LOGIN**** おおっ、とモニターを覗き込んでいた社員たちの口から、感嘆とも安堵とも取れる声が洩れる。一方の啓太郎はといえば、感嘆も安堵も突き抜けて、虚脱感に襲われていた。 イスの背もたれにズルズルと体を預けながら、大きく息を吐き出す。「はあーっ、気が抜けた」 ずっと取り掛かっていたショッピングサイトのシステムの最終試験が終了し、怒涛の流れでシステムのリリースとなったわけだ。 完成したシステムを顧客に引き渡し、確認してもらうことをリリースというのだが、啓太郎はそもそも顧客の会社に出向いてシステムを作っていたので、完成までにどれだけのバグが出ていたか、すべて会社に筒抜けだ。 そういう意味では、リリースの瞬間も気楽なはずなのだが、万が一にもバグが起こったらと思うと、やはり緊張してしまう。 だが、心配は杞憂に終わった。システムは製品として啓太郎の手を離れたのだ。 すぐに姿勢を戻すと、啓太郎はアタッシェケースから書類を取り出し、このシステムの管理責任者に手渡す。リリースと引き渡しが完了したというサインをもらわなければ、仕事が終わったことにならないのだ。 連日、泊まり込みが続いていて、少し前まではぐったりしていた社員たちも、にわかに活気を取り戻したようだ。 当の啓太郎も、実は張り切っていた。少しの間とはいえ、これでハードワークから解放されるのだ。 ずっと自分が使っていたデスクの上を片付け、アタッシェケースに必要なものを放り込んでいく。「羽岡さん、この後、メシ食うのもかねて打ち上げの店を押さえたんだけど、ちょっと距離があるんだ。それで、タクシーに分乗するんだけど、いいよね?」 「えっ、打ち上げ、今日するんですか」 驚いた啓太郎は顔を上げる。システムが完成してからの打ち上げはよくあることだが、まさか、完成当日に行うとは思っていなかった。すでに店を押さえてあるというのは、手際がよすぎる。 男性社員は苦笑しながら言った。「疲れを取ってから派手に、といきたいところだけど、うちはまだ、業務に付随する細々としたシステム開発が残ってるからさ。だから、大きなシステムが完成した勢いで騒ごうってことになったわけ。そうでないと明日からのデスマーチに耐えられそうにない……」 システム開発者はお互い大変だと思いながら、啓太郎は頷く。「俺は大丈夫ですよ。まさか
すでに凝った突起を指先で弄りながら内奥をまさぐり、裕貴が敏感に反応する浅い部分を指で押し上げる。同時に、口腔に含んだ裕貴のものをきつく吸い上げると、あっさりと裕貴は陥落した。「くうんっ」 短く鳴き声を上げ、裕貴が啓太郎の口腔に絶頂の証を迸らせる。迷うことなく啓太郎は、すべて受け止めて飲み干した。 顔を上げた啓太郎は、顔を上気させて涙ぐんでいる裕貴の顔を見下ろす。照れ隠しのつもりなのか、涙で潤んだ目で睨みつけられた。「……そんなことまで、しなくていいのに……」 「お前だって、俺が望めばしてくれただろ?」 「おれは……いいんだよ」 苦笑した啓太郎は、すでに汗で濡れている裕貴の前髪を掻き上げる。すると裕貴に手を握り締められ、頬を寄せられた。 そんな裕貴を見下ろしながら、指の届く範囲で内奥を掻き回し、蕩けるほど柔らかくしていく。裕貴はときおり声を上げながら、緩やかに首を左右に振っては、すがるような目で啓太郎を見上げてきた。 啓太郎が自分をどう思っているのか気になっているようにも見え、安心させるように裕貴に笑いかける。 つまらない嫉妬は、裕貴を感じさせることで昇華させる。 啓太郎はそう自分に言い聞かせながら、裕貴の胸元に顔を伏せ、尖ったままの突起を舌先で転がす。「あっ」 裕貴の両腕にしっかりと頭を抱き締められ、その感触が啓太郎には心地いい。早く、こいつの中に溶けてしまいたいと思う。「悪い、裕貴。今日はもっと感じさせてやろうと思ったけど、俺がもたん」 「いいよ。おれも早く、啓太郎が欲しいよ」 「……お前なあ……」 興奮を煽るようなことを口にするなと言いたかったが、行為の最中とは思えないほど、あどけない顔をした裕貴を見ると、どうでもよくなった。 啓太郎は裕貴の内奥から指を引き抜くと、両足を抱え上げる。蕩けて熱くなった場所に、それ以上に熱くなった自分の高ぶりを押し当て、擦りつけると、それだけで愉悦を覚えたように裕貴が目を細めた。 自ら両足を抱え持った裕貴の表情を眺めながら、啓太郎は内奥にゆっくりと押し入る。「うっ、あぁ――。あっ、あっ、はうっ」 啓太郎のものは熱い収縮感に包み込まれ、背筋に痺れるような快感が駆け抜ける。裕貴の内奥は、ヒクヒクと震えていた。 少しでも裕貴を早く楽にしてやろうと、逞しい部分を呑み込んだばかりの内
