる。 真向かいにいた落ち着いた雰囲気の恋人二人が演奏に気付き、一瞬聴き惚れる。すぐに二人だけの世界へ帰っていくが、その瞳は先程より楽しく、甘く……情熱的に。 霧香は真横で彩の音を聴きながら、ぼんやりと恋人達を見つめる。 音の効果と言うのは絶大だ。 音魔法じゃない。もっと単純な事。彩の実力の範囲内といったところだ。そもそもソリストとして、学生時代から活動していた実績がある。その夢は潰えても、消して音楽は辞めなかった。 それがブランクとならず、今も彩を支えている。「……キリ…… ? 」 いつまでも鳴らさない霧香に彩が顔色を伺う。「あ、ごめん……すぐ入る」 霧香は何故か彩の音が今までより違って聴こえた。 自分も見計らった場所から音を入れる&helli

  • 黒と白の重音   36.夜空 - 1

     自分の部屋に戻って作業していた恵也が、夕食の為リビングに行くとシャドウと蓮しかいなかった。「あれ ? サイまだか。部屋行って呼んでくるわ」 座りかけた椅子から立ち上がろうとした時、食事を運んできたシャドウが恵也を止める。「サイなら、ヴァイオリンを抱えて出ていったぞ 」「え…… ? まじ ? ……結構作業残ってたはずなんだけど……気晴らしにでも行ったのか…… ? 」「今、なんの作業してるんだ ? 」 蓮がシャドウから受け取った大皿をテーブルに置き、恵也に聞く。「サイはLEMONのLIVEで何を歌うかとか、南川さんと打ち合わせしてて、俺はYouTubeに上げた動画をリメイクしてる。 あと個別プロデュースの件、俺は決まったらさ。みんなに伝えるようにイメージ的なものとか選曲とか知識を掻き集めてて……先生も見つかったし」「そうか」「キリとハランもまだ……か。夕食は食って来るって言ってたんだったな。 じゃあ、俺たちで先に食おうぜ ! 今日も美味そうだ〜 ! 」 三人が箸を持った次の瞬間、ガチャリと言う音が響く。 リビングのドアはストッパーが下ろされ開放している。その廊下の先、玄関の扉の音がしたのだ。 彩が戻ったのか ? 何故なら、霧香とハランにしては会話が聞こえても来ないからだ。 恵也は箸を置くと、エントランスへ向かった。「あれ ? キリは ? 」 帰ってきたのはハラン一人だった。 コンビニのビニール傘を畳みながら、気まずい雰囲気で恵也を一瞥する。「あぁ……。ん、ただいま」「え ? え ? キリは…… ? 」「あー……。ちょっと俺が……キリちゃんを怒らせちゃって

  • 黒と白の重音   35.紺鼠 - 3

    「ハラン、ありがとう」「ゴールドのフレームは青い髪にも似合いそうだね。早くいつものキリちゃんが見たいよ」 家では変装はしていないのだが……。家を出てから、ハランの口振りには何か定型されたような癖がある気がして、霧香はなんだか違和感を感じていた。 その違和感とは、いつも生配信など撮影の時に使われる表の顔と口振り。まるで決められた台本を読むように。「ライブハウスはどこなの ? 」「この先の繁華街の地下にあるんだ。ホワイトミントって所。 音ビルで一番規模が小さいところだよ。あそこは200人入れるかな。ギリギリ200って感じ。 京介に話通してあるからステージの袖の方から見れるよ」「え ! いいの !? 出演者にお邪魔じゃないの !? 」「大丈夫。相手も駆け出しだから、関係者繋がりは寧ろ是非見てくださいのスタンスだよ」「へぇ〜太っ腹だね邪魔にならないようにしなきゃ」「開場まで時間あるし、お昼にしようか。何食べたい ? 」「えっと……。じゃあ、服に臭いとか付かないところがいいのかな ? 舞台袖でも、スタッフさんいっぱいいるだろうし……」「あぁ、なるほど。そうだね。 じゃあ、お蕎麦なんてどう ? 」「あ ! 食べたい ! 家じゃ流石にシャドウくんも蕎麦はコネないしね」「あはは、そりゃそうだね。お蕎麦難しいって聞くし。 でもシャドウ君は本当に働くよねぇ。猫だなんて思えないよ」 タクシーに乗ってからも盛り上がる。「でも料理好きだし、頼めばうどんはコネてくれそうだよね」「シャドウ君のうどんか……力あるからな〜。凄いコシになりそう」「でもわたしコシが強い方が好き ! 」「ほんと ? 俺は鍋とかに入れて二日目のフニフニのうどんが好きだなぁ」「ハラン、顎だけお爺ちゃんなの ? 」「違うよ ! もう〜」 

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