啓太郎は裕貴を伴ってベッドへと移動すると、すぐに細い体を押し倒そうとしたが、反対に裕貴に胸を押されて、啓太郎のほうがベッドに仰向けに転がる。「おい、裕貴……」 「最初の頃からおれ、言ってたよね。気持ちよくしてあげるって」 言いながら裕貴の手が、啓太郎が穿いているスウェットパンツの前に這わされる。意図を察した啓太郎は、慌てて裕貴の手を押し退けようとしたが、裕貴は小さく笑った。「本当に優しいね、啓太郎は」 そう言いながらも裕貴の手の止まることはなく、啓太郎のものは布越しに柔らかく刺激される。感じる心地よさが、なぜか啓太郎を不安にさせる。 裕貴はもう笑っておらず、強い光を放つ目でじっと見つめてくる。「だけど、知るべきだよ。とっくに気づいてるんだろ? おれが――男に慣れてるって」 「俺は別に、お前が前に誰とつき合ってようが気にしない。それを言うなら俺だって、お前の前でさんざん、過去につき合ってた女の話をしている」 一瞬、つらそうな顔をしてから裕貴が目を伏せる。「……啓太郎がしてきた恋愛とは、違うよ……」 このときの裕貴の言葉を、同性同士の恋愛だから、という意味で啓太郎は捉えた。 啓太郎は口を開きかけたが、次の瞬間には唇を引き結ぶ。裕貴が、引き出した啓太郎のものに顔を近づけ、唇で触れてきたからだ。「裕貴っ……」 痺れるような熱い感覚が背筋を駆け抜ける。動けなくなった啓太郎にかまわず、裕貴は舌を這わせてから、ゆっくりと口に含んでいく。すでに何回か、啓太郎が裕貴にしてやっていた行為だった。 あっという間に制止する気力を奪われた啓太郎は、黙って裕貴を見つめる。ときおり上目遣いに見上げてきながら、裕貴は熱心な愛撫を続け、それに伴い、啓太郎の中で快感も高まってくる。 素直には認めがたいが、目を背けるわけにもいかない。裕貴の愛撫は巧みで、情熱と興奮のみで施す啓太郎の愛撫とはあまりに違いすぎた。 狂おしい嫉妬と快感に呑まれながら、とうとう啓太郎は裕貴の頭に手をかける。髪を撫でてから、頬に触れると、濡れた目でこちらを見つめてきながら裕貴が微かに微笑んだように見えた。 裕貴の舌が、高ぶったものの先端に丹念に這わされる頃になると、啓太郎は天井を見上げて大きく息を吐き出す。 しっとりと湿った口腔の粘膜に包み込まれ、柔らかく締め付けられながら吸引され
「ということで、おれは引きこもりに戻るよ」 「……戻るも何も、周囲の人間が、お前を強引に連れ回していたというか……」 「だったら、おれを連れ回していいのは啓太郎だけ、ということに決めた」 単純だが、裕貴の言葉が嬉しかった。つまらない啓太郎の独占欲は、あっという間に満たされていく。 裕貴の首の後ろに手をかけ、そっと引き寄せると、裕貴のほうから軽く唇を吸ってきた。「それで、いい?」 尋ねてきた裕貴の目には、不安の色がちらついていた。普段、挑発的なほど強い光を湛えているというのに、なんという目をしているんだと思いながら、啓太郎は強い口調で応じた。「いいに決まってるだろ」 裕貴が笑みをこぼしたのを確認してから、今度は啓太郎が裕貴の唇を吸い上げ、そのまま二人は吐息を洩らしながら唇を重ねる。 裕貴の手が、啓太郎の着ているトレーナーの下に入り込んできて、熱くなっている肌に、さらに熱い指先が這わされる。たったそれだけの感触に、ゾクゾクするような愉悦を覚え、啓太郎も裕貴が着ているTシャツをたくし上げるようにして肌に触れていく。「お前、外に行くのに、こんな薄着にコートを引っかけただけだったのか」 「だって、タクシーに乗って家に行くだけだし」 「それでも、また風邪ひくぞ」 「――そうしたら、啓太郎につきっきりで看病してもらう」 やっと裕貴が、いつもの挑発的な眼差しを向けてくる。その目に見入られたように、啓太郎は目許に唇を押し当て、次に白い耳にも触れる。 感情の高ぶりのまま、素直な気持ちを抵抗なく口にできた。「お前が好きだ……。生意気で、俺を振り回してばかりなのに、そんなお前のことを、たまらなく愛しく感じる」 ふいに裕貴の両手が頬にかかり、顔を覗き込まれる。照れたように笑いながら、裕貴がぽそぽそと囁くように言った。「そういう言葉、もっと言ってよね。優しいくせに、そういうところ鈍感だよね、啓太郎って。なんで彼女と長続きしなかったのか、わかる気がする」 「うるさい。それと、……努力する」 裕貴と少しでも長く、心地のいい関係を続けていきたいから――。 さすがにキザすぎて、この台詞は口には出せない。ただ、心の中で強く願うだけだ。その想いが通じたのかどうか、裕貴が首にしがみついてきたので、軽い体を受け止めながら啓太郎は厳かに提案した。「……ベッドに行
薄い肩をぎゅっと掴みながら、思わずこんなことを口にしていた。「俺は、お前が引きこもりをやめたら、反対に今度は、俺がお前を部屋に閉じ込めるようになるかもしれないな」 啓太郎の率直な言葉に裕貴は目を丸くしてから、次の瞬間には、からかうように頬を突いてきた。咄嗟に自分の発言を後悔したが、もう遅い。 裕貴が目を輝かせながら、伏せた啓太郎の顔を下から覗き込んできた。「――啓太郎ってもしかして、独占欲が強い?」 「お前、何聞いてくるんだ……」 「だって今の言葉、おれを外に出したくないってことだよね。お前を、俺だけのものにしたい、って告白じゃないの?」 「……どういう耳をしてるんだ。お前の耳は」 裕貴の両耳を引っ張りながら、機嫌が悪くなったふりをして誤魔化そうとしたが、じっと見つめてくる裕貴の眼差しには勝てなかった。「おれが可愛いから、外でふらふらされると、心配でたまらないんだろ」 冗談のつもりで裕貴は言ったのかもしれないが、否定できない。啓太郎は大きくため息をつくと、裕貴の両頬をてのひらで包んでから、髪に唇を押し当てる。「お前はなんだか、しっかりしてるようで、危なっかしい」 「少なくとも、啓太郎よりしっかりしてると思うけど」 「そういう意味じゃない。お前が本気になったら、お前を甘やかしたい奴はゴロゴロと出現するんだろうな。そしてお前は、甘え上手だから――」 「誰かれかまわず、ついていきそう?」 ひどい言い方だと自覚しつつも、啓太郎は肯定する。一方の裕貴は、怒るどころか、機嫌よさそうに声を洩らして笑った。「大丈夫だよ。おれの人見知りは筋金入りだから、引きこもりをやめたとしても、簡単に誰かと仲良くなったりしない。それに、浮気はしない性質なんだよ。こう見えてもおれ、けっこう一筋だよ」 その発言は反則だ。啓太郎はあっさり裕貴に翻弄されてしまう。 裕貴をしっかりと両手で抱き締めると、ぼやくようにこう洩らしていた。「……俺は、恋愛にはのめり込めないタイプだと思っていたんだけどなあ……」 「好きすぎて困る?」 「うん、と答えたら、俺たちは立派なバカップルだぞ」 「えー、いままでだって、その片鱗あったじゃん」 体を離した啓太郎は、裕貴の顔を真剣な表情で覗き込む。「そうか?」 「自覚なかったの」 顔をしかめた啓太郎に対して、裕貴は笑いな
「寒い……」 そう洩らして裕貴がドアの隙間から身を滑り込ませてくる。啓太郎はドアを閉めながら、率直に疑問を口にした。「お前、先に自分の部屋に戻らなかったのか」 「だって、おれの部屋寒いもん。電気がついてるの見えたから、啓太郎が帰ってきてるってわかったし、だったら、まっすぐこっちに寄ったほうがいいだろ? 部屋が暖かいんだから」 「……もう少し、可愛げのある言葉はないのか、お前……」 現金な裕貴に呆れながら、部屋へと上げる。ダッフルコートを脱ぎ、マフラーと手袋を外した裕貴は、すぐにコタツへと潜り込み、幸せそうな表情を浮かべる。その様子に、思わず啓太郎の口元は綻びそうになるが、寸前で堪えた。 裕貴を待ちながら、ずっと啓太郎を苛んでいた感情は、こんなことでは消えない。「実家のリフォームのことで出かけてたのか?」 キッチンに立って湯を沸かしながら問いかけると、隣の部屋から気の抜けたような声が返ってきた。「そうだよ……」 「お前一人で――そんなわけないか」 啓太郎の呟きが聞こえたわけではないだろうが、裕貴が言葉を続ける。「リフォーム会社の人に実家を見てもらって、それでいろいろ相談しながら見積りしてもらってたんだ。といっても、話してたのは兄さんばかりだけど。おれなんて、立ち合う必要ないんじゃないかな」 裕貴はわかって言っているのだろうかと、啓太郎は苛立ちを覚える。博人は、ただ裕貴と一緒の時間を過ごしたいがために、実家に呼んだのだ。 実家のリフォームというのは、いい理由だ。工事の進捗状態を確認するため、と言っては、何度も裕貴を呼び出せる。裕貴にしても、博人がいるのならさほど身構えることなく出かけられるはずだ。何より、実家に顔を出し続けることで、里心がつくかもしれない。 そうなることを啓太郎は恐れているが、行くなとも言えない。 コーヒーを入れたカップを手に隣の部屋に行くと、裕貴は仰向けで寝転がっていた。どうやら疲れたらしい。「メシは食ったのか?」 カップを置いてから、啓太郎もコタツに入る。「うん……。兄さんと食べてきた。――……懐かしかった。子供の頃、よく兄さんと行ってたレストランなんだ」 ぼんやりとした表情で話す裕貴だが、視線はまっすぐ天井に向けられている。何かを考え込んでいるようだ。「楽しかったか?」 啓太郎の問いかけに、やっと裕貴
** 夜も早い時間帯のせいで、道路はどこも混んでいた。ハンドルを握りながら啓太郎は、早く帰らなければと思いながらも、一方で、裕貴もじっくり髪を乾かせるだろうと考える。 手触りがよく柔らかな裕貴の髪は、自分で適当に切っているということで、惜しいことに不揃いだ。いつか、きちんとした美容室に連れて行って、美容師に切らせたいのだが、さきほどの電話の様子では、当分無理そうだ。 もっとも、裕貴が普通に外に出られるようになったら、そのときは自分たちの関係も変わってしまうだろう。 そう考えた途端、啓太郎の胸に嫌な感覚が広がった。裕貴との今の関係をなくしたくないという自分勝手な願望を、このとき初
すぐには啓太郎は、裕貴の言葉の意味がわからなかった。「はあ?」 「だからさ、今の羽岡さんの言葉を聞いてると、おれってけっこう条件にぴったりじゃないかと思ってさ。今だって金もらってメシ作っているんだから、時給について考慮してもらえるなら、いくらでもオプションをつけてあげるよ?」 「オプションって、お前な……」 どう見ても、裕貴は男だ。 啓太郎は身勝手な『時給制の恋人』について、前提として『彼女』と言ったはずだが、裕貴はあまりその点について重要視していないらしい。そうでなければ、男の裕貴が自ら名乗りをあげるはずがない。 啓太郎の視線は無意識に、裕貴の胸元に向けられる。トレーナーの
行動を見透かされたことが恥ずかしかったわけではない。その行動に至るまでに、裕貴のことを考えてしまった事実に、後ろめたさを覚えてしまったのだ。 浅ましい欲情に、少なからず自分の存在も影響を与えていると裕貴が知ったらどんな顔をするか。そんなことを想像した啓太郎は、すかさずこう思った。 裕貴に知られたくない。 バカにされるとか、メシを食わせてもらえなくなるとか、そんな気持ちからではない。ただ、軽蔑されたくなった。「バカ、そんなんじゃない……」 「誤魔化さなくていいよ。いいじゃん、男同士なんだから、おれだって羽岡さんの切ない事情はわかってるよ」 裕貴がそんなことを言っても、まったく説得
**** 珍しく休日出勤のない日曜日、昼前に起き出した啓太郎は部屋の掃除をしてから、特にやることもなくパソコンに向き合っていた。 これまでなら、面倒ながらも食料のまとめ買いに出かけるところだが、裕貴の部屋でメシを食うようになると、そこまでの切迫感もなくなった。 わざわざインスタント食品の世話になったり、弁当を買ってきたり、仕事帰りにどこかの店に立ち寄らなくても、定食代程度の金さえ出せば、温かくて美味いメシが出てくる。 それに、裕貴は生意気ではあるが、話し相手になってくれる。 これまで考えたことなどなかったが、部屋で一人でメシを食っていると寂しいのだ。そのことを自覚したのは、裕







